98、愛されない子ども・3
見開いたままのオウジの黒い瞳が、そのまま凍った。
冷たく果てしない闇が 胸に生まれ
それは体中に、
更に 体をも突き付けて 広がってく。
そしてその闇もまた、
オウジはよく知っていた。
憎悪
悲しみ
孤独
怖れ
淋しさ
それらが色濃く 混ざり合ったその闇の中心に
オウジの心臓があった。
そして、そこには
恐ろしく強力な吸引力が 働いていた。
「・・・・!!」
そこでは ブラックホールのように
あらゆる負の感情を 吸い寄せて、
それを絶対的な 炎へと、変換しているのだ。
この時、オウジは知った。
思い出した、と言う方が近い。
自分の体に染みついていた、
よく知っているこの 灼熱のエネルギーこそが
オウジの創造力の 全てだったのだと。
―― そうだ・・ 。
オレは
オヤジに捨てられた 悲しみと、
愛されてない欠乏感を
怒りの炎 に変えて・・・
曲を作ってた・・。
歌って たんだ・・・!
「そーだ!
オマエが歌って来たのは、
テメエの欠乏感を 埋めるタメだ!!
アタマの悪りぃガキ共に 神か魔王みたいに崇められ
そのイカレた賛辞を
愛の代わりに喰らう事で
なんとか 生きてきたんだろ?
だからヤツ等が ラリって殺し合おーが
ヒナが死のーが
カンケ―ねーよなァ 」
「なっ・・・ 何 を・・!」
「だって 歌わなければ
オマエは 何の価値もない
ただのちっぽけなガキだって バレちまうからな!! 」
「!!!」
「ククッ・・
ヒナを殺したのは、オマエだ!
ガキ共を狂わせて ヤツ等のエネルギーを かき集め
怒りと 悲しみと
絶望の炎で 歌い続け
自分自身まで 灼きつくしても
その炎を手離さなかったのは、オマエだ!
オマエ自身じゃないかっっ!!!」
「 ・・・・・ ! !
オレが ・・
・・このオレが、
全て 創りだした・・ ・!? 」
心臓を 衝撃の刃がつらぬいた。
オウジの膝から 力が一気に抜けて、
彼は その場に崩れ落ちた。
決して見ようとしなかったが、
いつも
胸の奥に巣食っていた
果てしなく
何もない がらんどう。
そこにいる、ひとりぼっちの
誰からも愛されない 自分。
「 怒りも 憎しみも・・・ ?
オレが
歌うために作り出して・・
オレが 歌うために
手放さなかった
っての か・・・ ? 」
どうしようもない敗北感に、似た霧が
ただただ、黒く降りそそぎ
オウジの胸に 降り積もる。
この認めざるを得ない
漆黒の空虚を
オウジは、
確かに知っていたのだ。
無数の霧の粒子が
オウジの銀に染めた 髪を濡らし
涙のように、頬を濡らした。
黒のライダースを身に着けた
あの日のオウジが、
全ての表情を忘れてしまったように
冷たく見下ろしている。
「でもオレ・・
もう そこにいても
歌えねんだ・・」
誰に言うともなく、
オウジは 最後の言葉を絞り上げた。
「アッハハハハッ!!
そうさ! 歌えねーよ!
サイテーの笑いグサじゃねーか!!
ガハハハハハッッッ 」
黒のライダースのオウジが
のけぞるほどに嘲笑い、
忌まわしく汚れた風が、2人の間に舞い上がった。
「オマエにはもう
何の価値もねーんだ!!
美津子の言うとおり、粗大ゴミさ!
地下道で 野垂れ死んでるドブネズミの方が、
ずっと、ずっっとマシだぜ!!」
「 ・・・・・ っ 」
返す言葉は、残ってなかった。
自分自身の 声なのだから。
「愛だぁ? 光だと?
寝ぼけたコ、ト抜かしてんじゃねーぞ!!
オマエに愛される価値なんか
あるわけねーだろッッ!!」
黒いライダースのオウジが、
その形相に 凄まじい憎しみを湛え、
自分自身への呪いを叫ぶ。
体中から、前に進むための
エネルギーが朽ちてゆくのを、
オウジは見ていた。
力を無くしたその隙間に 無力感が
ひたひたと、
沁み込んでくる。
何もない 歌えない
愛される価値など
あるワケがない
オマエに 似合うのは
ホラ
果てない 絶望だけだ !
ひややかな闇の中から 聞こえてくる
その声を
どうにもできず
ただ、オウジは浴びていた。
「 ォ ウ ジ・・! 」
再び堕ちた 深い霧の中に
遠くどこからか、
透き通る声が、した。
「 ・・・ ヒ ナ・・? 」
「 それ が本 当のオウジな の? 」
「 え ・・・ 」
「 そうしてそのまま、 ずっとそこに いるの?」
「 ホントの
・・オレ? 」
オウジは、顔を上げた。
「 違う・・
違う
オレは変わらなきゃいけない
変わりたいんだ・・・!」
オウジは、探した。
―― ナンかないのか・・
見えない闇に、手を伸ばし
前に進むためのキーワードを
魂の 言葉を
―― ナンか ・・・ !
心を研ぎ澄ませ すべての感覚を
ひとつにして。
『 シヴァは
破壊と
創造 の 神
何もかもを 壊した後
キミは
何を 歌うのかな・・・ 』
―― 何を歌う?
・・何を
・・ ?
・・!
細胞の何処かが 記憶していた
その言葉が、
胸の中に、ひとつ
小さな波を起こした。
オウジは両手で その胸を抱え込んだ。
小さな波のバイブレーションを、追いかける。
すがる思いで、自分自身に問いかけた。
まだ
何かできるだろうか?
これからオレは
まだ何か 創れるだろうか?
眼を開けると、灰色にけぶる霧の中で
2人の小さなオウジが、座り込んでいる自分を
同じ高さで見つめてる。
悲しみと 怒りを映す、4つの黒い瞳。
今 目の前にいるこの子等に
オレはナンか
できるだろうか・・?
オウジは、フラフラと立ち上がった。
そして子ども等に近寄ると、
10歳のオウジを引き寄せ
幼いオウジと、2人一緒に抱きしめた。
ただ、抱きしめた。
体が勝手にそうしてた。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




