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78、モーニング・ぺリエ・2




「イテてて・・・ 」






いきなりくらった言葉の狙撃に、カイは


胸を押さえてヨロヨロと振り返る。


犯人に撃たれた刑事のつもりかよ。







「フイ打ちだよ、オウジ君。 

しかもハートど真ん中!」





「・・・」





「キミのそういうところ、スキなんだ。」







からかってるのか、はぐらかしたいのか。



こういう時にやってのけるカイの軽やかなウィンクが、


オウジをイラ立たせた。






その幸せな仮面を外したい。




誰にも見せない、



アンタの心の、


一番奥にあるモノが 欲しいんだ。







カイは、石造りの


キッチンカウンターの向こうで、



オウジの差向いに 腰かけた。





そんな日常的な所作でさえ、


動きにまったくムダのない


彼の 美の世界が




オウジの前で、生まれては消えてゆく。




これから始まる舞台の


プロローグであるように。







「ビンゴだよ、オウジ君。」






カイの精悍な声にふくまれる、もの憂い響き。




長い指先が包み込むマグカップから


湯気が ふんわりと曲線を描いて立ち上り、




ミルクホワイトのVネックから覗く


首筋のアザを、




ぼかしては消えていく。







「なんでだよ? 


ヒナが死んだのは、事故なんだろ?」





「そういうことになってるんだけど・・」






カイが窓の外の、薄い空色に目を向ける。





どこか遠くと繋がっているこの視線の 


心もとなさが、



いつもオウジを  おいてけぼりにした。







「どこで起きた、どういう事故か・・・


ボクは まったく知らないんだよ」





「えっ・・? 兄妹なのに?」





「真相を知ってるのは、たぶん父と母くらいだろうな。

 


マスコミに変なウワサを

たてられないように密葬だったし、


周りも気を使って、


死因については 何も触れなかった。


 

嘉川家の伝統を 守るための


暗黙の了解だったんだろうね」





「・・だからって、

なんでアンタが 殺したことになんだよ」






カイはしばらくマグカップを見つめ、


そのふちを、指先でなぞっていた。






「 ヒナのね、

黒いジャケットに・・。


白い粉の入った、ビニール袋が入ってたんだ。 



・・イミわかるよね?」






「わかるさ。 昨日オレもヤったから」






カイの瞳が 苦しそうに曇る。






「父にも母にも言えなくて、

トイレに流して捨てたんだ。


・・これ以上 あの人たちを悲しませたくなかったし」





「それで?  アンタも共犯者になった気でいんの?」





「・・・ ヒナはなんで

ドラッグなんかに、手を出したと思う?」





「さーな。 人生が思い通りにいかなかったからだろ。」





「そう、人生は思い通りにいかないよ。  



ボクとヒナは 間違えたんだ。



ヒナが男で

ボクが女に生まれてれば、よかった・・。



そうしたらアイツが 欲しくてたまらなかった

11代目寿三郎の名を 襲名できたし、


ボクが男をスキになったって、当たり前なんだしね」





「 ・・・・ 」







オウジが外した視線の先にある、


ヒナのための アンティークテーブル。



一輪の白いバラは、



もう命の輝きを 失い始めていた。







「・・・んなコト・・


そう生まれちまったのに、どーにもなんねえじゃん」






セブンスストリート沿いの窓の外には


アイスブルーの空。







「どうにもならないよ。 



でも、ヒナが苦しかったとき

・・悲しかったとき


気づくことなら出来たハズさ。



ボクが一番アイツの 近い所にいたんだから。



ドラッグに染まる前に、  


事故になんか 遭う前に・・・。」





「・・・・・」





「言っただろ?


ボク等は子どもの頃、テレパシーみたいに

互いの気持ちが わかってたんだ。


ボクがヒナとの間に


こんな分厚い壁を、作らなければ・・・




・・救えたハズなんだ。」






心を覆い隠してしまう、


凛とたたずむ 彼の美しさ。





その誰も 立ち入ることを許されない、


 

神聖な森の 泉に


湧き続けるような




カイの悲しみ、ふるえる心に 




オウジは触れる。






クラシック音楽のチャンネルから


周波数を変えたラジオからは、



場違いに はしゃいだPOPSが流れていた。







「アンタ、思い上がってるぜ・・・ 


誰も、人の事なんか救えねーよ。」





「・・・そうだね。」






小さく微笑んだカイの、


伏せ目がちの長いまつげが 朝日を受けている。



きっと今日は、いい天気なんだ。






こんな白い朝に手を伸ばし


カイの哀しみを探り当てたところで 



オウジの心が、休まるワケもない。






「オウジ君は? 誰を殺したの?」






カイがこちらに向けてくる、やわらかな声が


ただの問いかけなのか、反撃なのか。






「ファンの女。」




「 ・・・ 」





「ンでもオレは確信犯だぜ? 


ラリってナイフ振り回してるヤツが居んの

わかってて、煽ったからな。



もっと狂わせてやったんだ、


コイツ等全員 

死ねばいいって思ってよ!


  

ハハッ 



・・ホントに死ぬと思わなかったけど。」






「 ライブの 最中に・・? 」






オウジは舌打ちした。



つい、余計コトを口ばしった。。



自分の過去なんて、


誰にも話したりしなかったんだ、今までは。






「 操れんだよ、 オモシれーくらいに。 


アイツ等みんなラリってやがるから、

オレがそー歌えば、思ったように動くんだ! 


アハハッ バッカみてぇ」






オウジは安っぽい芝居みたいな物言いをした。



が、カイには解った。




この少年が 本気になれば、



熱狂的なファンを操るくらいのコトは


きっと、やってのけるだろう。





彼の持つカリスマ性は、 



揺れる少年達の 心の奥まで


ダイレクトに響くに、違いない。




こうして会話をしてる時にさえ、


彼の声には 



何か 得体のしれない力が、あるのだから。







「 刺されたの? その子 」





「ケンカんなったヤツ等を止めようとして

刺されたらしい。


はっ、バカだよな・・!


死んだってのは、ずいぶん後になって聞かされたけどな。」





「どんな子?」





「知らねえ、見てねーし・・・。


オレ昨日みたいにステージで、ブッ倒れちまったから。



なんか、倒れたときアタマ打ったらしくて、

気がついたら 

事務所の 社長の車ん乗せられてた・・。 」








---------------------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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