69、月のない夜・2
「カイの妹ってさぁ」
キヨシが声を潜め、
カウンターをダスターでフキフキして
勤労青年を装うキースに、体を寄せる。
「18歳の時に、事故で死んでるんだけど、
おかしなことがあるんだよ」
「ナンデスカ?」
「嘉川は 梨園の大きな家柄なのに、
葬儀にマスコミは 完全なシャットアウト。
ホントに ひっそりと行われてるんだよ」
「・・? ドユことですカ?」
「世間には知られたくない死に方を、したって事さ!」
キヨシの嗤いは、人の不幸は蜜の味的な
ワイドショーのコメンテーター顔。
「ソレがカイと・・
何か カンケイありますカ?」
ふと、フロアの中央からこちらを見る
リカの不審な目に キヨシが気づき、
目の前にあったメニューを広げ、キースに
質問してる体を装って、さらに近づく。
「カイは妹が死んでから 舞台に一切出てないんだ。
んで、NYに来たのが事故の1年後。
その頃って、精神的にヤバかったんだろ?
きっと妹の死が、関係してる。」
「てことは・・・ オウ!
カイの描き続けてる天使は、シスターですネっ?!」
「しいっ・・! 声がデカイって。
いくらリカ達が 日本語わからなくても、
ショウちゃんにバレたら 全部オジャンなんだから・・!」
キースは慌てて両手で口を押え、
その青い眼を左右に動かして 店内の様子を伺った。
「妹はきっと事故じゃない、ヤバい死に方をしてて、
そのショックで、カイは舞台に立てなくなったんだ!
じゃなきゃ、輝かしい将来を約束されてる
”歌舞伎界の貴公子”が
フラフラと NYで絵なんか描いてるもんか」
「事故じゃなくって・・ 事件デスカ・・?
オウ、ノー ジサツっ!?」
「さあね。
でもカイはきっと、天使になった妹を描くことで、
何かを清算してるのさ」
「ワ~ォ・・。
ますますドラマチックですね!」
思わず大きな声で唸ってしまったキースの耳を、
リカがグイっと掴んだ。
キヨシが「あ」と口を開いた時には、
キースは半分宙に浮いていた。
「ちょっとっ! さっきから何コソコソやってんのさ?!」
「イテテテっ!! 耳!耳!」
「ショウゴがいないんだからね!
くっちゃべってないで
カウンターの中もフォローしなさいよっ!」
「イ、イエッサ~! キー坊今行きマース」
キースがリカに敬礼して、
慌ててカウンターに戻って行く。
残されたキヨシは、苦笑いするしかない。
「ア・・アハハッ・・
今日はショウちゃんがいなくて大変だね、リカ」
「ったく、このクソ忙しいのに ドイツもコイツも!」
リカは冷たい瞳で キヨシを一瞥すると、
すぐにフロアの、自分のテリトリーに戻っていった。
「ふ~~おっかねー・・。
オレ、強い女にイヂメられる
星の元に生まれてんのかなぁ・・」
キヨシは思わず背中を丸めて、レモンハイを啜った。
窓の外の13丁目に連なる
ブラウンストーンの屋根屋根は、
今にも雪が降り出しそうな、
冷たい雲で 覆われはじめていた。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




