表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/108

85、ふたりを描き出すパズル・1




「ハロウ~? カイちゃん、

アタシよーーっ!」






店の壁にかけられた、


黒い 縦長公衆電話の 受話器を握りしめ、




大音量のBGMに消されないように、



ショウゴが声を ハズませている。




時計は23時を回った頃。






13丁目の 居酒屋SHOCHANでは


イヴのパーティー真っ最中だ。






ド派手ドレス、コスチュームに


気合の入りまくったパーティー料理。




日本人なら 絵本でしか見たことがないような


ターキーの丸焼きまで 



ドーンと大皿にのっけられ、




中央のテーブルで




赤やイエローの電飾の チカチカを受けて、光ってる。






常連客がひとしきり 顔を出しては入れ替わり、


オールナイトで続く



一年で一番 大盛り上がりな夜なのだ。






23時は、早い時間帯からの客に


ぼちぼち動きが 出てくる頃合い。






オウジやカイには、絶対逢わせたくないキヨポンも


さっき引き上げて行ったし、




キヨポンのボスである2枚舌のヘビ女、


井上真由美は 朝まで仕事。




イヴなのにザマーミロ。





と舌を出しつつ、


ショウゴはここぞと カイにラブコールなのである。







「ハィ、ショウゴさん。 どうしたの?」






受話器の向こうから聞こえる、カイの声は


いつもどおり、キリリと涼し気。






「メリ~クリスマ~~ス! 


カイちゃん、

そろそろショウちゃんを さらいに来て~~っ」





「えっ・・・」






カイは小さく“しまった・・”という顔をした。


電話なので、ショウゴには見えないが。






「今日って・・あっ、イヴのパーティー?! 


ああ~~ ・・・ゴメン、

すっかり忘れてたよ」






「ええーーーっ そうなの?! 

イヴを忘れるってどんな~~っ?!


あ・・・ 何かあった? 


もしかしてオウちゃんが・・?」






「うん、今朝からスゴい熱で 寝込んでるんだ」





「ね、熱ぅ~~?」





「ああ、でももう落ち着いたよ。 

今、7度台まで下がったとこ。」





「よかった~。 


そっか、昨日あれだけヤンチャしたんだから

ムリもないわね!


・・・じゃあ・・

オウちゃんは来れないのかしら・・??」





「ちょっと待ってて。」






カイは受話器を手で押さえながら、



キッチンカウンターに座って


バケットをかじっているオウジに 顔を向けた。





カチコチに焼き上げたバケットは


病み上がりの胃に、やさしくないシロモノだが、




今現在この家には、食いモノがコレしかない。



仕方ないから、バターだけはタップリつけた。







「ショウゴさんから。

 

今夜はイヴのパーティーなんだけど、

オウジ君どうする?」






オウジは、カモミール・ミルクを一口飲む。


さっきカイが作った。



こっちは胃にやさしいシロモノらしい。







「パーティ~? ヤだよ面倒くせえ~  

アンタ行って来れば」




「オウジ君1人で 大丈夫?」




「あのなぁ・・ 

ヨーチエンジじゃねーんだから!」




「もっと目が離せないだろ。」





ハハッ、とカイが軽やかに笑う。





「お待たせ、ショウゴさん。 

もう少ししたら ボクだけ顔出すよ」






その笑顔に、ほんのり胸が甘くなった。



ような気がして。




オウジは、ごくごくと


カモミールミルクを飲みほした。







「そ、そうね。 それがいいわ!

 

ムリしてぶり返したら、モトも子もないものぉ~!」






昨夜の、爆裂退廃ボーイなオウジの様子が 気になるし、


逢いたい気持ちは ヤマヤマだが




ここは家で 大人しくしてもらった方が


何かと安全だ。





パーティーには、どんな珍客が訪れるとも限らない。







「んじゃ、待ってるわね カイちゃん!」




「うん、あとで。」






カイは電話を切ると、肩をすくめた。






「そうか、今夜はイヴかぁ~~。


オウジ君といると 感覚がズレちゃって、

日常を忘れちゃうな」





「人のせいにすんな! 

いつもズレまくってるクセに」







カイがクローゼットから


ゴソゴソと 大きな紙袋を出して来る。




そして、その中に入っていたものを



ひとつひとつ、


カウンターの上に広げて見せた。






「これがジェシーへのヘアピン、

これがエンリケのグミ、リカにマニキュア・・」





ショウゴの店のスタッフ達への、プレゼントらしい。





「ふーーん ・・こんなショボくていいの?」




「仲間内では、みんなキバらないから。 

でも、これはちょっとキバったんだ!」






自慢げに、ピンクのリボンが付いたプレゼントの箱を


掲げる、カイ。






「ショウゴさんに。 

レースの蝶タイ、オーダーメイドだよ?」





「ピュ~~ッ  愛されてんなあ! 

