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8、闇の売人




こういう場所で


こういう目つきの男に 声をかけられたら、



オキマリってもんだ。






「オマエ気に入ったぜぇ~!


そんなちっちぇえ体で、

あのデクノボー野郎に ケンカふっかけてよォ」






そう言って黒人男は


人懐こさ全開のニコニコ顔で、



オウジを上から下まで、眺めた。





「オー!オー! 


そうか、さてはお前

ニンジャのファミリーだな?!」






オウジから見たら、


もうキングコングかよって程デカい その男は、


ゴキゲンにそう言うと、




「ハッ! ハッ!」と掛け声をかけながら、




レストルームの手洗い場で 所狭しと、



どっかで見たのであろう、


カンフーの真似らしきポーズを


いくつかヤって見せた。






映画か何かの うる覚えなんだろうが、


地球の反対側では、



ニンジャもカンフーも、スモウも 


全部いっしょくたならしい。





自分の派手なアクションにまた


「ハーッハッハ!」と


ゴキゲンに笑った キングコング男は、




オウジの冷めた視線に、肩をすぼめた。





「OK OK~ わかったよ

要件はコレだぜ、ブラザー。

 

25ドル。 


どうだ、安くしとくぜぇ?」





男はポケットから


白い粉の入った 小さなビニール袋を出すと、



オウジの目の前にピラピラと、かざして見せた。





「 なんだ? ・・・コカインかよ? 」




「ヘロインさ。

コカがスキなら、それもあるぜ。


こっちのはジャマイカ産、上物さぁ~!」





もうひとつ取り出したビニール袋には、


乾燥させた大麻。





「天国へ行けるぜ、ベイビィ」





その一言にカチンときて ニラみ返すオウジに、



キングコング男は、


またもや フレンドリー笑顔を全開にした。





「おおっと、いけねぇ 

ベイビィは余計だったなぁ、ブラザー。


どうだ? 


文句なしのシロモンだぜぇ」




「んな金ねーよ」





そう言って、酔いをさまそうと



オウジは 水道の蛇口から


水を、ダイレクトにガブ飲みした。





深夜の冷たい水道水が、ノドをつたう。



角から赤くサビが入っている 四角い鏡に


青ざめた、自分の顔が映った。






「ツレねぇこと言うなよ 

しょーがねぇなあ・・  20でどうだ?」




「いらねえよっ」





相手を振り切って、


トイレから出て行こうとする オウジの前を


キングコングが、さえぎった。





「じゃあ・・17ドルで・・」




「しつけーな! 

いらねえもんはいらねんだよ!


男のケツがシュミなのか?! 


うせやがれ、このホモコング野郎ッ!!」





満面の笑みが、黒人男の顔からすーっと消え、



彼はオウジの前に立ちはだかり、


声をひそめた。





「・・あんまり調子にのるなよなぁ? ベイビィ・・。」





縦も横も 自分より倍はある


ビターチョコレート色の 筋肉のかたまりは、



死んだ魚のように濁った目つきで、


オウジを 無表情に見下ろした。




ごくり、とオウジは唾を飲み込んだ。





日本でなら


似たようなシチュエーションを


何度も体験しているが。




迫力が、ガゼン違う。





吊り下げられた 暗い照明の中で



黒い肌から、


そこだけ白く浮かび上がる 二つの眼球の奥には



さらに深い、ホンモノの闇があった。





盛り上がったゴツゴツの筋肉は、


今まで見た中でも最強だ。




土地カンもなければ 逃げ道も知らない。 


助けが入ろうはハズもない。





百に一つも、オウジに勝ち目はなかった。

 




背中に冷たい汗がにじみ出し、


心臓が激しく 


危険信号を打ち鳴らす。




でも、ココで 弱みを見せたらオレは終わる。





オウジは不安定な足に、


ありったけの力をこめて立ち、



怯えていることを悟られまいと、



二つの白い眼球を 


無表情に 見返し続けた。






何分か、


いや 本当は何十秒だったのか。






凍り付くような沈黙の後、



ふっ・・とキングコング男は 顔を緩め、






「OK~OK~  やっぱオマエは気に入った!


イーストヴィレッジに 歓迎のしるしだ、 

今夜はサービスしとくぜ、ベイビィニンジャ!」






そう言って全開の笑顔に戻り、



オウジのポケットに 何かをねじ込んできた。




そして、ハッハハーッと大きな声で笑って、


レストルームのドアを開き






「欲しくなったら、火曜の0時 

ワシントンスクエアに来な!」






と言い残して、出て行った。






人工的に作り上げた、真夏の太陽の様な


ブキミな男が出てった後の



じめっと 暗い空間を照らし出す 


切れかかった電球が、




何度か消えそうになっては、また点いた。





ふーーっ・・と


オウジは大きく息を吐き、



ヨロヨロと壁に もたれかかった。





冷やかな汗が、オウジの背中をつたう。



今頃になって


足も小刻みに震えてきた。





「 へへっ・・・ 


  ダッセぇ~の、 オレ・・ 」






迫力も度量も、


まったくもって歯が立たなかった。




あのブッとい腕に殴られたら


間違いなく一発KO、




運よく殴り返せたとしても、


ヤツにとっちゃ、蚊に刺されたようなモンじゃねーか。





――ボコられて 川に捨てられンのがオチだったな・・



てか、この辺に 

川なんて あんのかよ・・・。






震える手で、ポケットからタバコを出すと



キングコングの置き土産の


ビニール袋が、床に落ちた。





オウジはKOOLに火をつけて


思いきり吸い込むと、



吐いた煙の中から、ビニール袋を見下ろした。






――な~にがサービスだ・・。

  


おーかた混ぜモンの入った、試作品だろが・・






泥で汚れた白いタイルから


ゆっくりと、袋を拾い上げる。




粗悪なドラッグは、


どんなバッドトリップが待っているか


わからない。






――なんか、時差ボケだし 

  酔ってるし



 知らねー街だし・・・。






ぶっトんで前後不覚になったら、


さっき見たホームレスみたいに



道端で凍り付いて、あの世に行ってるかも。






そうアタマをよぎりながらも、


オウジは20ドル札を出し、筒状に丸めた。






弱い自分は 許せないのだ。






足を震わせてる、自分。 



大きな力に勝ち目のない、自分。






   歌えない、 自分。  






逃げるしかない、



何の力も持たない自分。


 



そんな自分とは、一瞬たりともいたくない。






――チクショウ  


もう、どーにでもなりやがれ!!





オウジは、手洗い場の棚の上に


白い粉状のヘロインで 一本の線を描くと、




20ドル札を丸めて作ったストローで、


左の鼻から 一気にそれを吸い込んだ。








--------------------To be continued!



このお話の設定は1980年代のNYです。

また、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」としてアメブロに掲載されていたものです。


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