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92、遥かなる摩天楼・3




キヨシが部屋に着くなり、





『じゃ、頼んだわね~。

ちゃんと ベビーシッター代は払うから!』





とだけ、ノーテンキなセリフを


高圧的な声で言い放ち、




真由美が ニューイヤーホリデーの旅行に


出かけてしまってから、3日が経った。






本来なら自分だって 休暇のハズのキヨシだが、



これと言って行くトコも、


やるコトも みあたらない事を見透かされての



この始末。




長いモノに巻かれっぱなしの、キヨシの人生なのである。






オウジと2人きりで 過ごす時間は 


すこぶる居心地がワルかった。





アチラにとっては見ず知らず、



コチラにとっては

 

コソコソとパパラッチしていた 相手の横に


四六時中くっついていた、



“彼氏”らしき、ブアイソ小僧。




部屋中、どこもかしこも


重い空気で、どんよりだ。






1日中をほぼソファの上で


ふんぞりかえって過ごす オウジは、



ビデオのレンズ越しに見ていた相手と


まるで別人だった。






――あんなに怒ったり笑ったり

アバレたり、


画面の枠から 飛び出るヤツだったのになぁ・・?






ときどき、キッチンのテーブルに


キヨシが用意しておいた



アイスやら、タバコやらを口にして





観るでもないTVのチャンネルを


ガチャガチャ回してみたり


ぼーっと、空を眺めていたり。





そんな虚ろな生活は、


オウジにしてみれば 六本木に囲われていた頃に


戻ったようなモノだが、




ダウンタウンにいた頃の、


キヨシの知りうるオウジなら



窓をブチ破ってでも、逃亡しそうなのに。





キヨシはなんだか、


肩透かしを食らったキブンだ。






――あ~あ、


せっかくの 休みだってのになぁ・・・






普段はあまり見ることもなく


ルールも定かでない アメフトの試合なんかを


ダラダラと眺めつつ、




キヨシは  テーブルに置いてある紙袋から


2つのカップを取り出した。





部屋の中でも被っている、


トレードマークの ヤンキース帽の下のちっさな目が



チラと、こっちを見た オウジに気づく。






「あ・・ ハハッ  

オ、オウジも喰う?


ここのスープ 旨いんだぜ? 



5番街にあんだけどさ、

ランチ時なんていっつも行列がスゲえの。


最近デリバリーも初めてさ、助かるよ~。



ええとぉ、


コッチがシーフードで、コッチが・・」





言い終わる前に、


オウジが手前にあった


プラスチックのカップを 取り上げた。





「あ、そっちトマト味ね。 それ、イケるよ。

それからっと、パンね・・。  


ええと、トースターはと・・


あれっ、スープ温っためねーの?」





まごまごしている キヨポンをよそに、


オウジは既に パンをかじり、スープを啜っていた。





真由美に、着ていた服を


全て捨てられてしまった彼は今、



キヨシが メイシーズで見繕ってきた


ジーンズとセーター姿だ。






――ああ、そっか 


   なるほど・・。





今の このオウジにナットクがいかないのは、


ママが買って来た服を そのまんま着てます風の


ティーンズみたいな、



この服装のせいも あるようだ。




一応、ブラックジーンズにはしてみたんだけど。





――似合わなスギ~~っ!





吹き出しそうになりながら、


キヨポンも余ったシーフードのスープを、口にする。





「オマエ、カイの後つけてたろ?」



「げ、げほっっ・・!」





アセった拍子に、


ノドにワカメが詰まりそうになった。




この3日で、初めてオウジがしゃべったと思ったら、


いきなりコレだ。





「えっ・・? カイって・・?

  な、何のことかなっ」




笑い返したつもりが、目が泳ぐ。





「目立つぜ、そのヤンキース帽。


ダウンタウンの路上で、カイを撮ってたろ。」





――ダウンタウンて・・? 

あ、あの時!!





隠し撮りを始めた頃に、


カイの横でハーモニカを吹く、



ナゾの銀髪小僧と 一度目が合ったっけ。



ヤバい ヤバい。





「ア~ハハッ! 

こんなの被ってるヤツ、いくらでもいるよ~」




「その声で喋るヤツが、他にもいんのかよ」





「こ、声ぇ?? 

オレ、あん時しゃべった?」



――ああっ! やべ、何言ってんだオレ!! 





「一度聴いた音、忘れるかよ」




「音って・・ ええええっ!!


お、覚えてんの? 

一度聞いたきりの オレのつぶやき声を~~?!」





キヨシは、ちょっと青くなった。



――コイツ・・   

マジヤベんじゃねえ・・?