ショウゴ、卒倒するぜ?」





「アハハッ 

ハイ、これはオウジ君に。」





「えっ ・・オ、オレ?」





渡されたのは、小さな紙包み。






「開けてみなよ」



「 いつの間に・・・ 」






リボンも何も付いていないその包みを


こちょばゆい気持ちで、カサカサ音を立てながら開けると、




原色使いの、アメコミ柄の靴下が入ってた。





「メリークリスマ~ス! 

 プリンス・オウジ」






オウジが靴下を 手に取ったタイミングで、


なんか、サンタの声マネしてる。




ホンモノを 聴いたことないから


似てるかどうかは、不明だけど。






「ガキじゃねーし。 

プリンスでもねーし、クリスチャンでもねーし。」




「でも好きだろ? バットマン」




「・・・ん・・。」




「はい、素直でヨロシイ!」






カイはご満悦の笑顔でクローゼットに戻り、


出かける支度を始めた。





わずかに緩んでいる 口元を見られないように、


オウジは


カチコチのバケットにかぶりつく。




見ないフリで、カイが微笑む。






今まで着ていたミルクホワイトの 薄手のセーターに


セルリアンブルーのコートを羽織り、



大判のショールを首に巻き付けて。






「そんなラフなカッコで行くのかよ? 

パーティーじゃねーの?」




「ちょっとカオ出すだけだから。」





「白のタキシードでも 着てってやれよ。 

ショウゴが鼻血出して喜ぶぜ」





「レイの家に置きっぱなしだもん」




「ゲッ マジで持ってんのかよっ!? 

さすがボンボン・・」





手を止めて、オウジをじいっとみつめるカイ。





「・・んだよ・・・?」



「それ食べたら、ちゃんと寝てるんだよ?」



「わぁってるよぅ」



「オウジ君、すぐ飛び出して行っちゃうから・・」




「そんなゲンキねーって~」



「じゃあね、お利口にしてるんだよ ハニー」





通り過ぎざまに


オウジの髪を、カイがクシャクシャして。





「ハニーとかゆーな! 」




食べかけのバケットを剣にして、オウジが反撃。





いつもの調子が出てきたオウジに 


ウィンクを残して、



カイは出かけて行った。









ショウゴの店では 常連客がグラスを手に、


それぞれが、かなりデキ上がって



ピークのど真ん中だ。






「ええっ?! オウジ来ないの~~っ?!!」






カウンターに腰かけている洋一が、


中で働いているジェシーに向かって 叫んだところだ。




いつも地味なセーターばかり着ている マシュマロ女も、



今日はショウゴに 


キラキラのパーティーハットを被せられ、



色白の肌は、アルコールによって 少し赤みがさしている。






「そうみたい。 

なんだか、具合が悪いんですって」






残念な素振りをしつつ、ジェシーは内心ホッとしていた。




昨夜、5丁目のジャズバーで


偶然出くわせた洋一と オウジの様子を見るに、




オウジにとって、


洋一が好ましくない客であるコトは明らかだ。




洋一を、これ以上オウジに近づけたくはない。





この店は、過去から逃げてきた人間の 吹き溜まりだ。




互いがデリカシーと、距離感をわきまえて


心地いい空間を作り、


それを守ってきた。





ジェシーに会いに来たと言いつつ、


ジェシー目当てが半分、オウジ目当てが半分、



いや、オウジの方が上回っているのかも。





それでも、洋一が店の客として来ている以上、


追い返すわけにもいかなかったのだ。




案の定、オウジが来ないと知った洋一は


すっかり落胆ガオだ。






「イヴだもの、楽しみましょうよ!」





ジェシーが、赤ワインのグラスを掲げ、


スキマの空いた白い前歯ごと 笑って見せた。





カウンター席の端っこの、店の公衆電話では、


今度は 赤鼻トナカイのマスクをかぶったキースが、


誰かと話してる。






「・・・ハイ ・・ハイ。  


そーデス、 例の天才ボーイは来れなくなりまシタ・・・。 

フィーバーね。残念ね。 


昨日の演奏タタったのデス、きっと。 



でも、もう1人のイケメンは OKデス。 


これから来マスよ!


人ゴミに紛れて、

こっちはバッチリ パパラッチできちゃうデスよ~~」






辺りをチラチラ警戒しながら、話しているキースは



近づいてくるショウゴを確認すると、



差し障りのない会話を2~3交わしてから 


受話器を置いた。 



そして、



「 イイェ~~イ 今夜はサイッこうデ~~ス! 」



とかショウゴに踊って絡みつつ、


フロアへ戻っていった。





レインボーカラーのサンタの


コスプレをしてる今夜のショウゴは、



ターキーの丸焼きが評判良く、



昼間の倦怠感もどこへやらの 有頂天。






「ささ、食べて食べて~~。 

ケーキも ショウちゃんの手作りよ~!」






常連たちに、酒やらケーキやらをふるまって回っていると、


カランカランと音を立て 


店のドアが開いた。




ショウゴの眼は、ふり返る時 すでにハート型。





「カイちゅあああ~~~~~~~~~~ん!!!!」





人混みを ボクサーのように素早くくぐり抜け、


ショウゴは、カイの胸に飛びついた。







---------------------------------To be continued!




このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