95、もうひとつの黒曜石・3
その、南の海のように
明るく澄んだカイの瞳が 映してるのは、自分だと
今の今まで、思ってた。
そう信じていたかったのに。
「 オレじゃないんだ・・。
そうだ
出逢った時から、
アンタは そう言ってたんだ ・・! 」
『キミ、ちょっと似てるんだ
ボクの 妹に』
妹。
黒い服で身を隠し
ドラッグの世界に逃げ惑い
2度と逢えなくなってしまった
カイの 魂の片割れ。
「 アンタがオレの中に 見てるのは・・
アンタが、
本当に救いたかったのは、
ヒナ ・・ だよな・・? 」
真綿でクビを絞めるように、
じわじわと 痛みがオウジを苛める。
―― そうだ。
だって
オレが、愛されるワケがない・・。
苦しい。
オウジは心の中にいる彼に、 力なく微笑んだ。
「 知ってんだろ・・?
その片割れを殺したの、 オレだぜ・・? 」
カイの瞳が 小さく揺れる。
そしてその波が、彼の体中に広がって
カイの姿と やわらかなバイブレーションは
薄モヤの中に、
静かに
静かに散っていった。
もう2度と カイは現れない。
現実でも、夢でも
追憶でも
カイに逢う事は、もうナイ。
ああ、
胸の真ん中に
ブラックホールでも、できたみたいだ。
淋しさが、強烈に吸い寄せられて
凝縮されていく。
でも、進まなきゃ。
たったひとりんなったとしても。
そうさ、元々独りじゃないか。
オウジはカオを上げ、
どす黒く淀む 冷たいモヤの中に
もう一度、踏み出した。
一歩一歩確かめるように進んでゆく、
その小さな足取りの中で
オウジは聴いた。
誰かが、歌ってる。
お前の力を 取り戻せ
ホントの 姿を 思い出せ
お前の 魂の
声を 聴け
いつか聴いたことがある、
どこか、神々しい響き。
知っている。
この声と、
ずっとずっと昔から
オレは共に いたことを。
そして薄闇の 黒いヴェールが、
舞台の幕の様に
オウジの前に、立ちふさがった。
まぶたを閉じて、
オウジは震える 息を吐く。
この奥に誰がいるのか、想像がつく。
オウジの胸が、大きく脈打った。
力を込めて眼を開けると、
薄闇のヴェールが
ゆっくりと左右に分かれ
その向こうに、一人の少女が現れた。
黒のライダースジャケットをはおり、
右耳に3つ
左に4つの シルバーのピアスが、光ってた。
すらっと伸びた足が、
黒のエナメルパンツの中で
美しい筋肉の曲線を描いている その彼女は、
カイによく似た、
凛としたたたずまいで 立っていた。
「 よう、 ヒナ。 」
ヒナのライダースの襟元から覗く 白い首には
カイと同じ
龍の形の アザがついていた。
紅い血の色をしていた。
その、真紅と同じ色の唇で
彼女は頬笑み返した。
「待ってたのよオウジ。 ずっとね」
「待ってた・・? オレを・・?」
彼女の強く、静かな まなざし。
その瞳は、クイーンの碧いそれでなく
カイがオウジに形容する、
“黒曜石”だった。
「オマエ、
いったいオレを どーしたいんだ?」
その問いに、
彼女は可笑しそうに表情を緩めた。
「オウジは?
アンタは 自分をどうしたいの?」
「オレは・・・」
一度目線を落とす。
オウジの胸に、恐怖が湧き上がった。
コトバにするのが、とてつもなく恐ろしい。
「オレは
・・歌いたいんだ。」
「歌いたい? なぜ?」
なぜ? わからない。
でも、コトバになりそうなものを、紡いでみる。
「それが オレだから・・
オレが、生きてる証しだから・・」
「なら、歌えばいい」
「歌えねーんだよ! 知ってるだろっ?!」
オウジの視線が ヒナを射ち、
2人を包んでいたモヤが フワリと舞い上がった。
「アタシのせいにしないで」
「でも・・ あの後なんだ・・
ステージで歌おうとすると、声が出ねえんだ!」
「アタシを殺したから? 本当にそう?」
「 えっ・・ 」
ヒナの耳についている
シルバーのピアスがキラリと、オウジを冷たく突き放す。
「アタシは自分で選んで、
アタシの人生を生きただけ。
オウジが歌うかどうかは オウジの選択よ」
「・・・オレが・・?
自分で 歌わないってのかよ?!」
「よく見て」
ヒナはオウジの胸に、そっと自分の手を当てた。
「自分の声を封じ込めているのは
誰なのか・・」
「誰・・? 誰だってゆーんだよ」
「もっと深く。 探すのよ」
ヒナが長いまつげを閉じる。
そのカイによく似た、
カイではないバイブレーションが
オウジの波と、同調する。
―― どーゆーコトだよ?
オレ自身が 歌わない
って・・?
戸惑いながら、
もう一度 自分に問いかけた。
他に道はナイんだ。
ヒナが死んでも、
何事もなかったようにステージに立って
歌ってた。
そんなことに
かまけているヒマはなかったんだ。
それが、ある時 突然声が出なくなった。
精神的なストレスが原因だと、医者は言う。
だから?
少年たちを煽った 罪悪感が
声を 封じ込めてるのか・・?
事務所から メンバーを切られたこと?
割り切れない、自分へのイラ立ちか?
それともヒナへの、罪のイシキ?
いや、彼女に対して
何もカンジなかった自分が 苦しくて?
殺された少女の呪いで?
混線している電波の様に
感情が飛び交って
探す当ては、見えなくなるばかりだ。
『 悲しい・・』
ふいに、小さな声を聴いた。
―― えっ・・?
「何が・・? 何が悲しいの、オウジ」
「こんな歌しか 歌えない自分が・・・。」
自分の口が答えてた。
―― なんだって・・?
オレは ナニ言ってんだ・・?!
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




