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第二十九話 ドワーフ王国【中編】

ブックマーク、評価ありがとうございます。

 大理石で出来たテーブルの上には、焼いた肉塊が豪快に置いてあった。それを思い思いの大きさに切り取り食べるのがドワーフ流らしい。肉には香辛料と塩で軽い味付けがされており、この肉に味付けをするために、何種類ものつけダレが用意されていた。


 一つ一つのタレに工夫が凝らされており、家ごとに味の違いがあるという。日本で食べられる焼き肉のタレというより、パスタに掛けるソースという感じだ。俺は、舌鼓を打ちながらノエルに武器屋での話をした。彼はのんびりと、この国を楽しんでくれと快く泊めて貰うことになった。ここからどうして帰るか少し不安はあったが、先ずはこの国で楽しもうと、酒を酌み交わしながら思った。


 翌朝、夕方までは家に戻らないとリズに言い残して市場に直行する。頭の中は、まだ見ぬうるち米で一杯になっていた。とりあえずもち粉を取り扱っている店を探すが、意外と見つからない。二十分ほど歩き回り、ようやくもち粉を置いている店をみつけた。店主にうるち米の話をしたが、首を左右に振られ落胆する。そういうことを数回繰り返しても良い情報が得られず、昼は完全に過ぎていた。殆どの店を回った俺は、諦めムードが漂い心が折れ掛けてきた。


 もち粉を手に入れることが出来ただけ良しとするかと、気分を変えるため屋台で腹を満たすことにした。良い匂いに釣られてある屋台に引き寄せられた。そこには磯辺焼きのような四角い餅を網で焼いている屋台があった。俺はそこで餅を買い、うるち米のことを尋ねてみる。半分諦め気味だったのだが、その店主はうるち米を売っている店を知っていると言う。俺は手に持った餅を落としそうになった。教えて貰った店は市場ではなく別の場所にあるという……。


 簡単な地図と住所を書いてもらい店を探す。先ほど買った餅を食べるとソースで味付けされていた。料理に醤油をかけたらソースだった――そんな日本人あるあるを思い出す。


 初めての土地なのでみつけられるか心配だったが、もらった地図が正確であったので、何人かに尋ねると、直ぐにお目当ての店に辿り着いた。店には色々な豆や麦らしき穀物が樽に入れら並べられている。その中の一つに白くて小さな粒――うるち米が売られていた。俺は心の中でむせび泣く。


「これはこめ粉の原料だな」


 店主は軽薄な笑いを浮かべ


「よく知ってますねお客さん! これはもち米でやんすよ」


 気っぷのいい声で答えが返ってきた。


「他の種類の米は売っているのか?」


 しばらく、あごに手を当て考えた末


「あっしがこの商売を始めてから、もち米以外見たこと無いっす」


 俺はガックリと肩を落とした――


「この米を頂きたいのだが、種籾も手に入らないか?」


「少々時間を掛ければ手に入りやす」


 否定的な答えが返ってくると想像していたので拍子抜けした。


「どのくらい掛かるんだ?」


「次の取引が来週なんで、10日ばかし待ってもらいやしたらいけるでやんす」


 俺は前金で半分支払い種籾を買うことにした。もち米の在庫はあるということなので、ドワーフ国を出立する前で良いと考えた。


 この国に来て運が回ってきたことに気をよくして帰路につく。ただ、もち米の重さを考えると、ここまでの道のりを思い出し少しだけ憂鬱にもなった。 


*     *     *


 この国に来て観光でもしようと思ったが、恥ずかしい話、異世界にきてから自分の街でさえ殆ど知らない。そんな俺が異国に来て、はい、観光してきますと簡単に出来るはずもない。結局は部屋の中で漫然としているだけであった。そこでノエルに薬草を狩りに行きたいと話すと意外な答えが帰ってきた。


「済まんがそれは少し難しいの、政治的にピリピリとした状態でお主が街を出入りするとスパイ活動と思われてしまうぞ。ボウアの稼ぎだけでは足りないかの?」


「ここで売っている品はどれも魅力的で、金が幾らあっても足りない。それに観光する柄でもないことに今更ながら気づいたわ」


「ふはははは。暇なら儂の仕事でも見といておれ」


「今日はそうさせて貰おうか」


「ああ、従業員の邪魔にならないところならゆっくり見てくれ」


 工場の中ではボウアの皮が加工されていた。ノエルはその皮を型紙に合わせ切り取りとってミシンで裁縫していた。ガシャ、ガシャ、ガシャと、足踏みミシンから懐かしい音が響く。ノエルはミシンを止めわざわざ説明してくれる。


