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76、極彩色の闇・3




クロウのシャツを掴んでいた


オウジの指が力を失い、



その手が、だらんとズリ落ちた。






オレはニホンジンじゃない  



母親が 在日韓国人だから




ザイニチでもない 

 

父親が




日本人だから






――じゃあ、オレは何だ・・  



    オレは 



 オレは、


  いったい誰なんだ・・・?






真っ白な混乱が 


霧のように オウジを包み込むと





目の前に 立ちはだかっていた 


クロウもジュンギもジンも、あの夏の日も




紗がかかったように霞み


やがて、ホワイトアウトしていった。






そして再び ライブハウスの轟音が、


オウジの耳にカットインする。





その轟音を 打ち負かすほどに、



オウジは やりきれない激情を


ただただ、鍵盤にぶつけ続けていた。






「 チクショウ 


  チクショウ・・っっ!! 」






その演奏は、


もはやメロディーと 呼べるものではなかった。





鬼のような形相で、ただ感情を叩き付け



体内のエネルギーを 放出させるためだけに


鍵盤を打ち鳴らす、




オウジは



壊れた 機械仕掛けの人形のようだった。







「オ・・・オウちゃん・・・!」




ショウゴが両手の 指を組み


筋肉質の 分厚い胸をハラハラさせながら、



オウジを見守り続けてる。








どうにもならない。



時間は止められず、


過去を変える事も できない。



オレは一生この罪を背負い、


逃れられない悪夢の中を 彷徨うしかないんだ。






オウジの居る場所には、


一筋の灯りさえ 届かなかった。







踊り狂うライブハウスの中では、


2人の少年の乱闘が さらに


ヒートアップしていく。





そして、いつものように


オウジそっくりの少年が 高く掲げたバタフライナイフが


鈍く光った。






   「やめて!!」






激しい演奏と 少年たちの詰りあう声、



押し寄せる


ドぎつい極彩色の波の中で 





なぜだろう



その少女の声を、


歌っているオウジはハッキリと聞き取った。



いや、感じ取ったのかもしれない。






―― 誰だ・・?  


  なんで 正気のヤツがいやがんだ?!






苛立つオウジは、歌いながらその声の主を捜す。






―― どのオンナだ・・?!






客席の中をくまなく探している、その時


オウジは自分の背後に、


何かを感じた。






この喧騒の中で 


その気配の醸し出す 静けさは、




なぜだか 毅然と、 


そして、確かなモノだった。






――な、何だ・・・ これ?  



   このカンジ ・・



 こんなの、


      いつもは 


  夢に出てこないのに・・・!?






確かめようとしたが、


なぜだか 振り向けなかった。




歌っているオウジもまた、


歌い続けることしか できなくなっている。





朝日が、夜の闇を追い払うように 


光のもやが広がって、




ゆっくりと



静かに 


この轟音を、抱き込んでいく。






―― どうしたってんだ・・?  

こんなの初めてだ・・。


    いったい  


いったい、


    何が起こってんだ


     ・・・?!







動揺するオウジの目の前で、



マイクを握ったオウジも 


重たいベースも、ギターの金切声も 




空間の中に 掠れてく。




そして、ライブハウスも少年たちも、



ピンクやグリーンの 極彩色も





乳白色の光の中に、


消えて行った。







ショウゴが、叫んだ。




「カ、 カイちゃんっ!!」





13丁目のショウゴの店の 扉がひらき、 


そこにカイが立って居た。 





カイの後ろに広がる1番街は


深い夜のハズなのに、



彼の着ている アイボリーのセーターから


物静かな光が 射しているように



ショウゴには見えた。





オウジのピアノ演奏は徐々に、


おぼつかないものに なっていく。





指が震え 


体はもう、言う事を聞かない。





「 ・・チクショウ・・・ッ 」





力をすべて使い切ったオウジに、


カイがゆっくりと 歩み寄る。





店中の人々が 


その1歩1歩を 何も言わずに見つめていた。





最後の力を振り絞って 


それでも 鍵盤を叩こうとするオウジは、


イシキも朦朧としていた。






「もういいよ 



  オウジ君・・・」






カイの言葉で、


オウジの中の何かが プツリと切れた。






「・・ へっ  

  また アンタかよ・・・ 



    チク ショウ・・ 



 邪 魔しやがっ

         て・・」





オウジは ピアノの椅子から力なく崩れ落ち、


とっさにショウゴが、それを支えた。






「オウちゃんっ!!!」






気を失いかけたオウジの頬に 


ボタボタと、大粒の涙が 落ちてくる。





ぼんやりと 目を開けたオウジの真上に、



涙でぐしゃぐしゃに崩れた、


ショウゴの 日焼けした黒い顔がある。






「・・・ナニ泣いて ンだよ・・ 

 

 バッ カじゃ  ねー の・・・」





「だって・・・ッ

だってッ・・っっ !!」





嗚咽でしゃくりあげ、ショウゴは言葉にならない。






「泣くな  カマ野郎・・ 

 

  よけーブサイ クだ・ろ・・」





「うっううっ・・ アンタが泣けないから・・・


アタシが代わりに泣いてんのよっ・・ 

バカな子ねっっ!!」





「 ・・へへっ  カッコわり~~・・・


   店 潰すより先に・・


テメエの体が 

  ポシャっち まっ た  ぁ・・ 」





「オウちゃん・・・っ!!」





「こんなもんだぜ・・・


  オレなんてよ ぅ・・・」





「ダメよ、オウちゃんっ! 


アタシの目の黒いうちは

絶対アンタを 潰させたりしない!!


潰させやしないわよっ・・・! 

ううぅ~~~っっ」





ショウゴは力任せに オウジを抱きしめ、


店中に響き渡るほどの声で、


オンオンと泣いた。





「・・痛ぇ よ 離せ、  デブ・・・」








カイにだけは、


見られたくなかったんだ。





歌えない


何もできない



何も創れない  




壊すことさえも できなくなった




無力な



こんな、みじめなオレ。







だが、すべてを曝け出してしまった


オウジの中には



不思議な安らぎがあった。






―― もういいや・・ 



    いんだよな・・。 




 カイの前で イキがんなくても・・・







わずかに残った声を搾り 


オウジが呟く。






「 カイ・・  オレ


  人殺しなんだぜ・・? 」






何を言い出したのかと、


その場に居合わせた全員が、ギョッとした。




が、カイは 眉も動かさずに言った。






「 偶然だね。 ボクもだよ。」






ピンと張りつめた空気の中で 


カイだけが、暖かな体温を放っていた。





「だから、帰ろう?」





その微笑みを受け止めて、 


オウジはやっと その黒い瞳を閉じた。







---------------------------------To be continued!





このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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