第三十話 ドワーフ王国【後編】
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食卓の前で俺は大きなあくびをする。
「昨日は眠れませんでしたの?」
「宿題を夢中にやってたら朝になっちまってたよ」
彼女は笑いながら朝食を並べている。
「やっと起きたか」
ノエルが眠そうな顔をして椅子に座った。
「それで武器とやらは出来たのじゃな?」
「ああ、飯を食ったら見てくれ」
テーブルの上には美味そうな肉が置かれていたが、朝から肉はきつい年になってきたことに一抹の寂しさを覚えた。それでも、彼らが美味しそうに食べている姿を見ると、食欲がわきだして腹の中に収まってしまった。朝食を食べ終えた後、彼を椅子に座らせたまま工場に置いてあった物を取りに行きく。
「夜なべして造った武器だ」
ノエルはそれを手に取り不思議そうな顔をした。そこで俺はこの武器の使い方を話すと、真っ青な顔に変わった。
「おい、これはもしかしたらとてつもなくヤバイものになるんじゃねえか!」
「まあそうだな……」
「儂が納品している軍の部署ではちと荷が重い話になりそうじゃ」
「悪い話ではないと思うので、少しばかり骨を折ってくれ」
軽く頭を下げて助力を乞うた。
「昼までに話を付けて戻ってくる。しかし、また仕事が遅れそうじゃ」
そういって、いつものように豪快に笑った。
昼を少し回った辺りで、家の前に大きな馬車が止まったのを窓から見ていた。中から軍服を着たドワーフがノエルと一緒に馬車から降りてくる。しばらくしてリズに呼ばれて客間に通された。俺はこれから始める久しぶりのプレゼンに緊張した。
部屋に入ると早々、軍服を着た男から
「ブレイブ騎士団のコメットだ。ブレイブ侯爵から軍の運営を任されている」
「静岡音茶だ、おっちゃんと呼んでくれ」
握手を交わした。
「クロスボウと鐙を見せて貰った。特に鐙には驚かされた。しかもそれ以上の物があると聞いて飛んできた」
俺は出来たばかりの有刺鉄線を取り出し、ノエルに片方を持って貰い伸ばしてみた。
「刺のついた只の針金にしか見えないのだが」
「ああ、その通りだ。この鉄条網を戦線の前に張るとする。そしてその後ろに人が入れるぐらいの塹壕を掘って戦う。刺に気を付けてこの有刺鉄線を押してみてくれ」
彼は恐る恐る有刺鉄線を押してみた
「引っかかるが、それがどうしたというのか?」
「これが手で千切れるか? これを切ろうとしている間に塹壕から弓を撃てばどうなる? この一見弱々しそうな二重にねじ曲げた針金が屈強なリザードマンを簡単に足止めできる。弱点を先にいうがこの有刺鉄線の上に布や板をかけたり、傷ついたリザードマンを壁にして、この有刺鉄線を超えてくる可能性はある。しかし、初見だと想像してみてくれ」
「うーむ! この簡単に見える仕掛けが、戦局に大きく関わってくるな!」
「しかも、さっき見たというクロスボウと鐙を組み合わせれば、次の戦いで負けると思うか?」
「それは向こうがこの武器を知らないというのが大前提だ。失礼な話で申し訳ないが、人間がリザードマンに荷担していたとしたらどうなるか子供でも分かるだろ」
「確かにそれは一理ある。俺とノエルの出会いを聞いて、この武器をエサに貴国を罠におとしめる可能性を考えてそう結論づけたなら、部外者の俺はもう何も口出ししないさ」
「さすがに直ぐには結論が出ない話だな!」
「結論を早くすればするほど、勝ちに繋がると思うが」
そういって俺は笑った。そして、この有刺鉄線を引くだけの土木技術に特化した工兵部隊の概要を説明し、俺のプレゼンは終了した。最後に彼は問うてきた
「なぜこの武器をドワーフと関係ない人間が教えてくれるのだ?」
「小遣いかせぎと友のためかな」
そう言ってうそぶいた。コメットは俺を見てニヤリと笑い家を後にした。
「この話は大きくなるかの」
「俺にも分からんよ、ただこれを使えば戦争に勝てることだけは確かだ」
「とんでもない男を拾って来てしもうた」
やれやれといった顔をして俺を見上げる。
「拾ったのは俺の方だ」
二人で声を出して笑い続けた。
何の連絡のないまま数日が過ぎる。やることもないので、リズと買い物に行き荷物ちをして暇を潰していた。買い物から帰ると、家の前は物々しい雰囲気に包まれている。
「すいませんが、コメット団長から貴方を至急本部まで連れてくるように頼まれまして」
「これは断ることが出来るのか?」
衛兵は言葉に詰まる。
「来ては頂けないのでしょうか?」
「あまりにも早急な話だったので言ったまでだ。行くのは問題ないが、俺はノエル氏の家でやっかいになっているので説明だけはお願いしたい」
