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かけっこ

作者:A-9
 サアやってまいりました十月十日は目の愛護デーか銭湯の日か、いやいや今日は釣りの日に御座いますとて取り出したる釣り竿の先には万国旗。アラと首を傾げてみるに十月十日は体育の日。空は絶好の運動会日和に御座います。皆様の願いが天に届きましたお陰様で雲一つ無い青空、まるで空の大洪水ですわアハハハ等とご機嫌の校長の下、生徒の四分の一ほどはてるてる坊主を逆さに釣るし、雨雨降れ降れと囃し立てながら親に向かって駄々をこね、運動会など疲れるやいだのお肌が焼けて傷んでしまうわだの口々に愚痴りに愚痴った悪行祟って迎えた晴天に陰気を隠せず。空が晴れれば地上は曇る。天気と餓鬼坊主は思い通りにならないとはまさにこの事。
 そうして始まりましたは運動会。かけっこリレーに組み体操、騎馬戦玉入れ玉転がし、たまの休みは応援団。魂燃やして取り組みます。
 さてここにいますは六年一組早野龍太。名前の通りの足早さ、参加種目はかけっこ一本、一年に一度の晴れ舞台、駆ける事こそ生き甲斐なれと言わんばかりの意気込みよう。彼にとっての運動会とはかけっこあるのみ。あとの時間は寺で座禅を組むが如し。
 そんな早野を睨みし男は六年二組の早川虎男。足の速さは早野と早川、常々間違われしを憎し憎しと憎みて憎み、募る思いは打倒早野。勝って錦を故郷に飾るとニヤニヤ笑った煮っ転がし顔。
 火花を散らした二人を前に、しなしな顔の六年三組亀田九郎。足の遅さは並ぶ者無く皆追い越しては振り返り、「亀だ、亀だ」とからかわれる事六年間、最後の舞台は清水寺か。たとえ勝つ事かなわずとも一矢報いて終わらせたいと、武者震いを見せたと思えば、緊張しました失礼と便所に急ぎ走りたるは情けなし。
 ハイハイ並んで並んでコラコラ列を乱すんじゃアない練習通りやれば出来るからハイ音楽に合わせてイッチニイッチニと行進曲に乗って入場、サアこれより始まる種目はかけっこにて御座います。元気に駆けるお子様方に、皆様応援の声を掛けておあげになって下さい。ハイイッチニイッチニ全体止まれ。それでは位置についたらヨーイ、ドン。ピストルの音が鳴れば走者達はゴールめがけて一直線。オヤ最初の組は手をつないで一斉にゴールインですよ、近頃は何事も無理矢理に優劣を付けてはいけないと言う事で組毎に話し合って選択させているようで御座いますと言えば通信簿で優劣を付けることこそこれ如何にと疑問の声。テストも通信簿も皆手と手をつないで仲良くゴールイン。幸せな社会で御座いますねホホホホと笑えば周囲も釣られてホホホホあらやだホホホホそんな世の中になってしまってはホホホホ、ホホホホ……。
 そんな内にも順番巡っていよいよ早野と早川勝負の時。二人の影にすっかり隠れた亀田の甲羅。位置について見る先はゴールテープのその又向こう、それは悲劇かはたまた喜劇か終わってみてのお楽しみ。用意の声で体を落とし、ドンの合図で地面を叩く。勝負はここに始まりけり。
 一組早野は名前の如し、天翔る龍を思わせる。その姿形はくねくねと、風を味方にくねくねくねくね、雲無き空も、龍の後には雲を残す。苦も無き勝利はそこに見えるか。いやいやそうはいかんと怒りの形相、二組早川獲物を追う。我は獣よ竹林の虎よ。龍を追う虎月に啼く。気付いた龍は飛び上がる。ホレホレ虎に空は飛べるまい。貴様に勝てる相手じゃ無いわ。龍の姿が月に影を作る。何をくねくね色男。虎とて執念あらば月をも飛び越えて見せるぞよと勢い付けて飛び上がれば月に叢雲花に風、月ごと龍を飛び越える。これにはたまげた早野龍。されど天地は我が味方、万物の精出で来給えと神通力を持って呪をかければ虎の四方を崖が囲む。その頭上を悠々と飛び越せば待てや早野と虎の牙、龍の尻尾をくわえて離さず。おのれ手出しをするとは性根の腐った奴。何を神通力を用いたは貴様が先。龍は神獣、神通力を用いる事に何の問題があろうか。ならば虎は獣、獲物を狩って何が悪い。小癪な。糞くらえ。二人の走者は組んずほぐれつ。勝者は早野か早川か早野か早川か早野か早川か早野か早川か……。
