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親友カメ  作者: 渡辺正巳
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 私の小学校時代の親友であるカメは、私からも、私以外の同級生からも、果ては担任の教師にまで、「カメ」と呼ばれていたが、それはもちろんあだ名であって、本名は笹崎文孝ササザキフミタカというのだった。


 カメがカメと呼ばれるようになったのは、本人がそう呼んで欲しいと言い出したからであり、そう呼んで欲しいと言い出したのはカメや私が小学校三年生だった時の、とある日のホームルームでのことだった。


 その日、学校の授業が終わり、帰りのホームルームの時間になると、当時私たちの担任をしていた四十過ぎの女教師が、


「今日は笹崎君からみなさんにちょっと話があるそうです」


と言い出した。そうして女教師は自分の席に座っていたカメを教室の前の方に呼び、皆の前に立たせた。それから女教師が言うには、「笹崎君は今皆から文孝という名前をもじって『ふーみん』と呼ばれている、それが嫌なんだそうです」ということだった。


 その時カメは担任教師の隣に立って、その小柄な体をじっとすぼめるようにしてうつむき、女教師の説明を聞いていた。そうして女教師に、


「そうだよね?嫌なんだよね?」


とうながされると、こくりと小さくうなずき、


「・・・『ふーみん』は、細川ふみえとかぶってるから」


と付け加えた。


 ということなんです、皆さん、これからはふーみんと呼ぶのはやめてください、と担任教師は声を張って教室中に伝えた。すると、斉藤君という男子生徒が、おずおず手を挙げて、こう言った。


「でも、今までずっとふーみんと呼んで来たから、ふーみんを、いや、笹崎君をなんて呼んだらいいかわかりません」


 これはもっともな意見であった。私たちクラスメートの大半が斉藤君の意見を支持するような雰囲気になり、教室は嫌な静寂に包まれた。担任教師はちょっと困ったような顔をして、


「笹崎君は、なんて呼んで欲しいの?」


と、カメ本人に助けを呼んだ。するとカメはしばらく間を置いた後、例のうつむき加減のまま、


「カメ」


と呟いた。


「カメ?カメって呼んで欲しいの?」


 担任教師が呼びかけると、カメは間違いなく、こくり、こくりとうなずく。教室が一瞬、あっけに取られたような空気になって静まりかえり、それから、暖かい爆笑が渦巻いた。言われてみれば、カメは首が長い上、その首を伸ばすように猫背のうつむいた姿勢でいつもいるので、その姿が動物の亀に似ていないでもないのだった。


 とにかくこの時から、カメはカメと皆から呼ばれるようになった。だが親友であった私にとっては、彼がふーみんであろうが笹崎君であろうがカメであろうが、そんなことはどうでもいいことだった。人間は一生のうちにほんの何人かだけ、親友というものを得られるのだとしたら、カメは間違いなく私にとっての親友の一人だった。小学生時代、私とカメは昼休みも放課後も、それこそ毎日のように遊んだ。お互いの家を行き来したり、公園に行ったり、あるときは他の友達を誘ったりしたが、どこへ行って何をするにしても、私とカメとは一緒だったと言っても過言ではない。

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