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9、路上の天使・1





オレンジ色の街灯りを 映した雲が低く、



ダウンタウンの屋根屋根の上に


覆いかぶさっている。




オウジはいつの間にか 夜の街をさまよっていた。





今夜のマンハッタンは 文句なしの氷点下。




だが、キングコング男に渡された


粗悪なドラッグで トんでるオウジは


それに気づく余裕もナイ。





煉瓦作りのアパートメントや 


鉄格子のシャッターが閉まった店、


まだ開けている店の ネオンサインが



灰色の 夜の中に浮かび上がり、



やたらと幻想的で、ウソ臭い。




安っぽいファンタジー映画の中に、入り込んでるみたいだ。






――・・オレはなんで こんなトコ歩いてンだ? 

 



    ココは   


      ・・何処だ?






夢の中をさまよう足取りで、答えを探っても、


問いかけはグルグルと



アタマの中を 空回りするだけだ。





明らかに冬仕様ではない服装で、


深夜の街をフラつく少年を、



数少なくなった通行人達が 


避けるように通り過ぎて行く。




誰しも、1週間の仕事を済ませた 


楽しいフライデーナイトに、



メンドウな出来事と 関わりたくはナイ。





通り過ぎざまに、ふと目の合った白人青年が


オウジを見てニヤリと笑った。




そして、あろうことか 彼はこう吐き捨てた。






「やっぱオマエは同胞なんかじゃねーよ。


わかってたさ、   

オマエの親父は 日本人だもんなぁ!」





―― え・・?  何だって・・ ?!






オウジは、うまく視点の定まらない目で


彼を凝視した。





――コイツ、  今 日本語しゃべったか・・?  


  イヤ、違うぞ



 これは・・


あの時ジュンギが言った コトバじゃねぇか・・!



   なんでコイツが そんなコト知ってんだ?






白人青年の後姿は、


バンド仲間だった ジュンギという少年の背中に


変わってた。




その背中から、


忘れもしない 彼の声が聞こえてくる。






「オレ達全員切り捨てて 

オマエだけ メジャー契約かよっ 


裏切り者! 



そんなに テッペン取りてーのか!」




――取りてぇさ! オマエ等だってそう言ってただろ



だいたいオマエがヘタクソだから

切られんじゃねーか 


昔っから甘ぇんだよ、オマエらは!






すると、今度は後方から


分厚いコートに身を包んだ、中東系の中年オンナが


足元のおぼつかないオウジに 


ぶつかって来た。





オンナはオウジをチラ、と見たきり 気にも留めず、


ブーツの踵を、コツコツと鳴らしながら


足早に追い越してゆく。




今度は、喋っていないハズの彼女の声が


オウジの耳に残った。






「父さんのことは 二度と口にしないでちょうだい。


私たちは、もうあの人とは関係ないのよ」



―― ・・・!!?






オウジの母親の声だった。



オンナの後姿も、


いつの間にか 母親のそれに変わってる。




そして、彼女の古びたコートの裾を


幼いオウジが掴んでいた。






「なんでなの? ねえ 


なんでお父ちゃん 帰ってこなくなったの・・?」





母親の歩調に必死についていく、その幼いオウジは


パジャマに裸足のままだった。





――  あのガキはオレか・・?



どうなってンだ・・・



   ココは・・   何処なんだよ?






辺りを見回すと、


通りの向こうにむくむくと、黒いモヤが湧き上がった。





モヤはたちまち広がってきて、


オウジを どす黒い霧が包み込む。




そして次に その中から現れたのは、


ライダースジャケットに身を包んだ


黒髪の少年だった。






「オレは オウジだ」






オウジの耳に こびりついているおキマリの文句。





――こいつは知ってる・・・ アイツだ  



        あの時の・・・!





服装も髪型も シルバーのピアスの開け方も、


何もかも ウジそっくりなその少年は、


視点の定まらない瞳孔を 大きく開き、




血の通わない 人形のような顔で、


ポケットからバタフライナイフを 取り出した。





「オレは オウジだっ!」





そう叫んだ少年の口が、ひきつった笑いでゆがんだ。



――やめろっ!! 


       ・・!





気がつくと、オウジは


黒い服の集団に 取り囲まれていた。




皆一様の、開いた白い眼球が オウジを見つめて来る。





その大勢の人込みをかき分けながら、


少年が再び バタフライナイフを振りかざし、


近づいてくる。





――やめろっ!・・来るな・・ッ!!







黒い霧が どんどんオウジを呑み込んでゆく。



膨らみあがった恐怖の 黒雲から逃れようと


オウジは走り出したが、



足がうまく動かない。





――クソッ・・!





必死になってなんとか2、3歩動けたハズが、


足がもつれこみ 




コンクリートの道路に ハデに倒れこんだ。




オウジの腕に、肩に、固いコンクリートの衝撃が走る。



同時に寒さで、骨がきしんだ。






――痛ッてぇえ・・・ぇ






しかし、そう思ったのもつかの間で、


痛みはすぐに消え去った。





オウジは 


澄み切った青空の中に、ぽっかりと浮かんでいた。





上も下も 重力もない、


これぞスカイブルーという 色の空間。




やわらかい陽射しが 斜めから差し込んで、


凍えたオウジを包み込んだ。





雲が、淡い虹色の輪郭で しずかに浮かぶその向こうに




1人の天使がいた。






―― あ・・?  天使だぁ?  


        やべ・・・




    オレ 


  そーとー ラリってる・・・






白いギリシャ神話風の衣を まとったその天使は、


おかしなことに



黒髪の 東洋人の少女の顔をしていた。




ずっとこっちを見つめて 微笑んでる。

 



なぜか 懐かしくカンジる笑顔だ。






「・・アンタ    誰だっけ ?」






どこかで見たハズ。





――まただ  


またデジャヴってるぞ・・ 




  さっきもそんなコトが あったじゃん・・


  ええと・・




誰だっけ・・? 



ドコでそんなコト カンジたんだ?






天使はじっと 同じ表情かおで微笑んだまま



その桜色のくちびるを ゆっくり開くと、




小さく歌を、歌いだした。





聞いたことのないメロディーだ。



なんか、ニンゲンの声じゃないみたい。


天使なんだから、アタリマエか。




野性的というか、自然体というか。





でも、神々しく 煌めいてる。






―― ・・・ なんて声だ ・・。






体中から、



心を奪われた。





荒れ狂うオウジの恐怖を、


セルリアンブルーの湖へと 静めてゆく




穏やかな 



そして、美しい音。





体中の水が反応する 


小さな小さな ゆらぎ。






やがてその歌に ピアノが小さな音量で加わった。




そしてチェロが加わり、


ヴァイオリンが加わり、




ヴィオラ、管楽器  打楽器と・・





演奏はみるみる大音量の フルオーケストラになり、


それが オウジの体中に 



音のスコールとなって落ちてきた。





「う、うぉぉおっ・・・!」





どしゃ降りに降ってくる 音の雨。




その瞬間、


オウジは音の重みで 地面に引っ張られていた。







--------------------To be continued!




このお話の設定は1980年代NYです。

また、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として以前アメブロで掲載されていたものです。

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