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その二

 シルクの案内でアリエッタは街道から外れ、森の中へと入っていく。

 最初は少し怪しいとも思ったが、よくよく考えれば亜人であるエルフの祭りが堂々と開かれるわけないのでむしろ自然かもしれない。


 そのままシルクに導かれるまま歩いていくと、急に視界が開けた。


 おそらく、他人を近づけないために視界をごまかすような魔法をかけていたのだろうが、そうだとしてもあまりに唐突に会場が現れたものだから、アリエッタは驚いて目を見開いてしまった。

 その表情を見たシルクは十分に満足できたようでにやにやと笑っている。


「驚いていもらえたようね。これがエルフの魔法の実力さ。まぁどこぞの大妖精には及ばないけれど……」

「大妖精の知り合いがいるの?」

「いるさ。大事なお客様がね」

「相変わらず商売相手が多いのね。あなたたちは」

「ほめ言葉として受け取っておくよ」


 大妖精といえば、かなり貴重な種族だ。

 少なくとも、アリエッタはその存在を見たことがないし、どこにいるかという情報も全くと言っていいほど聞いたことがない。

 もっとも、エルフのように人間を含めた人類相手に商売をして、世界を渡り歩くという方が珍しいのかもしれないが……


「それで? この広場はかなり広いけれど、祭りの会場らしきものはないように見えるのは気のせいかしら?」

「気のせいじゃないよ。念には念をっていうだろ? 祭りの会場は二重に結界が張ってあるんだよ。だから、もう一つ越えれば到着だ」

「もう一つね……簡単に言ってくれるけれど、さっきの結界もこれだから今度もそれなりに強力なんじゃないの?」


 アリエッタが尋ねると、シルクはにやりと笑みを浮かべる。


「何を心配しているのさ。私がいればちゃんと入れる」

「まぁそうでしょうね……それにしても、よくこんな空間を急に隠せるわね。不自然がられたりはしないの?」


 アリエッタはかなりの広さを誇る広場を見て、抱いた疑問をぶつけてみる。

 そもそも、この空間自体を隠すことはできても、人をどこかへ転移させるようなことはできないし、小さな空間を大きく拡張する魔法というのはかなり高度なものだ。それこそ、大魔法使いと呼ばれるような人たちの領域である。


 エルフは魔法にたけている種族として有名だが、だからといってこれほど高度な魔法を易々とこなせるなんてことはない。できるとしたら、エルフ商会の元締めであるカシミアを始めとした長老たちぐらいだろう。


「その辺は大丈夫さ。今回の祭りにはそれなりの立場の方々が参加される。だからこそ、強力な魔法による結界が成り立っているといっても過言ではない……まぁその分だけいろいろと複雑な事情があるから、何とも言い難いけれどな」

「ちょっと、エルフ同士のいざこざとかに巻き込まれたりとかないでしょうね?」


 シルクの含みがありそうな一言にアリエッタが眉をひそめる。

 その様子を見て、シルクは小さく笑みを浮かべた。


「心配するなよ。外から来たお客様にまでそれを見せるような連中じゃないさ。それになんかあっても私たちで何とかする」

「……そう。ならそれを信じさせてもらうわ。私だって、この荷物のことを含めて厄介ごとは大嫌いだし」

「そんなに厄介なのか? その荷物」

「……依頼主も届け先もちょっと厄介なところなのよね……中身については知りたくもないけれど」


 言いながらアリエッタは背中の荷物に視線を送る。


「それにしても大荷物だな。依頼主はどこぞの豪商か?」

「答えるわけないでしょ。一応、そういう仕事なんだから」


 アリエッタの返答を聞いたシルクは深くため息をついて後頭部に手を回す。


「……なるほどね。アリエッタを運び屋代わりに使うあたり、立場がどうだとかじゃなくて、知り合いかもしくは旅の支援をしている人間って考えた方がいいかもな……それとも、お金をいくらかつかまされたか?」

「……どれだけ聞かれたところで答えないわよ。信頼問題になるから」

「信用問題の間違いじゃないのか? まぁいいや。どっちにしてもしゃべってくれなさそうだし、祭りの会場にも到着だ」


 シルクの言葉と同時に視界がいったん暗転し、続いてたくさんのやぐらが並ぶ祭りの会場へと到達した。

 どうやら、もう一つの結界とやらも認識阻害の類だったようだ。


「……よくこれだけのものを巧妙に隠すわね……」


 その広大な祭りの会場を見て、アリエッタはそんな声を漏らす。


 どうやら、思っていたよりもいくらか大きい祭りのようだ。ついこの間、とある祭りに参加したのだが、それとは比べ物にならないほどの規模である。

 櫓の周りを見てみれば、祭りの準備をしている人や食べ物から何やら怪しげな商品を陳列している人、それを品定めしている人など、大きな活気に満ち溢れている。


「これはすごいわね……本当に」

「だろ? でも、雨祭りのメインイベントはもう少したってからだ。それまでゆっくりと会場を見て回るか」

「えぇ。そうしましょうか」


 アリエッタは物珍しそうに会場を見回しながらシルクの言葉に答える。


「それじゃついてきてくれ。とりあえず、関係各所へのあいさつを済ませないとな」

「……えぇ……そういうのあるの?」

「あるに決まってるだろ。ほら、それさえ終われば、祭りの会場を好きに見ていいから。とりあえず、まずは主催者のところからな」


 めんどくさいだの、私の自由はどこへ消えただの文句を垂れ流すアリエッタを引っ張ってシルクは歩き始める。


「そういうのはちゃんとしてもらわないと困るから。変な態度はとらないでよ」

「そういわれると、そうしたくなるんだけど、もしかしたら、そういうことをしたら結構まずい?」

「そうだな。どの程度まずいかと聞かれると、アリエッタの頭と胴体が別れを告げざるを得なくなるほどにはまずい。そもそも、亜人の祭りに人間がいるという事態があまり好ましくないからな」

「……だったらなんで連れてきたのよ……」


 シルクの表情を見る限り、下手をしたら首と胴体が別れを告げるというのはあながち間違っていなさそうだ。

 だったら、なぜこんな場に連れてきたのかと聞きたいところだが、それを聞いたところで答えてはくれないだろう。


「……全く、厄介なことになったわね……」


 アリエッタはシルクに聞こえない程度の声量でつぶやく。


「アリエッタ。そろそろだから心の準備と化しておいた方がいいぞ」


 少し前を歩くシルクからそんな声がかかったのはちょうど、そんなタイミングだった。

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