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王女様のお正月

 さる王国は、地球のどこかにある、小さな小さな王国です。

 優しくて酒癖の悪い大王様と、上品だけどおっちょこちょいな王妃様、元気溌剌でガサツな姉王女、そしてとても可愛いけれども少しいけずな妹王女が、沢山の民に囲まれて暮らしておりました。

 それは、十二年前の物語。

 今のさる王国は、その頃とは少し変わっているようですね。

 大王様は何年か前に世界一周だが十周だかの旅に出て、姉王女様は隣の山の……違った、隣の国へと嫁いで行きました。

 今、王国のお城に居るのは王妃様と妹王女様――面倒くさいので、これからは妹王女様のことを「王女様」と呼びましょう。どうせ、姉王女はそうそう何度も出て来ませんし――その、王女様の二人。後は、王女付の侍女であるリッツと大臣であるカール。その他の今は名もないエキストラたちが王国を盛り上げておりました。

 一年を通して四季がある王国には、いつも季節の花と緑と、そして笑顔が溢れております。

 花が好きなのは王妃様で、花の世話をしているのは王妃様の他には庭師のポッキー。でも、その花をお城中に生けるのは王女様のお仕事でした。

 お正月ともなれば、大変です。

 ただでさえ花が少ない時期なのに、立派なものをエントランスや多目的ホールに飾る必要がある上に、各々の小さな部屋にまでこころざしを生けるのが、さる王国の流儀。でも、生けるのが王女様なので、ワンパターンになるのは否めません。

「可愛いけど、だいたいどの部屋も同じよね」

 去年、侍女のリッツがこっそり呟いた言葉は王女様の心にふかく、突き刺さっておりました。

 その上、ワビサビを愛した大王様の影響か、お城にある花器は地味なものが多く、王女様の気も乗りません。

「何か、面白い容れ物はないかしら?」

 花を無造作に放り込んだバケツを「どっこらしょ」と床に降ろして、王女様は倉庫を漁ります。花器でなくても、使っていない食器でも良い。何かこう、今までとは違うものが。

 王女が、そう願った時の事でした。

 ポチャン。

 そんな音に振り返りますと、お花を詰め込んだバケツに、見慣れない何かが入っています。

 手に取ると、ガラスで出来た靴でした。

 シンプルなつくりのハイヒール。色はスミレ色で、つま先に行くほどに色濃くなっています。王女様は、ひと目でそれが気に入りました。

 これこそが、自分が求めていた花器なのだと思い、つま先の部分に一番小さな剣山をセットして、水を差しいれます。

 水を入れてみて解ったのですが、やはりつま先部分はかなり色が濃くなっており、外から見れば剣山さえもはっきりとは確認できません。それは、好都合なのですが、今度は生ける花が問題です。王女様は、バケツの中の花たちをじっと見つめます。

 ピンクのバラが可愛いけれども、もっと他に、何か。こう、紫の靴にぱっと映える、何か。

 ああ、そうだ。白い水仙が良い。一重の水仙の花を数輪。葉っぱの形も生かして。紫に白で、可愛くしかも、大人っぽく。王妃様の寝室に飾ろう。

 確か、お庭にあった筈。

 王妃様はガラスの靴を大切そうに胸に抱き、お城の庭に向かいました。


「ああ、それ。それよ!」

 お庭で、いつものように花がら摘みをしていた王妃様が、王女を見て大声で叫びます。

「お母様? どうなさったのですか?」

「それ。その、ガラスの靴。ずっと探していたの。片方しか見つからなくて。王女が見つけてくれたのね。ありがとう」

 と、王妃様は王女様の手からガラスの靴を取り上げます。

「あ、でも、待って下さい。あ、行っちゃった」

 人の言うことなんか聞きもしないで、小躍りしながら、王妃様はどこかに行ってしまいました。

 靴の底には水が入っている筈なのですが、少量だったので気が付かなかったのかも知れません。



 我に返った王女様が慌てて後を追った、その先で。

 王妃様の、すさまじい悲鳴が聞こえたとか、何だとか。

「画鋲が、わたくしのトウシューズに、画鋲が」

 とかなんとか、よく解らないことを王妃様が口にしていたとか、何とか。


 そんなこんなで、さる王国の新年は、始まりました。

 王国は、今年も平和です。

おまけ。



 さる王国の、お正月。

 王女様は、ふたつ隣の国の日下部王子様と初詣の約束をしていました。

 それなのに、宮廷行事に捕まってしまいましたよ。

「王女、今年の抱負を言いなさい」

 王妃様に促され、王女様はしぶしぶ、重鎮たちの前に立ちます。

「今年の干支は申。世の中には「見ざる聞かざる言わざる」という言葉があります。日本国の日光東照宮の「三猿」は有名ですね。それに、「せざる」「考えざる」を足して「五猿」とも呼ばれています。これはつまり……まあ、そんな難しい話はどうでも良い。私は、女の子です。だから、『視たい』『知りたい』何より『見知った事を、話したい』! というか、この「いっちょ噛み」からそれを取っては何も残らない。それに、王女だって生きています。だからもちろん、『した』……」

「王女、そこまで」

 ずっと側で「位置について」状態で待機していたリッツがスタートダッシュで王女の口を塞ぎます。

 王女は、顔面にリッツの平手を受けて昏倒してしまいましたが、リッツを咎める人はだれも居なかったそうです。


 王国は、やっぱり平和です。

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