96、愛されない子ども・1
自分の口をついて出た その答えに
オウジは、愕然とするしかなかった。
―― ナニ・・?
いったい 何言ってんだ、オレは?!
だが、言葉は次々と 自分の口をついて出た。
「絶望しか 歌えない自分が 悲しぃんだ
歌って 叫んで
壊すことしかできない
こんなオレが
悲しんだ ・・・ ! 」
ヒナが、じっと見つめてる。
彼女は、ふと泣きたくなるような
懐かしい目をしてた。
「心のままに
何でも 壊しまくる子どもと同じよ。
オウジだけじゃない、
アタシ達 みんなそうだったじゃない? 」
そっと、その目を 彼女は閉じた。
「だからあんなに オウジに心酔したの。
我を無くして 狂気に身を埋めたのは、
アタシ達全員の 選んだ意思よ。」
「でもっ・・
オレがみんなを狂わせたんだ!
オレの憎しみに巻き込んで、オレが・・っ
ヒナを殺したんだ!!」
その言葉が口火となった。
目の前にいるヒナの首から 紅い龍が弾け、
真っ赤な血液が 溢れ出した。
「ヒナっっ・・!!」
とっさに伸ばしたオウジの手が、
ヒナの細い首の 傷を押さえる。
が、記憶を封じ、
無かったことにしていた罪の 紅い血は
オウジの指の間からみるみる溢れ、
ボタボタと 地面を赤く染めてゆく。
「 あぁっ・・ダ、ダメだ
と、 止まらない・・っ!!」
ガタガタと、震えながら必死に押さえる
その血だらけのオウジの指に、
ヒナが自分の手を、そっと重ねた。
彼女は、微笑っていた。
「大丈夫。 もう血は止まってるよ。」
「でも・・ でも・・ッ!」
「だって、オウジが希望をくれたから」
「 き・・ 希望・・・?
なに 言っ て ・・・ 」
ヒナはオウジの手を両手で掴み、
自分の首筋から降ろしてやった。
あんなに激しく流れ出ていた 血は止まり、
傷はもとの
天に昇ってゆく、龍の形にもどってる。
「オウジは アタシたちの英雄だよ。
悲しみも怒りも、絶望も
オウジならわかってくれる。
オウジなら、この闇をブチ破ってくれる!
オウジの 絶対的な強さが、
アタシ達には、たったひとつの光だったの」
「そ、そんなことあるか! そんなこと・・!」
「みんなで、オウジに恋い焦がれてた。 狂ってた。
・・・ 愛してたのよ。」
「ウソだッッ! そんなワケあるもんかっ!!」
何かが激しくこみ上げて、オウジは泣きそうになった。
「オウジだって、ホントは分かってたハズよ。
アタシ達、みんなでひとつだったじゃない」
「・・ウソだ・・・ っ
あ、 愛なんて
そんなの わかるもんかッ・・!」
愛してるなんて、言葉にしたコトはない。
そんな感情を持ち合わせたことなんて、ナイのだから。
なのに、溢れてくる想いには、
あまりにもたくさんの感情が ごちゃマゼで、
それがオウジの胸の中で 嵐のように暴れてる。
「チクショウ・・・ッ!!」
思わず抱えたアタマを、左右に激しく振った。
耳の奥で、声がする。
―― 愛してるよ オウジ君。
「うるせえ! うるせえッ!
愛なんて、軽々しくゆーんじゃねーよッ!!」
その言葉は、どうしても認められない。
認めるわけにいかないんだ。
「なぜ?
なぜオウジは愛を 受け取れないの・・?」
「なぜって・・・!」
ふわり、と
オウジの目の前のモヤが 浮き上がった。
そしてそれは、
命を得たように、動きだした。
灰色のモヤは
オウジを嗤うように、蠢きながら
みるみる 巨大なクモの巣に、姿を変えていった。
「な・・っ
・・なんだ?!」
ムクムクと蠢くクモの糸は、やがて大きな 卵型を作った。
シルバーメタリックの太い糸が
迷路のように、複雑に絡み合ってる。
それはヒトの体内組織のように
なまめかしく、ブキミに息づいていた。
オウジの全身が、ゾクッと冷たく強張った。
得体のしれない、
見てはいけない 何かがその中にあると
本能がカンジる。
よくみると、そのシルバーの糸には
様々なガラクタが 絡まってた。
小さい頃使っていた おもちゃのピアノや
子どもの頃、好きだった絵本。
拾ってきたガラスのかけら、
木の実、鳥の羽。
コリアンデリカテッセンの ハン親父に貰った
赤と青のロリポップと、
ヒナのハーモニカも 絡まっていた。
オウジの心臓がドクドクと、警戒音を鳴らしてる。
じっとりと生温かな汗が、背中に湧き上がってきた。
「中を見てみる?」
「な、中・・・?」
ム意識に、オウジは後ずさりしていた。
シルバーメタリックの クモの糸の中から、
奇妙な 嗤い声がする。
あの黒い夜にいた、自分の声だ。
『 クククッ・・・
アハハハハッ・・!
そうだ
狂え 狂え 踊り狂え!
どーせつまんね―人生なんだろ?
オマエ等みんな
喰らいあって死んじまえ! 』
「それとも、戻る?」
「・・・」
オウジがヒナを振り返る。
その眼は 確かにおびえていた。
『 なぁ オウジ 怖えぇだろ・・?
だってオマエは人殺しだからな。
ククッ 戻ればいいさ。
オマエに自分の狂気を 見つめる勇気なんて
アリはしねーよなァ? 』
―― 自分の・・
狂気・・・?
黒い怖れが、
オウジの力を奪ってゆく。
膝が震えた。
ああ ちくしょう、情けねえ。
でも、戻っていったいどうなんだ。
出口のない迷宮の中を
いつまでも 彷徨い続けるだけじゃねーか。
オウジは 履き古したミリタリーブーツで
地面を強く踏みしめた。
再びクモの巣に 視線を戻す。
その黒い瞳に、思いきり力を込めて。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




