80、ヒナの足跡・1
誰かのために
歌ったことが、あったろうか。
オウジは自分に問いかける。
『 ダメだよ 歌わなきゃ 』
『 ボクが キミの歌を愛してるから 』
そんなコトバに、
氷の結晶になったオウジの心まで
シュワシュワと、弾けだしてしまう。
「 バッ・・バカじゃねーのっ!
ナニ言ってんだ
ナニ ・・なんで
アンタのためにッ・・! 」
なんとか切り返してはみるものの、
ふわりと浮き上がった心が、
自分のモノなのに つかめない。
カイの微笑み。
どこかの遠い
シアワセしかない島から 吹いてきた風のような、
微笑み。
それをまだ、
オレは貰えるのだろうか?
人殺しでも・・?
歌えなくても・・?
『 ボクが
キミの歌を愛してるから 』
部屋に流れるPOPSよりも
カイの言葉が
印象的な歌のように、アタマの中で繰り返され
そのたびに、オウジの体を熱くした。
いつもより気になる
昇天してゆく、青い龍のような
彼の、美しい首のアザ。
―― ヤバい、
なんかヤバい・・
ちょっと、
ヤバい・・
どうしようもない。
体が熱い。
「あれ・・?
カオ赤いけど、 オウジ君?」
カイの右手が、オウジの額に伸びてくる。
「なっ 何だよっ!」
と、とっさに振り払ったつもりの動きが ドンくさい。
「やっぱり! 熱があるじゃないか」
「・・あ? ねつぅ~?」
「けっこう高いよ。
シャワーなんか浴びて、フラつかなかった?」
「んーーー・・・ フラついた
・・かな・?」
言われてみれば、視界はボウっと霧がかかってるし、
背中はゾクゾクしてるような。
「あとは?」
「・・アタマ痛てぇ・・・ 2日酔い。」
「2日酔いで熱は出ないだろ。
あんな薄着でフラついてたから、カゼひいたんだ。
・・セーター
どこに置いてきたんだよー?」
やっぱりないのか、あのセーター。
あー、言葉にするのも、
もう めんどい。
「それとも、ショウゴさんの言う
なんたらインフルエンザかな~?」
――そっか・・
なんか熱いの、カゼのせいか。
・・そうだよな・・!
だって、オレはショウゴやコイツと
違うんだから。
「ちゃんとベッドで寝てろよ、ホラ。」
「いいよっ、別に・・」
カイの手を振り払い、
自ら立とうとしたオウジの頭上で
天井がグルんグルん回った。
思わず膝が、ガクンと落ちる。
「あ~~ 言わんこっちゃない!」
「うう~~ぅ クっソぉ・・」
カイに捕獲され、オウジは
ベッドに連行される。
「こんな濡れた髪のままで いるからだよ」
「い・・イテぇって・・・!
アタマ揺らすなよー」
ガシガシと、タオルで髪をふきとられ、
反撃したいとこだけど、それもムリ。
「ハハッ セーター無くしたバツ。
すごい気に入ってたのになーー!」
「・・知るかっ・・」
どこかのオンナの所に忘れてきたらしい後ろめたさを
悪態でゴマカしてみるものの、
ガンガン駆け回る 頭痛の大運動会と
全身のダルさ、重苦しさ。
オウジはもはや、ベッドから1ミリも動けない。
天井で回っている4枚羽の ファンを見あげると
余計に目が回った。
「うう・・・寒みぃ~・・」
「しょうがないノラ猫だなぁ」
くすりと笑って、
カイはオウジのブランケットの上に、
自分のブランケットと、豹柄のロングコートも掛けてやる。
額の上に乗せた濡れタオルごときで、どうなるハズもなく、
熱はあっという間に、
オウジの体を包み込んだ。
体中がオモシロイくらいに熱くなり、
頭の真ん中に
スッポリと白い空き地が、できたよう。
「ええと、熱のときは
・・どうすればいいんだっけ?」
首をひねったカイが、とりあえず
冷えたミネラルウォーターの ペットボトルを持ってくる。
その姿も、ラジオの歌も、
もう霧の向こうに ぼやけてる。
「ハイ、水。」
「・・ いらね・・。 」
「あ、口移しがよかった?」
アセって、飛び起きようとするオウジの肩を
がっしと押さえつけ。
「ジョーダンだって! アハハッ
・・・そんなにキスするのイヤかなぁ?」
こんな時にまでセクハラなボケを、かますカイに
もう、ツッコむ気力は 1ミクロもナシ。
―― 何 考 えて ん だバーカ セ クハ ラ ヘン タイっ
イ カ レ 野 郎・・・
アタマんなかで つぶやくテンポも、
電源の切れたレコードプレイヤーみたい。
ぐんにゃり歪んで 遅くなる。
「ああ、そうだ。
ローズにアスピリンとストロー、貰ってくるよ。
待ってて。」
うっすらと開いた目で、
オウジは カイの後姿を見送った。
何もいらないのに。
このまま
ココに居られるだけで
暖ったかなベッドと
友と呼べる人が いるなら
カイが いるなら
他にはもう
何も、いらないのに。
そしてオウジは、うとうとと
白い夢の中に入っていく。
『ダメだよ 歌わなきゃ』
カイの言葉がオウジの耳元で、
何度もリフレインして
熱すぎる胸を、もう少しだけ熱くした。
『ボクが
キミの歌を愛してるから』
---------------------------------To be continued!




