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66、伝説のロッカー・1





ダークブラウンのアーリーアメリカンな


インテリアで統一された ジャズ・バー。





そのオトナな印象とは似つかない、



オウジとBJ、白人ドラマーの3人が 織りなす


ゴキゲンなフリージャズに




ムーディーなNYの夜を、過ごしに


やって来たハズのお客達も



ノリノリのお祭り騒ぎである。






そのハジケた人々の群れの中で、


ジェシーは、洋一と顔を見合わせたまま



立ちすくんでいた。






「オウジ・・?! 


やっぱりあのピアノ弾き、


“ZerO”のヴォーカルの、オウジだよなッ?!!」






洋一が、ジェシーに詰め寄り、


その肩をグッと掴む。




同時に、ピアノに没頭していたオウジの耳が


その日本語が呼ぶ、自分の名前を捉えた。




ピアノを弾く指が、止まる。





オウジが振り向くと、


知らない日本人オトコがいた。




何故だかソイツは、自分の正体を知っている。






「 ・・・!! 」






反射的に立ち上がったオウジのイスが、


ガタタッと音を立て、床に倒れた。




あろうことか、その男の前に立っているのは、


ショウゴの店のおせっかい女、



ジェシーだったのだ。





不思議に思ったBJと、ドラマーの視線が、


オウジに向く。




オウジとジェシーの、目が合った。





―― バレた・・・!!!





真っ白になったアタマに、その言葉がよぎった瞬間、


オウジは、店の出口に向かって 走り出していた。




それは人を怖れるノラ猫のような、


とっさの瞬発力だった。






「お、おい・・」



「なんだ なんだ?」






最高潮だったセッションを放り投げ、



逃げるように店を 出て行く


ピアノ弾きの少年に、客たちはどよめいた。






「オウジ!!」






走り去る彼の背中に向かって


そう声をかける洋一に、



一番驚いていたのは、ジェシーである。




彼女は、そのガラス玉のようなブルーの瞳が


割れそうになるほどに、



目を見開いていた。





BJとドラマーはケゲンな顔を


見合わせながらもプレイを続け、




ピアノの前には 


本来座っているはずだったピアノ弾きが


やっと自分の場所を取り戻して、




そのまま演奏は続いた。








『 ZerOのヴォーカルの


   オウジだよなッ・・?!』







――  オレの事知ってた・・! 

  

  あの声は 



確かに そう言ってた!!!







自分の正体を知っている 


あの日本人は何者か。




なぜNYここ


ソイツが今、ジェシーとツルんでるのか。





オウジの心臓が飛び出そうに暴れ、


思考がグルグルと 渦を巻いた。




ただ、足だけが機械のように 


動き続けている。




バカに狭くなっている視界が 捉えきれずに


ぶつかった、



通りすがりの通行人にも 気づくことなく、




息を切らして


オウジは闇雲に、夜の中を走った。









「ど・・どういう事?  


洋一は、なぜオウジを知ってるの?」






洋酒のビンが立ち並ぶ、古ぼけたカウンターに戻っても、


まだジェシーは 動揺していた。




バンド演奏は、


いつもの大人びたジャズにとって変わり、




ノリノリだったお客達は 


なんとなく、拍子抜けしてしまってる。






「・・こんな所にいたなんて・・!」






洋一は、どこに焦点が合っているのか わからない眼で


唸る様に呟いた。




グラスに残っていたモスコミュールを


イッキに飲み干す。





そしてようやく、


隣で 歯がゆそうに答えを待っている


ジェシーの視線に気づいた。






「ああ・・! 

もう、いったい何から話せばいいんだ!


ジェシーはさ、アイツの事どこまで知ってるの?」






どこまで・・と言われて、


ジェシーはちょっと困ってしまった。




オウジの事は知ってるようで、何も知らないのだ。




そしてその少年に 好意を持っていることも、



うっすらと、気マズイ空気を


洋一との間に作り出した。






「名前と・・・

日本から来たって・・。」





「アイツさ、

すっげえヤツなんだぜっ?!」





彼のあまりのコーフンぶりに、



「アリガトゴザイマス」と「コンバンハ」程度しか


日本語を解しない、もやしバーテンダーも



カウンターの向こうから チラリと、こちらを見た。






「オウジは 伝説のロッカーなんだ!!」




「・・伝説 の・・?」




「ああ、待って。  

マスター!ここにマティーニね、ベリィドライでっ!」






もともとロック好きの洋一は、


好きなバンドの話になると 止まらなかったが、



今夜は特別に エキサイトしてる。





「ZerOってパンクバンドがあってさ、

インディーズだったけど、凄っげえバンドだったんだよ!!


