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74、極彩色の闇・1




はらり・・・と、白い花びらがひとつ落ちた。





カイはスケッチブックから パステルを離して、




アトリエの隅にある



ヒナのための祭壇に活けた


一輪挿しの白いバラに、視線を移した。




しばらく花を変えていない。






「そろそろ

新しい花を買ってこなきゃな・・」





そう言って立ち上がり、彼はキッチンに向かった。




ステンレスのケトルに水を注ぎ、


コンロにボッと 火をともす。






部屋の中はヒーターが効いて 暖かだが、



窓の外に広がるイーストヴィレッジは


いつもより、どんよりと暗い。




時計の針は 午前2時を回ったところだ。






BGMのかかっていない部屋の中で、


秒針の音だけが 響いてる。






「・・・遅いな   オウジ君・・」







妙な、胸騒ぎがする。




いつだったか、


これと同じものを感じた時があった、とカイは思った。





湧いたお湯をカップに注ぎ、


カモミールのティーパックを入れる。





ほの甘い花の香りが 湯気と共に立ち上っても、


なんだか心は、落ち着かない。





そうだ、あれは・・・






「 ヒナが逝った日だ・・・。 」






あの18の夏の夜も、



こんな風に生ぬるい空気が、


重く体にまとわりついて来て




なかなか寝付けなかったっけ。






―― ここは冬のNYなのに・・・?






自分の鼓動が、



時計の秒針よりも速く、大きくなって


聞こえてくる。





胸に湧きあがってくる 闇は




大切な人が、また居なくなってしまうという



根拠のない不安だった。






玄関のベルがけたたましく鳴った。




カイの心臓が、それに応えて暴れ出す。





意識的に息をゆっくり吐きながら ドアを開けると、


そこには汗だくになった、キースが立っていた。






「・・どうかした?  キース」





「カ、カイ! 来て下サイ、 オウジが・・・


  オ、オウジが・・・!」






息も切れ切れの 強張った顔を見て、



カイは胸の中の不安が


ハッキリとした形となってしまった事を 知った。




そして、そこにあったスニーカーを引っ掛けると



そのまま部屋を、飛び出した。









「遅いわねキー坊は!  

カイちゃんはまだなのっ・・?」





13丁目のショウゴの店では、


オウジの激しいピアノ演奏が、続いてる。




ショウゴは顎にまでつたう、冷たい汗をぬぐった。





店の客も従業員も、みな


オウジの創りだす音の世界に 呑みこまれ、



金シバリ状態のまま。





気丈なロシア女のリカは


なんとか2つの足で 踏ん張っていたが、




エンリケは冷蔵庫に もたれて座り込み、


虚ろに、中空を見ていた。





フロアには、


演奏に合わせて、激しく体を揺すぶっているモノや、


テーブルに突っ伏して 動物のように唸っているモノ、




眼をギラギラさせて、何かへの怒りをあらわに


叫んでいるモノもいた。






力任せに鍵盤を叩き続けている オウジの瞳は、


ココではない どこかを見ている。





オウジの脳の中では


時間が ぐにゃぐにゃと膨張し、




イシキは過去の


音の海の中に、トリップしていた。







そこでは、ベースの重低音が


地面を どす黒く這いまわっていた。





激しいドラムビートが、


ピアノを弾くオウジの体を、地面に叩きつけようと



クサビとなって降り注ぐ。





そこは、黒く塗られたコンクリート壁に囲まれた、



忘れもしない




あの日の、ライブステージだ。







――なんだ 

    ココは・・・!?



オレが 過去にぶっトんでんのか・・



それとも、いつもの悪夢の中に 

入っちまったのか・・・?







ドラッグの幻想世界の中で、



ピアノ演奏を続けているオウジは、


ステージの上で歌っている 自分の姿を




映画でも見るように、目の前に見ていた。





そこでは2人のオウジが、同時に存在していた。





だが、ピアノを弾く自分には 肉体的な感覚があったが、



過去のオウジは 


切り離された次元に いるようだ。






銀色のマイクロフォンを 握りしめ、



歌っているオウジの周りに


澱んだ 極彩色のエネルギーが、渦を巻いている。






ライブハウス中に詰まっている、


黒服のヤセこけた少年達が



オウジの歌に合わせて 狂ったように跳ね続け、




毒々しいショッキングピンクと


ライトグリーンのオーラが



小屋一杯にハジケていた。






オウジの怒りと 


彼らの絶望が引き寄せ合い、混ざり合い、




ひとつの生命体いのちであるかのように 躍動し、



それはオウジの体を通して、歌となった。





そして、その歌が彼らを


ますます心の地獄へと 引きずり込む。





切れることのないエネルギーの循環が、


極彩色の 巨大な渦を生み出していた。







――オレが この嵐の中心だっ!!







有頂天になっている 自分が見える。






――こいつらは オレの歌声に支配されてる・・! 

 


心臓の鼓動も、脳の回路も全部

 



     全てが オレのモノだ!!







オウジの声が


独裁者の音へと、 その力を増してゆく。







――  そうだ  狂え  狂え !  

 

 どーせ つまんねー人生なんだろ? 



     お前らみんな 



   死ぬまで踊らせてやるぜ!!!







その、絶対的な威圧感と共に


艶めくオウジの声に



少年達は我を無くす。




そして体まるごと 彼の歌に心酔し、



力の限りに、跳ね続けた。






やがて、もみくちゃになっている観客の


人混みをかき分けて、




服も髪型も ピアスの開け方も 


オウジそっくりの ヤセこけた少年が、



ステージを目指して、近づいてくるのだった。






ピアノを弾いているオウジは、その先の展開を知っていた。





それは何度も、何度も夢に訪れる



消えることのない 記憶なのだ。






「 やめろ・・・っっ ! 」






声にならない声で、オウジは叫んだ。







---------------------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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