「軍隊用の外套じゃよ。ボウアの黒い皮を使うのが上級士官のトレンドじゃ。」


「鱗が光に当たって良い感じだな」


 また心地よい機械音がミシンから流れる。俺は従業員の邪魔にならないように工場内をうろうろ歩き回った。そのとき一つのひらめきが降りてきた。空いてある机に座りそこらに落ちてあるガラクタを使いある物を作り始めた。背中を叩かれるまで時間を忘れて物作りに没頭していた。


「昼飯の時間じゃ、リズが旨い飯を作って待っとるぞ」


「もうそんな時間か」


 俺たちは昼食を頂くために部屋に戻った。


「そういえば作業場で黙々と何をつくっていたんじゃ?」


「金の元になりそうな物だ」


 そういって先ほど作っていた作品をテーブルの上に置いた。


「弓の玩具のようじゃが」


 俺は皿に載った果物を一つ手に取り、テーブルの端に置いた。「ブシュ」果物に楊子が刺さる。ノエルは感嘆の声を漏らす。


「クロスボウという弓を知らなかったか」


「ほー、弓を台座に固定するだけで、弦に力を貯めたままいつでも楊子を発射させる見事な仕組みじゃの。これを大きくすればかなり強力な弓矢になりそうじゃ」


 小さな爪楊枝クロスボウを手にとって、爪楊枝を飛ばしている。俺はこの玩具を見せて、この力の大きさを一瞬で理解したドワーフの眼力に光を見いだした。


「これを騎馬から騎射させるとかなりの戦果が期待できる」


「しかしの、馬上に乗るだけでもコツがいるのに、簡単に飛ばせる武器とはいえそこまでの力は感じられんぞ」


「そこでこれを描いてみた」


「ほーう……馬がうまく(・・・・・)かけておる」


 ――――。俺は馬の腹についている馬具を指さした。


「鐙という馬を扱いやすくするアイデアだ」


 さすがにこの絵を見て、ああなるほどと理解はされなかった。俺は馬の鞍に取り付けたロープを、皮で作った輪を足で引っかけ操作する補助具であることを丁寧に説明した。


「これを作れということか?」


 俺の意図を汲み取り、少し乾いた目で笑われた。


「まあ、そんなに難しい物では無さそうなので、作れるだろうが馬は必要じゃの」


「ああ、そういうことだ。だからこのクロスボウを見せた」


「これはお前たちの国で使われているのか?」


「いいや……ノエルが知らなけりゃ初めてこの世に生まれた道具さ」


 彼は目を見張り驚きを隠さなかった。


 昼食を直ぐに終わらせ工場に戻る。クロスボウを見た従業員の食いつきは凄かった。


「仕事がまだ立て込んでいるというのに、なんて物を持ち込んだんじゃ」


 そういいながらも、ノエルは従業員の一人に馬を借りてくるように頼んでくれた。


 工場内ではどよめきが起こっていた。馬の鞍に簡単に取り付けている即席馬具を使った騎乗者が絶賛していた。


「この馬具を使うと、馬に乗っていても踏ん張りがきくのに驚いたぞ!」


 サスペンションが発展していたドワーフが、このチートアイテムを知らなかったことに胸をなで下ろす。俺は彼らの反応を見ながら、彼に耳打ちをした。


「これは撒き餌だ……これより凄い物を俺は用意できる。それを判断できる王国の偉いさんにつなぎを取って欲しい」


 彼の顔色が変わった。結局この日は半日、工場の作業は止まってしまい、翌日にもちこされる仕事量に涙する従業員の姿を想像できた。彼らが帰った後、俺は先ほどの続きをノエルに打ち明ける。


「明日の朝までに、その武器のサンプルを作る。それを踏まえて俺の頼みを聞くか答えを出してくれ」


「クロスボウと鐙だけでも凄いと思うのじゃが、その先に待ってる何かを想像すると震えが来そうじゃ」


「酒を飲んでいないから、震えてるだけじゃないのか」


 俺は乾いた声で、からからと笑い飛ばす。


「そうかもしれん……腹が減ったので飯にしようか」


 俺とノエルはジョッキを合わせて、明日の成功を祈って一気に酒を飲み干した。

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