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97、愛されない子ども・2





行くしか道はない。 




前に、 前に進むしか。


                

  

残っている勇気らしきものをかき集めて、振り絞る。




その最後の一滴を信じて、


オウジはクモの糸に 手を伸ばした。





じっとり湿ったその糸が、あざけるように 


オウジの体に絡みつく。





「うわッ・・!」





たちまち全身に広がった糸が、オウジを締め付けてくる。




どろりと澱んだ 腐敗の臭い。


恐怖のニオイ。






「クッソおぉッッ!!!」 





オウジはぐにゃぐにゃと纏わりついてくる


メタリックの糸を、引き千切った。





「どけッッ!!」






あとからあとから、腰に、足に、体中に



際限なく絡みついてくる糸を千切り、


もがき、かき分けながら 少しずつ



オウジは進んだ。





メタリックのクモの糸は、



オウジがジャラジャラと身に着けている


アクセサリーと


同じ銀の 材質で出来ていた。





「 コレって ・・・・ ? ! 」






ふと、気づいた。





その、人を寄せ付けない、暴力的な輝きは



中にある


大切な何かを 護ってるのだ。        






――  何があるんだ・・




  この中に・・?






さらに凝縮された 腐敗のニオイが


肺の奥まで入り込み



吐き気が込み上げた。




背中を冷たい電気が 駆けていく。




 



『 クククッ・・


いーのかよ 進んでも・・?



オマエに 見る勇気なんかあんの? 』






卵の中から響いてくる 厭わしい声には、


耳を貸さない。



オウジはもう一歩、前に進んだ。






『 やめとけ やめとけ  似合わねーって。 



オマエみたいな 弱っちードブネズミ、

ボロぞーきんみたいに 野垂れ死んだ方が


カッコいい“伝説のロッカー”で 終われるぜぇ?



クククッ・・ 』





「うるせええッッ!!」






思いきり、叫んだ。




手に絡まっている糸が、


しゅわりと溶けて蒸発し 灰色の空気の中に散る。






―― 進む・・・。







オウジの意志が


光となって



胸の真ん中に 集まってくる。







――オレは、


絶っ対に、進むんだ!!!








オウジの体から四方へ、八方へ 


真っ紅な熱が 放たれた。




メタリックの糸が


徐々に力を失って



空気の中に 溶けてゆく。







  「   ブチ壊せ・・!








   ブチ壊せっっ !!!  」







その言葉が、



オウジの声のエネルギー




糸をつたい



クモの巣全体に広がってゆく。





巨大な卵型を 形どっていたクモの糸は、



シュウシュウと音をたて、やがて柔く、


細く姿を変え、霧と化し




半分ほどが、


溶けてなくなっていった。







  『 ・・・・・ 』








小さく



声が聴こえてきた。





誰かが、すすり泣いてる。







「 ・・・子ども ? 」








まだ蒸気を上げている、半分溶けたクモの巣の内側に、


小さな扉がついていた。




古びた、 どこか懐かしい扉。





ゴクリと唾を呑みこんで、


オウジはドアに 手をかけた。






そっとドアを開くと、





そこには最初のモヤの中にいた


2歳か3歳の幼いオウジが、



ヒザを抱えて 座り込んでいた。






「 オ、オマエ・・  


なんで  ・・こんなトコに? 」





「だって、ボクが泣くと

お母ちゃんが困るもん・・」









ヤなモノを見た。




幼い頃、


オウジは母に見つからない場所を選び


泣いていたのだ。





「・・ナニ 泣いてんだよ」






わかっているのに、聞いてしまう。


幼いオウジが、涙でぐしょぐしょになりながら、


オウジを見上げた。






「どうしていなくなっちゃったの? お父ちゃん・・・」




「それは・・」





その小さな問いかけが


オウジの心臓をキュッと掴む。





と、オウジの背後に ぶわっと霧が舞い上がり、


二手に分かれた。

 


そして今度は、10歳ぐらいのオウジが 


その灰色の中から現れた。






「ボクの事、キライだからだろ?!

だからお父ちゃんは ボクを捨てたんだ! 


ボクの事なんかいらないんだ!!」






10歳のオウジの涙は、乾ききっていた。



代わりに彼は怒りの炎で身を包み、


その炎が、彼を護っていた。





燃え盛る火は、


たちまちオウジに飛び移った。






「う、うわッ・・!」





ゴオォッッと音を立て、炎がオウジを呑み込んだ。





「うわああぁっ!!」






そしてその炎は、胸の真ん中まで入り込み


さらに莫大な 燃え種とつながった。




炎が渦を巻いて


巨大な怒りの 火柱となり



イッキに 天高く燃え上がる。





「うあぁぁああ・・っっ !!!」






オウジは、もがいた。





熱い。



熱い。  熱い、 焼き尽くされる



胸が 赤く溶けちまう





苦しぃ ・・っ。






だが 劫火で焼かれ、もがきながら、


オウジはハッと 目を開いた。






この痛みを、




知ってる。






ずっとずっと、



オレの体と一体化していた 


焔じゃないのか。








『 そうさ 


それがオマエだ! 』





厭わしい声が、オウジを嗤った。





「コソコソしてんじゃねーよッ 

出てきやがれ、クソ野郎ッッ!!」






主の声が答える代りに、



どろどろに溶けて 広がっていた


銀色のクモの糸が動きだし、



一か所に 集まり始めた。





ひとつにまとまった銀の塊りが、


ぐにゃりとオウジの目の前に 立ち上がる。




そして、ぐにょぐにょと 動きながら


形を取りはじめ、



やがて人の形となった。








「よう、オウジ。」




「顔を見せろッつってんだよッ!!」






人型になった厭わしい声の主に、飛びかかる。




と、


その体を覆っていた 銀の塊りが


バリンッと音をたてて、飛び散った。





シルバーの破片の中から 現れたのは




髪を逆立て


黒のライダースジャケットを身に着けた、



あの日のステージの、オウジだった。






「・・・!!」





「ククッ・・


オマエが こんなトコまで来るとはなァ」






あの日のオウジの周りに、


憎しみの狂気が ゆらりと蠢いていた。






「なあ、


オマエは この炎の正体を、よく知ってるだろ?




いつもいつも、体中が


憎しみと怒りと、 



愛されていない欠乏感で

ハチキレそうだったじゃないか?    



だってオマエは、


オヤジに 捨てられたんだからな!」





「くっ・・」






「 でも どうだ、


オマエは この痛みを手離せないだろ?」





「な、 なにッ・・ ?」







鈍く、胸の奥が疼いた。




だが彼は、身構える間もないオウジに


その胸を貫くコトバを 突き刺した。






「この焔を失えば、

オマエはもう 何も創れない 


歌えない! 


 

誰からも賛辞されない  


崇拝されない




誰からも愛されない、




何の価値もない人間に

なっちまうんだからな!!!」







---------------------------------To be continued!





このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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