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第四十五話 秘密の計画

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「シャリッ、シャリッ」久しぶりの米の感触に身体が震える。米を一粒一粒丁寧に水で洗うと、真っ白なとぎ汁が流れ出す。それを手早く数回繰り返した後、米をしばらくの間水に寝かす。うるち米よりもち米の粒は白い。学生時代に安い米をよく買って食べていたが、普通の米粒の中にもち米が混じっていたのを思い出す。安い米では美味しくないので、食感を足すためもち米を足していた。


 うるち米と違いもち米は、水で炊くだけでは美味しく食べられない。米を炊くのではなく蒸す作業が必要になる。台所で試行錯誤を繰り返しながら何とか蒸す形まで準備が出来た。火加減は揚げ物で培った経験を十分に生かした。玄関から物音が聞こえたみたいなので覗きに行く。レイラが家に帰ってきた。


「き、今日は帰ってこないといってたんじゃねえのか?」


 声が少しだけ裏返ってしまった……。


「仕事があまりにも早く片づいてしまった」


 ニシシと笑い、靴を掃きすてにして部屋に入ってくる。彼女の後ろ姿を見ながら声を出す。


「靴ぐらいちゃんと並べなさい!」


 母親のようだと苦笑した。


 いつの間にか、レイラ達と家に一緒にいるのが当たり前のようになっている。空き部屋にはそれぞれレイラ、ルリ、テレサ三人分のベットが用意されシェアハウスと変わり無くなっていた。ドラマや小説とは違い、彼女たちはいつも仕事で外出しており、四人全員が顔を合わせる事は少なかった。


 暫くすると、ルリとテレサも家に帰ってきた。どちらも予定が変わって早く家に戻ってきたそうだ。


「飯は用意してないんで、あり合わせだぞ」


「おっちゃんの作る料理は美味いんで何でもいいさ」


 レイラが床に寝そべりながら答えた。


 そこで急遽、鍋の中に異世界の根野菜と鳥肉をぶっ込んで、酒とたまり醤油で味を調えたなんちゃって肉じゃが料理を作った。テーブルに大鍋を一つ置いて、各自ですくって食べるという、なんともおおざっぱな夕食である。肉じゃがをお洒落に盛りつけたところで、あっという間に食べられてしまう。俺が何度もおかわりをよそうぐらいなら、はじめから鍋の中にお玉を入れ、セルフサービスにした方がゆっくり飯が食べられた。

 

 俺は彼女たちの豪快な食べっぷりを暫く静観した。隙を見て台所の炊きたてのもち米ご飯をこっそり木の椀に入れて悦には入る。今日彼女たちは家に帰って来ないといってたのが、それぞれの理由で予定より早く家に帰ってきた。俺は彼女たちのいない日にもち米を食べるつもりだったのだ。


「おっちゃん何たべてんの!」


 レイラが目敏く、肉じゃがのお椀の中にこっそり米を入れて食べていたのを見付かってしまった。俺はこんな物美味くないけど、身体のために食べているとうそぶいた。彼女は疑いのまなざしで俺を見たので茶碗を差し出した。彼女はスプーンで米をすくって食べる。


「…………んんん!?」


 なんとも微妙な顔をして自分の肉じゃがを食べ始めた。それを見ていたルリとテレサも一瞬にして関心を失った。俺は自分自身が咄嗟に立てた作戦に自画自賛した。米なんて味がついていなければ美味しいと思う訳がない。米の旨味がなんて日本人はいっているが、それは米食に馴染んでいるからこそ言えるのである。


 俺はご飯に生卵をいれ、たまり醤油を少しかけ食べた。うるち米の食感こそ違えど、米を食べている幸福感は十二分に味わえる。トロリとした生卵とご飯のハーモニーに酔いしれた。そんな様子を三人は腐った魚のような目で見つめた。


「「「ジャンケンポーイ」」」


「くー、負けてしまった……」


 テレサがお俺の茶碗から、スプーンでご飯をすくい恐る恐る口に入れる。レイラとルリがそのリアクションをみて爆笑している。固まるテレサ――


「ん……美味しいぞ!?」


「役者だよな!」


 レイラは膝を叩く。


「いや、この食べ物は本当に美味いぞ」


 そういって茶碗のご飯をもう一度口に入れた。それを見たレイラとルリも卵かけご飯に恐る恐る手を出し、目をつむりながら口に入れる。


「「う、美味い!」」


俺はこれと同じことがあった事を思い出し、背筋が冷たくなった……。


 彼女たちに卵かけご飯の美味しさを知られた……。俺は目の前が真っ暗になった。更に不味い事に、テレサがご飯と肉じゃがを食べると美味しい事まで発見してしまった! その後の事は語る事もない。翌日からご飯を夕食に出すように強くお願いをされてしまっただけの事――


 俺はその夜、米びつの中のモチ米が、一ヶ月で消えてしまうのを覚悟して枕を濡らした。

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