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60、5番街の女神・4




なんか 気恥ずかしくなって


見回した部屋の中は、どれもすげえ高級品。




でも、スッキリとした品数と シュミの良さで


イヤミがない。





ところどころに飾られた、


世話の行き届いた 観葉植物が




心地よい空間を作り出し




黄色いイングリッシュローズの


やわらかな香りが、



部屋じゅうを包み込んでいた。






壁に飾られた、いくつかの額縁の中には



グランドキャニオンとおぼしき 航空写真や


船の上から撮ったドルフィンの群れ、




アフリカであろう夜明けの大地などなど、


数々の風景がある。





「カメラは夫の趣味なのよ」





小型飛行機やヨットくらいは、当たり前に持ってそう。





「すげぇ~!」






思わず、写真に吸い寄せられる。




そして、口を開けたまま見入っていた 風景写真の中に


いくつかカイが描いた絵が飾ってあり、



そこにオウジは、




濃いすみれ色のドレスをまとった


天使を見つけた。






「オウジさん、ダウンタウンに描かれている

カイの天使画を ご覧になった?」




「・・ああ、ええと いくつかは。」




「あの子、最初は天使に

黒い服ばかり着せていましたのよ」





「えっ・・?」






黒い服の天使なんて、見たことナイ。






「だから私が頼んだの。 


今度はキレイな色のドレスを 着せてあげてねって」




 


壁に掛かったすみれ色の天使は 


哀しげな瞳をしてる。




きっとこれは、初期の作品だ。






「これはあの子がキレイな色の服を着た、 

最初の1枚目なのよ・・」






レイは暫く天使を見つめていた。




やわらかなバラの香りが



彼女の哀しみに、


そっと寄り添っているようだ。





――このひとは知ってるんだろうな  

 


 天使が 


自分の姪っ子なんだって・・。







レイの おっとりとした微笑みが、


カイが消えて行ったキッチンの方を見る。







「よかったわ、

あの子がこんな風に笑えるようになって」





「いつも笑ってるよ、カイは。」





「ふふっ 笑顔を作るのが身に付いちゃってるのよ、 

 職業柄ね。」






そう言ったレイもまた、


完璧に美しい笑顔だった。






そうなのか?



ショウゴやジェシーといる時だって、


カイはいつも楽しそうだけど。






「あなたはとてもエネルギーが高いわ。 

きっと、お互いにいい刺激を 与え合っているのね。


若いってステキね。」





「・・ってか、

オレが一方的に、ブチのめされてるだけスよ」






オウジの言葉に、レイはそっと首を振った。






「あの子のこんな、くったくのない笑い顔を見たのは

本当に久しぶり・・・。


オウジさん、

これからもあの子と仲良くしてやって下さいね」





「や、でもオレ 別に・・・」





「何の話?」






その時キッチンから、ようやくカイが戻ってきた。




イギリス映画で見るような 背の高いティーポットと


お揃いの、花柄のティーカップが3つ。




そして、これまたお揃いのシュガーポットと


ティースプーンが



カイの持った 銀のトレーに乗せられてきた。






「うっわ映画みて~! 

マジで使うコトあんだ、こーゆーの!


フツー、ティーパックか、自動販売機の缶紅茶だよな?」





うふふ、と レイが笑う。





「そうそう、

ちょうど昨日焼いた シフォンケーキがあったわ。」




今度はレイが、キッチンに立つ番だった。






「いい香りだね、これ」




「 ん~? ホントだ。 缶と違うな。」




「ハハッ」






なんとなく落ち着かない オウジをよそに、



カイはイーストヴィレッジとは別世界の


高級エリアに すんなり溶け込み、 




当たり前にソコに居る。






その後の会話は、ヘンな感覚だった。





マンハッタンの高層ビルの、


まさに雲の上で



2人の天使の会話を ぼんやりと聞いているような。





覚えているのは、レイはカイの母親の妹で 


学生時代にこちらに留学し、




結婚して、ずっとNY住まいなのだという事。





その頃に使っていたセブンスストリートの部屋が好きで、


今でも所有している事、



今はカイがソコを使っている事。





だから、アートが好きなレイのために描いた作品を、


ときどき今日のように、カイが届けに来る事。






この日に渡したカイの作品は、


オウジと初コラボした時の、夜明けの壁画の模写で




レイはとても嬉しそうに、


すみれ色のドレスの天使の 隣に飾ると言った事だ。







その部屋での出来事の どれもこれもが、


オウジとあまりに、かけ離れていて




なんだか紅茶にまで フワフワと酔ったようで。





記憶の彼方に残っている、映画のシーンのようにしか


オウジは思い出せなかった。








「なー アンタって、

もしかして スゲぇボンボンだったんか?」





夕暮れを彩ろうとしている5番街を、


2人、ダウンタウンに向かって歩いている。





「あんな暮らしをしてるのはレイだけだよ。

夫がスゴ腕の 医者だから。」





「でも、実家だって

カブキで ユイショタダシーんだろ?」




「古い家系ではあるけど・・・」





「カップ麺、食ったことある?」




NYこっちに来てから食べたよ?」




「日本じゃ無かったのかよ?!」




「家政婦さんが何でも作ってくれたから。」




「・・駄菓子屋に行ったことは?」




「ハンのデリカならあるよ」




「日本でだよっ!」




「ボクんちの近くには、無かったもん」




「やっぱボンボンだ・・・」




「えー、そうかなぁ?」






その 人なつこい笑顔が、


つかめそうで つかめない。




手が届く場所にいて 


知れば知るほど、遠いような。





このもどかしさが、作り出す引力は




やたらとドラマティックなんだ。






「さっきレイが言ってた。

このアザ、まだ消えないのね、って。」




「ふうん・・」






カイが摩天楼の隙間から、


冷たく広がる 冬の空を見上げる。




その瞳が、



さっき出逢った すみれ色のドレスのヒナに 


あまりにもよく似ていて




今、この瞬間に



彼がどこかへ 飛んで行ってしまいそうで。





胸の中に棲む、そんな不安を



オウジは、ふいに知ってしまう。






静かに 


そして、確かに




彼に、引き寄せられてゆく。








その、2人の後方、


20メートルの距離を置いた ブルーの郵便ポストの陰に



カイとオウジの様子をうかがう、1人の男がいた。





NYヤンキースの帽子をかぶったその男は、


ビデオカメラを回し始めると




3流ドラマの悪役のように、口元だけで小さく笑った。






---------------------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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