数人の衛兵を置いて、俺は馬車に乗せれられコメットに会いに行くことになった。馬車に一時間弱揺られながらある屋敷に着く。屋敷の前には大きな門があり、そのまま馬車が入っていく。馬車は屋敷の前に横付けにされて止まった。俺は衛兵と一緒にその屋敷に入った。その屋敷の中に入るとデジャブを感じる……そうだデブリンの屋敷と同じ匂いがするのだ。コメットに呼ばれたので軍関係の建物と思っていたが、ここはかなり位の高い人物が住んでいることに確信を持った――何があろうと腹をくくるしかない。
衛兵が扉を叩くと中から入れという声が聞こえた。中にはコメットの他に真っ白な髪をしたドワーフがいた。
「急に呼び出して申し訳ない……詳細はブレイブ侯爵が説明してくださる」
俺は頭を低く下げ
「静岡音茶だ。おっちゃんと呼んでくれればいい」
そういって右手を差し出した。
「この都市を任されているブレイブだ、そして案内させたのが息子のゲルヒムだ」
衛兵と思っていたら侯爵の息子であった。
「先日、預かった物を検分したが、かなり戸惑っておる……正直に話すが人間が何故これを持ち込んだのか理解に苦しむ」
「小遣い稼ぎと友のためと、コメットに話したはずだが……」
彼は納得していない顔をしながら話を続ける。
「聞いておる……これらは小遣いというレベルを大きく逸脱している。はっきり言ってしまえば、これだけで戦局は我が国に大きく傾く」
「俺が言った言葉に嘘はない。違いがあるとすれば、もし最初にあった友がリザードマンであれば、彼にこの武器を伝えたという事実だけだ」
「人間に伝えるのが先だとは思わんのか?」
「元々俺はモンブラン帝国の住人ではない。どことも争っていない現状でこんな技術を伝えたところで得をすることは何もない」
「それは我が国でも同じ事がいえるんじゃないのかの?」
「ああ、少々痛いところを突かれたが、これをノエルに伝えたということはドワーフ国に俺が味方をしたと思ってもらうほかない。これを使うのが怖ければ、そのまま戦をすればいい話だろ」
俺はそう言って笑った。
「お前たちは、今の話を聞いてどう思う?」
「私は信じても良いと思います。これが罠だとしたらあまりにも回りくどいですし、この技術を伝えず自分たちで使った方がよほど理にかないます」
「お父様、私も同意見です」
「俺の知っているドワーフは、一杯の酒を酌み交わせば友になるが、この国のドワーフは違うのか?」
俺はどや顔を決めてみた。
「ブハハハハ、儂の負けじゃな。コメットよ早急に動き出せ!」
彼は一礼して部屋を出て行った。
「なが話に付き合わせて悪かった」
鈴を鳴らしてメイドを呼ぶ。扉が開きしずしずと高そうなケーキとお茶を運んできた。鈴の音だけで主人の意向が分かる高性能メイドを、自分も一人欲しいと思った。
「もう一つ貰って良いか?」
「ああ構わんよ」
鈴をまた鳴らす。メイドが美味しそうなロールケーキを運んできた。俺は日本でよく食べていた、ヤマザキのロールケーキの味を思いだしてフフフと笑った。三人のいい年した男がケーキを食べながら談笑している。
「クロスボウの量産は、間に合いそうか?」
「今朝、サンプルとして持ってきた弓矢の出来は素晴らしかったです。ただ、量産するにあったって、乾燥した木が足りないのでどうにかならないかと言われました」
「山から切っただけでは駄目なのか?」
「水分が含みすぎて使い物になりません」
「材料が無ければ絵に描いた餅になってしまったな」
「ここに沢山材料があるじゃねーか!」
二人は不思議そうな顔をして顔て俺を見つめた。
「まあここの建材が使えないなら話は別だが……これだけ大きな国ならクロスボウに使える家なんて幾らでも探せると思うが……」
ゲルヒムは眉をしかめながら
「この家を潰すとは失礼なことを!」
「命と家を天秤にかけて家を取るバカ息子か」
しまった! 口が滑ってしまった。俺は恐る恐るブレイブ侯爵の顔をチラ見する。
「ククク、これは目から鱗だわ。息子よ、もう少し大人になれ。家を潰して国を救ったとなればこれほど安い買い物はない」
俺は真っ黒なブレイブ侯爵にほっと胸をなで下ろす。しかし、最後に俺がここを無事に出られるかは微妙だと感じた。
「そろそろ、ノエルが腹をすかせて待っているので帰りたいんだが」
「もうそんな時間か……楽しい時間を過ごさせて貰った」
「それは良かった。ケーキでも持って帰れば、少々遅れても許されるさ」
俺は通じないと思いつつ、パチリとウインクした。
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