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63、雪色のスポットライト・3





ふわふわと白いモノが


空から、舞い落ちてきた。





「あ・・!」





同時にそれに気づいて、2人顔を見合わせる。





「雪だね!」



「ヤケに寒みぃと思ったぜ。」






なんでかな、


雪が降るとウキウキしてくる。




ホラな、アンタもそんな顔。







こんな瞬間とき



ぎこちないオウジの胸は、少しばかり 軽くなる。






2人は、はらはらと雪の落ちてくる5番街を


ダウンタウンに向かって 歩いてる。





碁盤の目のようなマンハッタンの


ど真ん中をタテに走る、この道をずっと下れば、




自分たちのエリア


ワシントンスクエアまで 続いているのだ。






地下鉄ならあっという間だけど



変わる街並みを眺めながら、


ゆっくり歩いて行くのもイイ。




こんな寒い日ならバカげてて、


なおさらイイ。







マンハッタン島は 1枚の岩盤の上にあるから、


地震が起きないんだっていう。


――100年に一度だとか言われてる―――





だから、140年も前に建てられた教会や


古きヨキ建物が健在して、



新しきモノと混在してる。





空を映す ガラス張りのスマートなビルのすぐ横で、




地下鉄の空気口から 立ちのぼる白い水蒸気が


くずれかかったレンガの建物を覆い、




ミッドタウンに 


鮮やかな、メランコリーを作り出す。






街を賑やかに飾り付けてる ディスプレイが



もうすぐクリスマスがやって来ることを


知らせていた。







「お、かっけー! あのビル」






立ち並ぶ高層ビルの中の、オウジ好みのデザイン。






「ああ、クライスラーだね。ボクも好きだ」






その、バラの棘のような二等辺三角形の窓が


放射状に配置された



アールデコ建築の クライスラービルは




もとは自動車メーカーの、


クライスラーの本社だった、ビルだ。





ライティングで 白く浮き上がった数々の棘で


どんよりした雪雲を突き刺すように、

 


天に向かって立っている。





このクライスラービルと共に、


マンハッタンのシンボルとなっているのが



エンパイアステートビルだ。





日が暮れて、


白とピンクとグリーンのライトを付けた


エンパイアの足元を、



2人は通り過ぎてゆく。




今日は、キングコングも 登ってない。






――バスん中から、初めてマンハッタンを見た時の、


あの アイスクリームカラーのビルだ・・・!







今、そのビルの真下に 自分がいる。




逃げおおせたマンハッタンの中心を、



出逢ったばかりの、


なのにずっと前から知ってるような




不思議なオトコと 歩いてる。




人生てのは、


どこで、どうなってるのか わからない。








ミッドタウンを南下していくと、


徐々に住宅エリアに入ってきた。




5番街を境に西側がチェルシー、東はグラマシー。




ここも古くからの、落ち着いた街並みだ。




この辺りまで降りてくれば、


交通量もだいぶ少ない。







「晩飯どーする?」




「ショウゴさんの店でも行こうか? 久しぶりに」




「オレ、こないだ行った」




「え、いつ行ったんだよ?!」






ちょっとばかり拗ねて見せる、カイ。



そのカイの向こうから、




ある煌めいた音が


彼を飛び越えるようにしてやって来て




その瞬間に、オウジの背筋に


ゾクリと衝撃が走った。






――・・・ サックス・・?






徐々に激しくなる雪の下で、


歩くごとに近づいて来る、その音の主は




グラマシーの住宅街にある、


1本の街灯の下に 立っていた。





その男のオリジナル曲らしい


トガったメロディーが



彼の吹くサキソフォンから流れている。






男は一心不乱だった。






彼は、雪も通行人も全く無関係な



自分だけの 


白いスポットライトの中にいた。






―― コイツ・・・


 

      っ!!







