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79、モーニング・ペリエ・3




オウジの口からでた告白は


カイに、フシギな感覚を与えた。





揺れている心の奥に



静けさと、


痛みにも似たなつかしさが、ある。





なんだろう、これは。







「そのまんま病院に連れてかれたけど、

そうやって 体よくバックレたんだな。


オレだけ1週間、社長の別荘に 監禁された。



最初は 打ち上げかと思ってたけど、

他のメンバーは来ねえし・・


おかしかったんだ・・!」






オウジの黒い瞳が輝きを失って、


思い出の中へ




あの、思い出したくない夜の中へと 帰ってゆく。











「どういう事だよッ! 


なんでZerOが解散なんだ!?」






「解散じゃなくて、メンバーが変わるだけだ。


仕方ないさ、オウジ。

アイツ等の腕は、プロじゃ通用しないからな。」







貴章がオウジに背を向けたまま、


平然と言い放つ。




彼は、リビングにあるバーカウンターで


何かのカクテルを、カチャカチャとかき混ぜている。




ライブでの事件が起きてから、6日目のこと、


軽井沢の別荘だ。








「そりゃ・・  そーだけど!


プロのレッスン受けさせて、みっちりシゴくって、

アンタ言ってたじゃないか」





「第一、ザイニチだから、国籍の問題もあるし。」





「そんなの アンタなら隠すなりナンなり、 

いくらでも、どーにかできンだろッ?!」 







皮張りのソファから立ち上がって、


オウジが、怒鳴る。





なんで、こんな所に閉じ込められてるのか、


他のメンバーは、どうなってるのか。





何もかもが ウヤムヤなまま、


今度はバンドが解散だと言うのだ。







「ん~~ン 怒んないでぇ~~っ」






横にいる駆け出しモデルのオンナが、


オウジの腕を引っ張り、ソファに引き戻そうとした。




その手を振りほどかれ、


仕方なくオンナも立ち上がって、



もう一度オウジの腕に、ひっつき直す。





ひろいリビングのフロアには、


ヒマを持て余した 女優の卵やタレント達が


オウジに起きたイザコザとは


全く無縁に、呑んで騒いでいた。







「いいかオウジ、

この際ハッキリ言っておくぞ!」






振り向いた貴章の顔には、


奇妙な笑いが 貼りついてた。






「オレが欲しいのは、オマエだけだ。


オマエの声に惚れてるからこそ、

こんな大勝負に出るんだぜ?!


今は甘ったれたコト 言ってる時じゃない。



仲間だなんて、甘い幻想は捨てるんだ、 


この業界で テッペン取りたいならな。


オマエにはそれができる! 



オウジ、オマエは オレの夢なんだ!!」






その、ねっとりとした粘り気を放つ


彼の目。




オウジの声に 翻弄され、 


酒とドラッグと、野望に囚われているモノの目。






「・・アンタ、 

体よく契約の話 進めといて


最初っからアイツ等、切るつもりだったのかよ?!」






貴章は 紫色のカクテルを運んできて


オウジにひっついているオンナに渡し、



オンナはソファに座り直して、毒々しい


その液体を啜った。







「なあオウジぃ、 


何のために オマエは歌ってるんだ?



オマエを見下した奴等に、

オマエを捨ててったオヤジに、



オマエの存在を 見せつけてやるんじゃないのか!?


見返してやるんじゃないのかよ?!



オレがオマエに、テッペン取らせてやるッ!


どんな手を使ってでもだ!!」







それが彼の夢なのか、情念か 



それとも魔術にかけられた、ただのジャンキーの幻想か。




自分のすぐ目の前にある 貴章の、


じっとりと汗ばんだ顔と、熱っぽい視線。





よくクーラーの利いた部屋だったが、


オウジにも、イヤな汗が滲み出た。







「けど・・  オレだって、国籍は韓国じゃねーか」





貴章の目が、ふっと緩んだ。





「オマエはいいんだよオウジ~ぃ! 


オマエは父親が 日本人じゃないか。


オレ達は同じ、日本人だろう~~?」






―― 何言ってんだ コイツ・・・!!