「二度と撮んじゃねーぞ」




「え、 えっ・・?」





オウジの鋭い瞳がまっすぐに、


キヨシに 釘をブッ刺してくる。




キヨシはゴクリとツバを、飲み込んだ。



ナンかヤな、凄みなんだもん。





が、次にオウジの口から出てきた言葉は、


想像に反してた。





「アイツ 

コッチで一から やり直してんだからよ。」 





あまりにも素直で、シンプルな声。




オウジは窓の外を 眺めながら



どろどろに煮詰めたトマトスープを、


プラスチックの ちゃちなスプーンで


口に運んだ。





「・・・撮んなよ。」





背中越しにぶつけてくる、ぶっきらぼうな言葉。




でも その中には、


アタマなど下げた事がないであろう この少年の



最後の願い、とでもいうような




哀しい音が混じってた。






―― ど・・どーなってんだ? 


 ・・2人は


ケンカ別れじゃないのかな・・?







さっきよりも、ちょっとだけ


オウジの背中が 小さく見える。




騒がしいアメフト中継の アナウンサーでも拭えない、


この部屋の 重い空気は




今度はやけにしんみりと、姿を変えた。






――ただの“親友”とか

“恋人”とかって カテゴリーじゃ、


この2人は

くくれないのかもしれないな・・。







オウジは無言で、空を見上げていた。





真由美が 残して行った火種が、


心の中でぶすぶすと 



煙をたてられずに燻っている。






 『 勝たなきゃならない

   相手は誰? 』






オウジは軽く、唇を噛んだ。




真由美のコトバは、



聞かずにやりすごしていた、自分自身の声なのだ。





地下の歩道で歌っていた


訛りシンガーは、



数年後には、あのヤセぎすのホームレスの様に


クスリ漬けんなって



街のゴミに なってるのかもしれない。






――  ヘンだな・・ オレ。






今までは、死ぬことも



ジャンキーになる事も


怖くなどなかったのだ。





NYのダウンタウンの路上で 野垂れ死にでもしていれば、



むしろ、カッコよすぎる人生の


幕引きくらいに思ってた。





なのに、こうして生きてる。





寒さから逃れるために 地下の通路に座りこみ、


キツい酒で体を温め




美津子の刺客に 捕まれば


大人しく飼われて、メシを喰う。





そんなの、みんな


生きるための 行為じゃないか。






―― 生きる・・  ?


 



  ・・何のために?  



   いったい 





  何の ために・・・?






心のかたすみで凍ってた声が 溶けだして、


心臓にぎゅうっと 沁みこんだ。





このままではどうしようもないことくらい、


痛いほどわかってる。






対峙しなければならないのは



誰だ?  





一番負けたくない相手は・・。






オレを捨ててった父親か?    





さげすんできたヤツ等か?  

   


サックス吹きのモンスター? 





          



それとも、カイ?










   そうだ  




  ・・・・・!








オウジが、いきなり振り向いた。





「アンタ、ダウンタウン詳しい?!」




「へっ?ダウンタウン・・? 

まあ、そこそこは・・」




「黒い天使の壁画がある店、

知ってるか? クイーンて呼ばれてる・・」




「黒い天使クイーン・・・って  


ああ、

カイの描いた 黒いドレスの天使の事かな?」





オウジは急に ソファから立ち上がり、



その勢いで


スープのカップが、カーペットにぶちまけられた。





「オウノーーーウ!! 何やってんだよ~~ 

またボスに叱られ・・」





慌ててティッシュケースと共に


飛んできたキヨシの腕を、



オウジがグイッと掴んでくる。





「知ってんのか、その店?! 

ビリヤード台と ジュークボックスのある!」




「ああ、そ、そこなら

ブリーカーストリートの “Mist and shadow”だろ?」




「ブリーカーストリート?」




「ワシントンスクエアより

少しウエストサイドの・・」





「“Mist and shadow”! 


ブリーカーーストリートな!!」





オウジはキヨシを払いのけて 駆け出した。


その反動でキヨシが床にすっ転ぶ。




そして、そこにあったキヨシのダッフルコートを掴むと


勢いよく腕に通した。





「お、おいっ それオレの!」




「どーせ行くトコねんだろ!!」




「余計なお世話だよ・・って・・! 

え?クイーンとこ行く気? 今から?」




「ケリつけてくる」




「はあっ・・?」





オウジはミリタリーブーツの靴ひもを、


ギュッと固く結んだ。





「ちょ、ちょっと、ヤバいって、 オウジ!」




「アンタにメーワクかけねーよ!」





もはや弾丸と化したオウジは、


ドアの外へと 飛び出していってしまった。





「・・いや、 もう十分・・   

 迷惑なんですけど・・・。」





キヨシの口は


あんぐりと開いたままだった。







エンパイアステートビルの足元を、


オウジは走った。 




目指すのはダウンタウン。




――“Mist and shadow”!





「ハァッ ハアッ ハアッ・・」






ひたすら走った。




どうせどこまで行っても、逃げられはしないのだ。




路上で 夜を明かしたところで、


野垂れ死ぬこともできない。




クスリの中に逃げ込んでも、あの夜はやって来る。



眠れば、また



血の色の羽が、目の前いっぱいに 飛び散るんだ。






だから、


逢いに行くしかない。






自分をNYここまで引き寄せた、 


漆黒のクイーンに。





向き合わなければならない、



自分の運命に。







---------------------------------To be continued!




このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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