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67、伝説のロッカー・2





「そのオウジが・・  なぜここに?」




「消えたんだ・・。」






洋一はマティーニの中のオリーブをかじり、


あまり馴染みのない味に、マズそうに顔をしかめて、



マティーニで それを流し込んだ。






BJの安定したベースの音が


店内によく響きわたり、




ジェシーの下腹に、やけにずっしり


共振してくる。







「消えた・・って?」




「うん・・。  事件があったんだ」






さっきまでの浮かれたテンションから


急降下した、洋一のカオ。




ジェシーの分厚いセーターの中の ふくよかな胸に


不安の波が押し寄せた。







「ライブ中にファン同士が ラリった勢いで

乱闘 始めちまってさあ。


んで、止めに入った子が・・ 



オレのダチだったんだけどさ、

ひでえケガして 救急車で運ばれたりして。


あん時は 大騒ぎだったなぁ・・・



その後、バンドはすぐに解散しちゃって、


オウジは、いっさい表に出てこなくなったんだ」





「そんな・・・!」






あれだけの才能と 讃美者を持ちながら


自分の音楽性のいっさいを 否定しているオウジの、



翳りある黒い瞳が 



ジェシーの目に浮かんだ。






「ZerOはメンバー変えて メジャー契約したんだとか、


ケガしたその子が 死んじゃって、

その呪いで オウジは歌えなくなったんだとか、

 

ジャンキーんなって自殺したとか・・



ロンドンか上海に行った、ってのもあったな。




色んなウワサが、好き勝手に飛び交ってたけど・・・


 

1年も経てば、 

人は忘れていっちゃうもんなんだな・・」







魔法の解けてしまった 自分の時間を


空しく眺め、


洋一はマティーニを啜った。






「ああ・・でも、そっかぁ  

NYにいたんだ・・!


生きて、ちゃんと音楽やってたんだ・・。」






洋一にとっての、絶対的なカリスマ。



思いがけない彼との再会に 


酔いしれている洋一の横で、



ジェシーがポツリとつぶやいた。






「違うわ・・ 

オウジは歌ったことなんかない」





「えっ・・・ 歌ってない・・ って?! 


じゃあ、  ヤツはホントに・・・」





「まだ 歌えないんだわ、 きっと・・・」






ジェシーは店のドアを見た。





―― 何処に行ったの・・? 


    オウジ・・・






どこかを彷徨っている 彼の事を思うと、



おせっかいな彼女のハートが 


いつもよりも重たく、疼いた。










「よかったわ~。

 

そんな風に 飛び出してくなんて、

オウちゃん、やっと音楽ヤル気んなったのね!」





カイの部屋のキッチンカウンターに


ショウゴとカイが、差向いに座っている。




2人の間に並んでるのは、


どーんとお重に詰まった、ショウゴの手料理の 数々だ。






「うん、もう何にも怖いものなし!って

イキオイだったよ、 オウジ君。」





「いいわねぇ~~、若さって!


ちゃんと自分に 向き合うようになった時

あの子はどこまで、ノシ上がって行くのかしら・・


うふふっ 楽しみだわぁ~~」





「みんなの お母さんみたいだな、ショウゴさんて」






そう言って微笑むカイは、



淡い虹色のオーラに包まれて


背後に咲き乱れる 白いジャスミンの花から



甘く清楚な香りが、立ち上っている。





と、マジで ショウゴには見えている。






「ヤだわ!

アタシなんて、ただの世話焼きオババよおっ」






黒い顔を赤くしたショウゴが、


キャピった勢いで、持ってきたワインを開けた。




それを受けて、


カイがグラスを 食器棚から出してきた。






「お店は大丈夫?」





「いーのいーの!超~ヒマなんだもーん 


あっ・・アタシ迷惑だったかしら?」





「ボクはかまわないけど、


お店に行った時に ショウゴさんがいないと

みんな淋しがるよ」





「カイちゃんたらっっ!