オウジの中に、パシリと電流が走った。



国籍も演奏のテクニックも、ただの言い逃れにすぎなかったのだ。




オウジと言う少年に魅入られた このオトコは、


何がどうあっても、


オウジを手に入れたいだけなのだ。




全身に、怒りと嫌悪が広がってゆく。






“母親が 在日韓国人だから”、


差別と暴力で 押さえつけてきたきた、学校の教師も、




“父親が 日本人だから”、


身内びいきし、オウジを偏愛してくる貴章も、同じだ。





物事を 自分の都合のいいようにすり替えて



ただオウジを、偏執的な感情の


はけ口にしているに他ならないのだ。










「オウジ君・・?」





自分の名を呼ぶ 


そのやわらかな声で 我に返ると、




キッチンカウンターの向こうから、


NYのルームメイトが、こちらを見ていた。




ラジオが歌うPOPSが、


オウジの耳にフェードインする。







「・・・ちッ。


なんでもねーよ。 

胸クソ悪りぃインポ野郎のコト、思い出しただけだ」





頭痛が、ずきずきと 再びオウジを攻めてくる。






「でも一番胸クソ悪りぃのは、オレだぜ! 



オンナが刺されたってのも、死んだのも、

なーーんにも知らねぇで、


いつの間にか 全部アイツの敷いた

レールの上を走ってた・・・。



アハハッ・・!  


あの野郎、なんでも金で もみ消しやがって・・!



乱交もクスリも、殺人も、


顔色1つ変えずに 処理しやがんだ。



犯人はラリった少年A。



巻き込まれたオンナんとこも、マスコミも、


みーんな金で丸め込んで、



オレの名は いっさいオモテに出ない様に

消し去ったんだ!」





「・・・・」






カイの形のいい指が、


ム意識にそっと、首のアザに触れていた。






「ファンの中で

死んだオンナのウワサが 流れた頃には、


公には、オレはあの場に居なかったって事んなってた・・。



韓国籍だからとかなんとか ゴマかしやがって、



ホントは事件の責任を ぜーーんぶ

他のメンバーに押しつけるためだ、


そのために 

バンドを解散させて アイツ等を切ったんだ・・!」






「・・オウジ君を、守るためだね」






「テメエの野望を 叶えるためだろ? 


だから、オレも乗っかってやったんだ!



メンバーも、死んだオンナも関係ねえ 


オレはテッペン取ってやるんだ!!



オレを捨てて行ったオヤジも、見下した教師も、

リンチした同級生やつら


みんな 見返してやるんだってなッ!!!」






シャワーで濡れたままの前髪から、雫が落ちた。



テーブルの上で、オウジの握ったこぶしが


小さく震えていた。






「オウジ君・・・」





「ハハッ 

でも、結局 何もかもオジャンだぜ!


オレはもう歌えねーし、曲も創れねぇし 


インポ野郎はブタ箱だからな・・!! 



いっそ清々するゼ! アハハハッ」






「歌えないって・・?  どういう事さ」






またしても言葉にしてしまった後で、


オウジは気づいた。



今日のオレはどうかしてる。




誰にも見せられない自分を 


カイの前に差し出してしまってる。




でも、もう止められなかった。







「  歌えねーんだよ・・。  


ステージに立つと 

  声が出なくなるんだ・・・」





「・・・・」





「・・・どーしよーもねえだろ・・?」






あまりに弱く、 


流れるBGMの中に、すぐさま吸い込まれてしまったその声は 



とてもオウジのモノとは、思えなかった。






プライドが強く、好戦的で 


エネルギーが迸っている彼を



まるで空っぽにしてしまう、




それは自分自身への、呪いの言葉だった。






カウンターテーブルの向こうから、


差し向かいになっている小さな彼を、



カイは見つめた。





オウジにとって歌うことは


生きることそのものだ。




魂の言葉を、叫ぶことなのだ。







残っていたもう半分のライムを、カイがかじる。





「・・ 苦いね。」






そしてグリーンボトルに手を伸ばし、


残っていたオウジのペリエを 氷の入ったグラスに注ぐと、


一口だけ飲んだ。




コトリ、とグラスを置く 小さな音がする。







「ダメだよ 歌わなきゃ」





「・・・なんでだよ・・?」





投げやりな、問いかけ。





「ボクが キミの歌を愛してるから」







グラスの中の 冷たい氷の隙間から 


今、シュワシュワと音を立て




透明な泡が


カイとオウジの間で、弾けていた。







---------------------------------To be continued!





このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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