オウジの足は、歩くことを忘れてしまった。



全てのイシキが、


その音を聴くために 耳に集中する。





そして全身の細胞が、



オトコの紡ぎだす音に 熱く応え 




赤い血が、オウジの体中を突っ走った。






その音は、優れている


・・・などという、




言葉でくくれるような範囲のモノでは


到底なかったのだ。







「いいね、 彼。」




「・・・・」






宝物を見つけたような、カイの弾む声にも


オウジは答えられなかった。




ただ、全身が


そのオトコに釘付けにされているコトだけで



精いっぱいだったのだ。







男は若かった。 20代後半くらいか。





無造作に伸ばした クルクル髪が肩まである、


その白人男は



なんのシャレっ気もない


防寒だけが目的の ダサいコートだけをひっかけて




あろうことか、


住宅街のストリートで 演奏してる。






コインを入れるための


入れ物もないところを見ると、



観光客相手の稼ぎが 目的ではナイようだ。





それもそも、この腕があれば


演奏家として食っていける仕事は


山ほどあるハズだ。





自分のための練習ならば、


わざわざストリートに出る必要はないし




誰かに聴かせたいのなら、


もっと人通りの多い場所は いくらでもある。





彼はあきらかに不自然な 場において



なぜだか当たり前のようなカオで存在し、

 

演奏していた。






マンハッタンの凍える寒さに挑む、


その速弾きは、とびきりだ。





だが、オウジの心臓を捕えているのは 


そんなコトではなかった。





毎日の練習量や努力では、手の届かない高みが、


アートにはある。



どうしても、ある。





そんな、言葉にならない 


正体不明の説得力が 



彼の音の中には、確かに存在してるのだ。






男のサックスから流れ出す


太くおおらかな低音は、



高くなるにつれ 透明度を増していった。





そして、そのクリアな音質の中にある、


一本の煌めく 黄金ゴールドの帯が




まるで生きもののように



グラマシーの街を、自在に駆け抜けていた。






その輝きの正体を、オウジは知っている。





それは 



そのダサい巻き髪サックスマンが


持って生まれた





  魂の 奏でる音 だ。







「 ときどきいるんだ・・ 


こういう怪物モンスターが。 」





カイの声が、


立ちすくむしかないオウジに 届く。






――・・・そうだ  


 コイツは バケモノだ・・!







ウマイ奴なら 日本にもいる。 


いくらでもいる。




テクニックは音大でも、師匠からでも学べる。






でも、この音には 


絶対 NYここでしか出逢えない。






彼は自分の持てる 天性のフィーリングを



マンハッタンという



このパンドラの箱のような、


巨大な街のエネルギーと 掛け合わせ 




誰にも手の届かない音に 化けさせてしまった、



怪物モンスターだ。






―― こんなヤツが


  いるなんて ・・・・!!!







熱くなった体とうらはらに、


オウジの背中から滲み出た汗は 


ゾクリと冷たかった。






「マンハッタンに居て楽しいのは、


こうやって思いがけずに、

モンスターに出逢えることさ。」






カイは目を閉じて


全身で、彼の音楽おとを受けとめる。





その、満ちた微笑に


オウジは思い出すのだ。





隣にいるこのオトコもまた 



自分には手の届かない、


モンスターのひとりなのだと。






サックス吹きの男は


立ち止って聴いている、2人の存在に気付くと




1度だけチラ、とオウジを見た。




そして、すぐに目を閉じて


自分だけの世界へと 戻っていった。





まるで、オマエなどはまったく眼中にない 


と言うように。






―― ・・のヤロウ・・・っっ


    ・・・!!!






オウジの胸の奥から 


小さく地鳴りが 沸き起こる。





それは飛び出て あふれ出し


どうしようもなく、体が震えた。






ついこの間まで、 


自分の中に 当たり前にあったもの。




無くなることなど 


思いもつかなかったもの。




そして、


いつの間にか消えていたものが 




巻き髪男の中では 


炎の龍のごとくに 息づいているのだ。






―― 何やってんだ、オレは・・・ 





  一体ココで 




     何してんだ・・・?!







言いようのない焦燥感が、


オウジの身体中を駆け巡った。






街灯の白いライトの中に在るのは




巻き髪サックスマンと


降り注ぐ、雪だけだ。






それは オウジにとって、



果てしなく遠い 


スポットライトだった。







---------------------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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