 のろのろと音がする程ゆっくりと走る男は三組亀田。亀は万年生きると言うが今にも死ぬるこの心地。早野早川に少しでも追いつこうと思ったが過ち、コース半ばで力尽きてはゼイゼイはあはあゼイはあゼイはあここらで一体何メートルじゃ、心臓がはち切れてしまうわい。ゼイゼイはあはあ。必死に動かすその足も、重力に負けて上げづらい。いやもうだめだ諦めよう、小学生運動会で走りすぎて死亡。マアなんと阿呆らしい。足が速いだけが男じゃない。エエイやめだやめだ。心の声に急かされるままに足を止めようとするもブレーキすらかからない。ゼンマイの切れるまでは動きを止めない算段か。ならばと動きに任せて止まるを待てば、徐々に聞こえる周りの声。キャアだのワアだの悲鳴としか聞こえぬその中に、「亀だ、亀だ」と囃す声が混じる。それを聞いた亀田、人の精一杯走るを亀だ亀だと馬鹿にするとは悔しいかなと思えばその後に「亀田、がんばれ、亀田」と聞こえる。アレこれはもしかしてこんな自分を応援する人があるのか、と、聞けばその声段々と大きく聞こえるように思える。「六年三組の亀田君、これまで一度も一位はおろか、二位を取った事もありません。しかし、そんな亀田君が今、精一杯ゴールへ向かって走っています」余計な事まで言うんじゃないと恥ずかしく、されど力をもらった応援に、もう一踏ん張りと足を上げ、ゼンマイ回して走り出す。ゼイゼイはあはあ、がんばれがんばれ、ゼイはあがんばれ、がんばれゼイゼイはあはあゼイゼイはあ。
 さて、重い足をやる気のクレーンで持ち上げて、三組亀田がようやくゴールに近づいた。サアサアゴールテープをお切りなさい。サアサア。もう気力も限界じゃ。もしやスタートからこれまでの間に万年も過ぎたのではあるまいか。もう限界じゃ限界じゃ。慣れぬ応援に思わず喜び無理をしてしまったが、考えてみればゴールテープなど切っても嬉しくもない。何より努力しているというだけの理由でゴールテープをわざわざ張って切らせようという魂胆が気に食わぬ。努力を笑われるのは好かんが結果を出せぬ努力を評価される等以ての外、そのようなくだらぬ褒美で万年の命を持つ亀が満足するとでも思ったか。エエイくだらぬ。こんなゴールテープなど我が胴を以てズタズタに切って打ち捨ててくれるわ。おのれ、切れよ。エエイ。
 ゴールテープはまっぷたつ。とはなるまいが、とにかくゴールに三組亀田。亀田やったぞ万歳万歳とクラスメイトの大歓声。さすがの亀田もこれには驚き、エエイそんなに自分の遅さが楽しいか。さぞや満足であっただろう。遅し遅し、三組の亀よ。他人の苦労を感動の種にでもしていろと、息も整わぬ中で切れ切れに喚いていると、それを聞いたか聞かぬかクラスメイトの一人が肩を叩いて後ろを指さす。フンと鼻息荒く振り返ればコース半ばで睨み合う龍と虎。睨み合いけるのみなれば周囲の人間止めるに止められず、今に至れり。アラもしかして亀の勝ちで御座いますか。左様左様亀の勝ちに御座います。アラそうで御座いますかアハハハ。亀は勝負所に強う御座いますな。アハハハ。アハハハ。
 晴れの青空は次なる走者を迎え、やがて後々の競技を待つ。されど三人の運動会はこれにて終われり。

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