コアなファンが、いっぱいついててさァ~~



あ、メンバーの事は、年齢も出身も不詳で

ファーストネームしか公表してなかったんだけどさ、


ヴォーカルのオウジが! 


もうっ、とにかくスっっゲえんだよっ!!



オレらよりかなり年下だと思うけど、

歌もヤバイし、


なんつーかな!


会場中が、みんっな巻き込まれちまうような


もんのっすごいオーラがあんだ、オーラが!!」





ここまでをイッキにしゃべくり、


洋一は目の前に置かれたばかりの ドライマティーニを



グイッとひとくち煽った。



かなり大きめの一口。






「ヤツはさぁ

黒のライダースと 黒のパンツとブーツと・・


いっつも全身黒づくめで、

アクセサリーも全部シルバーで、


目つきヤバくて


すっげえーーカッコよくってさ、


オレ等ファンが、真似してよう!



もー髪型も服も、ピアスの開け方まで、


みーーんな競って、オウジと同じにしてたんだゼぇ?  

ダハハハッ」





やんちゃな青春時代に戻ったように


いつもよりずっと早口にまくしたてる


洋一の日本語は、



ジェシーには、聞き取りずらかった。




が、その大音量とイキオイが、


彼のオウジに対する 熱狂ぶりを、十二分に表していた。






―― そう・・


   そうだったんだわ・・!





ジェシーは、この店で初めて


オウジと逢った晩を 思い出していた。




あの時、ジェシーは


オウジが洋一に似ていると 思ったのだ。





オウジが


“日本から来た、黒髪の若いオトコ”だったから、


同じ日本人の彼を 思い出したのだと、



今の今まで思っていたが。





ジェシーが最後に 洋一に会った大学生の頃、



洋一は真っ黒の服を着て


今と同じに右耳に4つ、左耳に3つ光るのピアスを開け、


シルバーのアクセサリーを付け、



目つきまでが、やけにワイルドになっていたのだ。




今思えば、それは出逢った時のオウジと、


全く同じだったのである。






――オウジが洋一に 似ていたんじゃなくて、


  洋一が 

オウジに似てたんだわ・・ !






「アイツの声の響きに

こう、 なんか 魔力みたいなモンがあってさぁ・・。


野郎も女も、みんなオウジに狂ってた。


そう、狂ってたんだ!



アイツのためなら 死んでもイイってくらいのヤツが

もうっマジで、ゴロゴロいたんだぜぇ!!」





洋一の眼は、瞼に焼き付いている

 

“伝説のロッカー”を 見ていた。






「子どもじみてて、大人びてて・・。


イヤ、年齢とか、性別とか、


そんなのいっさいを ブチ超えちゃってるところに

オウジはいるんだ!



独特のハスキーボイスに、妙~なイロ気があってさぁ


野生の一匹狼みたいな 

あの、激しくてっ  孤高の黒いに・・


いつの間にか みんなさ・・・」






その先の言葉は 続かなかった。




彼はイシキは、


もはや当時のドコかに、イってしまってる。





それはドラッグに後押しされた


ただの 幻想だったかもしれないが、





彼の中には、


確実に オウジと言う名の



カリスマ少年の魔力が、今でも宿っていた。





その証拠に、洋一の眼は、



崇高している誰かを見ている、信者のそれと同じで




トナリで話を聞いているだけの ジェシーまで


かき乱されている。






純粋なのか 



汚れているのか



美を 紡ぐ者なのか   




破壊者か






すべてが混じり合っている


その少年が放つ媚薬に 惑わされているのは、



自分もまったく同じなのだ。








---------------------------------To be continued!


このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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