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親友カメ  作者: 渡辺正巳
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 カメは少々、いや、かなり変わった子供だった。先ほども述べたようにカメは小柄で、教師の前や人前では一見おとなしい子供だった。しかし、気を許している仲間である私などと一緒にいるときは、その実、教師をバカにし、クラスメートを見下し、世の中をなめきっていた。そして、小学生の頃からどこかニヒルな言動が身についていて、何をするにも必死になろうとせず、斜にかまえて本気を出さずにいるのが常だった。


 例えば学校の試験にしても、必死になって自主的に勉強などしたことが無かった。と言っても決して頭が悪いわけではなく、この話からは後のことになるが、中学校時代の成績は、学年二百人中二十番台くらいを維持していたから、むしろかなり良い方だった。しかしだからと言って努力をしてより良い成績を取ろうとするわけでもなく、ただその二百人中二十番台を大して勉強せずに取ったということを、ひそかに自慢しているという風だった。要するにカメにとっては試験の点より、「ガリ勉」と呼ばれないようにすることの方が重要なのであった。


 その態度は小学生の頃から変わらず、私とカメはテストでたまに七十点以下を取ると(小学校のテストでは、実際私とカメはなかなか七十点以下の点は取らなかった)、お互いそれを見せ合って、こんな点を取るのは何かの間違いだといわんばかりに下校途中にびりびりにテスト用紙を破いて、道路の脇にある下水道のふたの隙間に捨ててしまうのだった。そうして八十点以上のテストだけ親に見せて、「テストで五十点以下を取るヤツの気が知れない」という風に、他のクラスメートをバカにして、自分の地頭のよさを鼻にかけているのだった。


 運動においてもカメのニヒルな態度は変わらなかった。小学校で毎年行われる持久走大会では、カメと私は事前に「本気を出さず一緒に走ろう」と約束しあい、二人並んでだらだら走って、そうして結局私が途中で約束を破って本気を出し、カメより先にゴールしてしまうのだったが、カメは一人でしっかり遅いペースを守り、ずっと後になってゴールするのだった。


 そんなカメだったが、彼にもひとつだけ情熱を注いでいたことがあった。それは、遊びだった。テレビゲームにしろ外遊びにしろ、カメは夢中になって――つまり、本気になって――遊ぶのであった。私などと何かをして遊んでいると、すぐムキになって、負けでもしようものなら涙を流すことさえしばしばあった。


 カメの「遊びへの情熱」について、私が今でも鮮明に覚えていることがある。それは私たちが小学校五年生だったか六年生だったかの冬に起きたことだった。


 その頃、私やカメやその他仲の良い友達の間では、「カッチャク」という遊びがおおいにはやっていた。


 カッチャクというのは、要するに缶けりの缶を柱で代用した遊びである。一人の鬼と、複数の逃げる者に分かれて、鬼が守る柱を一本決める。逃げる者は鬼が数を数えているうちに身を隠し、鬼は柱を守りながら逃げる者を探す。鬼が逃げる者を見つけ、柱に先にタッチをすると、見つかった者は捕まってしまう。しかし、鬼より先に柱に到着し、タッチをすれば、タッチをした者とそれまでに捕まっていた者は解放され、再び逃げることができる。柱にタッチをする時は、鬼であれ逃げる者であれ「カッチャク」と言わなければならない・・・。


 この遊びが、小学校五年生だったか六年生だったか、そこは忘れてしまったが、とにかく冬の寒い時期、私たちの間ではやりにはやったのである。私たちは昼休みになると、校庭に飛び出し、昼休みが終わるまで、何人かで毎日このカッチャクをして遊んでいた。


 そんな日々の中の、とある昼休みのことである。その昼休みも私とカメと他数人の友達は、いつものようにカッチャクをしていた。タッチをする柱は、校庭にあるサッカーゴールのポストの片方に決めていた。その日は私がじゃんけんで負けて、鬼だった。


 その日私は鬼としてずいぶん強く、また運も良かったのだろう、次々と友達を見つけ、捕まえていた。そうして逃げる者でまだ捕まっていないのはカメだけになった。全員を捕まえれば、鬼は交代となる。私はがぜん気合を入れてカメを探した。


 しかし、校庭の中でここに隠れているだろうというところはあらかた探したのだが、カメの姿は見当らなかった。のみならず、私がいくら守っているゴールポストから離れ、隙を見せて誘っても、カメは出てこないのである。


 いたずらに時ばかりが過ぎ、やがて昼休みが終わるチャイムが鳴った。私たちはカッチャクの終了を、チャイムが鳴るまでと決めていたから、これでゲームは終わりであった。私は私が捕まえた友達に、終わりにすることを告げ、その友達らと連れだって教室に帰り始めた。


「カメ、出てこなかったね」


「そうだね、どこに隠れてるんだろうね」


そう皆で話しながら、チャイムが鳴り響く中、校庭を歩いていた時だった。


「かっちゃあああああく!」


 大声が私たちの背の方から響き渡った。私たちが振り返ると、カメがものすごい勢いで走り、ゴールポストが「びいん」と鳴り響くほどの強さでタッチをした、まさにその瞬間なのだった。そのままカメは勢いあまって転び、しかしものすごい勢いで走っていたのですぐには止まらず、三回転ぐらいぐるぐると体を縦にして転がった。土ぼこりが、ゴールポスト周辺に立ちのぼった。


 私たちが駆け寄り、「大丈夫?」と口々に声をかけると、カメは地面に転がったまま、息を切らし、私たちを見上げて、一言、


「チャイムが鳴り終わるまで、カッチャク続いているよな?だから今の俺のカッチャク、セーフだよな」


と言った。


 その、カメがゴールポストにタッチをしてすごい勢いで転がって行く瞬間や、タッチがゲーム終了前になされたと認められたところで何がもらえるわけでもないのに、「セーフだよな」と言い張ったときの彼の必死なまなざしは、十数年経った今も、いくぶんのおかしみをともないながら、私の両のまぶたに焼き付いて離れないのである。

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