ホントに 褒め殺しスナイパーちゃんなんだからあっ」






チューリップ型のワイングラスに、


ショウゴが赤ワインを ダバダバ注ぐと



ほのかな葡萄の香りが、


グラスのカーブに当たって砕けた。





チラリと、ショウゴの小さな眼が、カイを見上げる。






「 ・・んねえ、カイちゃん


最近 何か変わったコトなかった・・? 

ええと・・誰かにつけられてる感じとか?」





「さあ・・?」





「オウちゃんには? 


ブランドスーツ着た女が、周りをウロついたりしてない?」





「どうかなぁ? 


そんなひとがいたら、オウジ君なら 

気合い入れて口説いてるだろうけど?」





「そう・・ 


まだコッチには来てないのね。 よかった。」





「どうかした?」





「ううん、なんでもないのよーー! 


ただアタシは、

ダウンタウンの美少年を 守る会の会長だから。


ささ、飲も飲も。」





2人がグラスを合わせようとしたその時、


けたたましく玄関から、ベルの音が鳴った。






「・・・あの女ねっ?!」





愛人を迎える正妻ヅラで


ショウゴが玄関のドアを開けると、



そこには思った通りの女が 立っていた。


オカマの勘はスルドイのだ。






「なーーによっ 

せっかく2人でいーカンジだったのにぃ~~ 


アンタ、またオーディションに落ちたんでしょっ?!」





「ああら、ショウゴこそ 何でココに? 


店長のくせに仕事サボって、ずいぶんヒマな店ねぇ~~」






今夜はまだ酔っていないローズが、


ショウゴを押しのけて


ずんずんと部屋に入って来る。






「ハイ ローズ。

新しいルージュだね? 何かいい事あった?」




「カイ~~!! 聞いてちょうだい! 

受かったのよ、舞台が決まったの!!!」




「うわ~ おめでとう!」




「ええっ?! 

ブブ、ブロードウェイ?

スゴイじゃないのよ、バラ子~~!」





「ううん、オフブロードウェイ。 

でも3人のコーラスの中の1人なのよ!」




「え? コーラスぅ?」




「コーラスだけど、

ストーリーの進行をしていく重要なキャストなのよ!」




「ステキだね! お祝いしなくちゃ」






カイがワイングラスを もう一つ棚から出して、


ローズに渡す。




彼女には、ステムにシャレた装飾が施された


バカラを選んだ。






「あらっ、あのクソガキは? いないの?

思いっきり 自慢してやろうと思ったのに」




「ピアノを捜しに、飛び出していっちゃったよ」




「へえ? あの子が?」




「さあさ、クソガキちゃんは放っといて

乾杯しましょ~よ!」






合わせるグラスが3つになって、


部屋は、ますます華やいだ。




赤ワインをビールのごとくイッキ飲みする


ローズにつられて、



ショウゴも負けじと後を追い、笑いがハジけた。






「よかったねローズ。 

ガンバって来た甲斐があったね」





「そーよう! 

この女、落ちても落ちても 絶~っ対に

あきらめなかったものぅ。


その根性だけは、アタシ認めてたわ! 


さ、さ食べて頂戴~~オイシイわよっ」





「ああ、いいわショウゴ。  

舞台が控えてるから、体シボんなきゃ。」





「バ、 バラ子・・っ !」






いつもいつもオーディションに落ちては 喰いまくる、


呑んだくれ女の、キゼンとした態度に


ショウゴはウルッときてしまった。






「アバズレ女には役が付いたし、

ヘビ女の魔の手は届いてないし、


クソガキちゃんは 夢に向かって突進だし! 


ああ、今日はもう最っ高~~ね! 」





「早くオウジ君も、帰ってくるといいね」





「何処かでノリまくっちゃって

止まらなくなっちゃてるんじゃないかしらぁ~?」





「キャハハッ きっとそーよ!」






笑い声でいっぱいの窓から見える 月明かりは、


雲の合間で白く、燦然と輝いてる。






そして、その月明かりも届かない 夜の中、



闇の中を




オウジは必死に、逃げ惑っていた。








--------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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