友達という概念の基準に対する論理的証明
友達の基準とは一体何によって定められているのだろうか?
――僕は友達が少ない。
こう言うと、まるでとあるライトノベルの題名のように聞こえてしまうが、事実友達が少ないのだから仕方あるまい。
だが、誰もが一度は思ったことがあるのではないだろうか? 友達の基準とは何なのだろうか――と。
さて、友達の基準について語る前に、初めに恋仲について話したい。恋仲とは、片方が好きな相手に告白し、相手がそれに同意することによって、成立する関係のことである。
――だが、告白せずに、相手の同意を得ていない場合、それはただの片想いと呼ばれるものになってしまう。たとえ、両想いであったとしても、お互いにそれを表示しない限り、相手には通じないため、それを恋仲と呼ぶのは相応しくない。お互いに片想いをしているだけだ。
さて、それと同じことが友人関係にも言えるのではないだろうか? まず、ただのクラスメイトや軽く話す程度の関係は友達ではないだろう。そして、一方的に友達だと思っていたとしてもそれは友達ではない。それは、恋愛における片想いと同じ状態だ。
以上のことを踏まえると、誰かが「友達になってください」と言って、相手がそれに了承した場合に限り、友人関係は成立するのではないだろうか?
――この意見を人に述べた時、なんと言われるだろうか? 考えるまでもない。「その考え方は間違っている」だ。だが、具体的にどこがどのように間違っているのかを訊ねたところで、教えてはくれないだろう。要は、友達がいると自分で信じていたいから、友達の存在を否定するような僕の考え方に反対したかっただけなのだ。
ちなみに、僕の考え方を友達の基準とした場合、友達がいる人間はどれだけいるだろうか?
「友達百人できるかな?」 寝言は寝て言え。
「愛と勇気だけが友達さ」 うむ、実に謙虚でよろしい。
ちなみに、僕には友達がいる。
出会ってから数週間で、「俺たち友達だよな?」 と言ってきたガラの悪そうな男だ。放課後にはよくゲーセンに行く。ちなみに、全額僕持ちだ。
まぁ、簡単に言うと、虐められているだけだ。だが、別に暴力は振るわれていない。僕の金と労力だけが、彼と友達になる対価のようなものだ。――つまり、友達とは金で買えるのだ。まったく、人間とはどれほどまでに醜い生命体なのだろうか……。
この『友達』ができたことにより、僕は、友達なんてものが要らなくなった。
夫婦は離婚が出来るし、カップルは別れることが出来る。友達も、絶交ができる。
さて、ここで考えるべき問題は、友達との絶交に相手の了承が必要かどうかだ。
夫婦が離婚するには相手の了承が必要だ。テレビで誰かがそんなことを言っていた。
カップルが別れるには了承はいらないだろう。そもそも付き合ったことすらないから分からない。
ならば、友達は――?
まぁ、金で買っているようなものだから、金の供給を止めれば向こう側からこっちのことを無視してくれるようになるだろう。つまり、絶交に相手の了承は不要だ。
放課後のショートホームルームが終了し、生徒に自由が与えられた。
担任の教師だけが職員会議があるからと言って、足早に退場していった教室内で、僕は、唯一の『友達』との縁を切ろうとしている。
「おい、今何て言った?」
「聞いてなかった? もう君に金を貸す気は無い。あ、ごめん、言葉間違えた。そっちに返す気はないみたいだし、今まで貸してたと思ってたのは僕だけだったね。まぁ、とりあえず、これからは君に金を渡さない」
『友達』の顔が――いや、元『友達』の顔がみるみる赤くなる。まるで、青色リトマス紙に酸性の液体は付着させた時のようだ。
一瞬にして、先ほどまでざわざわしていた教室が静まる。まるで、自分がこの世界の中心に立っているかのようだ。
「ちなみに、好きにキレてくれても構わないけど、その場合、こっちが圧倒的有利に立つ。さすがに、馬鹿な真似はしないよね?」
「……あっそ」
まだ怒りに顔が赤いが、これで絶交は成立したはずだ。
元『友達』は、怒っている雰囲気を出すかのように、大股で教室から出て行った。
――これで、僕には友達がいなくなった。
だが、元々孤独だった。友達なんて、別に――。
「面白いヤツだな、お前。アイツに逆らうヤツとか、俺初めて見たぜ」
名前は覚えていないが、確かクラスの中心グループのリーダー的な男子が話しかけてきた。
「あのさ、お前ってさ、いつも黙ってて話しかけにくい雰囲気プンプンだったせいで、話したことなかったんだけどさ、もし良かったら、俺と友達になってくんない?」
「――え?」
「なんて顔してるんだよ? 俺、そんなに変なこと言ったか? 一応言っておくけど、俺は他の人から金奪ったりはしねーからな」
「僕なんかで良ければ、喜んで」
なんだ。友達なんて、勇気があれば作れるんじゃないか……。