58、5番街の女神・2
ミッドタウンに用事があるという カイに付き合って、
カイの部屋からほど近い
8丁目の、地下鉄の駅に向かう。
地下鉄に乗るのは、NYに着いた日以来だ。
――あれからずいぶん経った気がするけど
・・まだ、3週間なんだな。
貴章や美津子は どーしてるだろ。
オレがいなくなったところで、
あのオンナは 高笑いしてるだろな。
それとも、飼い犬にバックレられたって
血圧が上ってるかな。
ヤク漬けの貴章なんか、
ブタ箱の中で、すっげー健康になってたりしてな。
――あの陰険オンナに
イビられなくてスムし・・・。
ホームで列車を待つオウジの胸を、
郷愁とかって書くような想いが、
少しばかりよぎってく。
この日のカイは
ロイヤルブルーのコートに
ムーングレーのパンツ。
よくわかんないけど高そうな生地の、
いつもよりヨソ行きテイストだ。
ローズピンクとブラックの模様が入った
ショールを、
どーやってんだよって 複雑な巻き方して、
すごくデカいんだけど
痩身の体に いいカンジのバランスだ。
オンナのファッション誌に載ってるモデルか、オマエは。
すげー派手。
オレは相変わらず、黒ベース。
黒のクラッシュジーンズと ライダースに
こないだセントマークスの古着屋で
買ったハットも黒だけど、
セーターが桜色で、そんだけじゃ寒いから、
カイの墨色とマリンブルーの、グラデーションのショールを
着けてる。
あっ、今気がついたけど
2人合わせて完成、みたいなコーデになってるじゃん。
「おいっ、勝手に色合わせんな!
ボク達今度デビューしま~すって、アイドルユニットか!」
て、隣にいるファンタジック宇宙人にツッこむと、
ソイツは アインシュタインみたいに
べーっ、てした。
ホームの向こう側にいる女の子たちが
映画スターでも見るような目で
カイを見てる。
オレ達2人を、かな。
ほどなくホームに滑り込んできた
Nトレインに乗車する。
Nトレインは、
ブロードウェイ沿いに 北上してゆくエクスプレスだ。
2人を乗せた急行列車が、真っ暗な闇の中を
ゴウゴウと唸り声をあげて走る。
そのスピードも、この小さな島を走るのに
こんなに必要なのかよって思うほど
パワフルだ。
オウジは目を閉じて、
その荒々しい機械音と 同化する。
もっと強く
もっと速く
もっと高く!
アメリカのどこまでも続く上昇志向を
奏でているような
その輝ける傲慢さを、オウジは聴く。
42丁目・タイムズスクエアで列車を降りて、
2人は地上に上がった。
「うおぉ・・・。」
摩天楼の大都会がいきなりオウジを取り囲み、
空に向かって広がっている。
ダウンタウンにはない高層ビルを足元から
眺めるのは、やっぱ迫力だ。
マンハッタンは格エリアで
街が全く違う。
この小さな島は、パンドラの箱だ。
何もかもが詰まってる。
ブロードウェイと7番街が
斜めに交差する タイムズスクエアは、
マンハッタンの中心地、
まさに“世界の交差点”。
新年のカウントダウンが、行われる場所でもある。
「アレ オレ、ここ知ってる・・かな?」
「“ハイ、こちらNYで~す”って言う
日本のTV中継は、たいていココから始まるよ」
「ああ、そっか。」
土産屋に、ファストフード、
レストランのケバケバしいネオン。
X型に変形した交差点の ど真ん中には、
世界中の企業が 競って広告を掲げ、
ブロードウェイの当日券を
安く入手できるチケットブースは
行列の人だかりだ。
「ブロードウェイって・・
あの年増女優が言ってた、劇場街か?」
「ローズの事?
アハハ、そうだよ。 ちょっと歩いてみよっか?」
2人はブロードウェイに沿って
マンハッタンを斜めに北上する。
演劇なんぞ全くもって 興味ナシのオウジでも、
それなりに聞いたことのあるタイトルを 掲げた劇場が、
いくつも連なっている。
あ、あのネコの目の看板見たことあるぞ。
「スゲー!劇場ばっかじゃん。いくつあんだよ?
こんだけあって、よく客が入るよなぁ~」
「世界中から観に来るからね。
でも評判が悪けりゃすぐにクローズだって。
プレビュー公演でケチがついて、
初日だけで終わったってのもあるらしいよ?」
「うぉ、シビア~」
世界中の役者たちが
ここのステージに立つために
あるいは何かを掴みとるために
群がってくる ブロードウエイ。
街に脈打つ、
ダウンタウンとはまた違った
欲望の鼓動、
野望の波に 響きあう、
オウジの胸の
ドキドキとコンプレックス。
―― なんか 久しぶりだ・・
このカンジ。
弱肉強食の エンターティーメント業界の
確かにココが、頂点だ。
――あの年増オンナ
クニもガキも捨ててまで、
こんなトコに しがみついてんのか・・。
イバラどころか、
地獄と天国の狭間だ。
世界一狭き、 天国への門。
ソコを通るために もがき続ける、
年増オンナの執念に
ガラにも無く、
湧き上がってくるリスペクト。
ちょっとだけ、だけどな。
50丁目まで上がって 東に右折すると
ロックフェラーセンターのツリーが、
色とりどりの電飾で 飾られてる。
30メートル近い大きさで そびえ立っているツリーは、
カナダから輸送されてきた 生の木だって話だ。
ロックフェラーセンターを抜ければ、
そこは、かの5番街。
数々の高級ブランドショップが 本店をかまえる、
ショッピング目当ての観光客の
テッパン大通りだ。
「ホラここ、
“ティファニーで朝食を”の舞台になった、
ティファニー本店だよ」
「え、ジュエリーショップで メシ食えんの?」
「オードリー・ヘップバーンの映画だよ、
知らない?」
「知らねーよ。オンナの映画なんか観ねーもん」
「ハハッ
じゃ、キングコングが登ったビルは、あっち!」
「おおっ 近っけぇ~!」
カイが指差す先に立っている
エンパイアステートビルは
ダウンタウンから見るよりも 遥かに大きく
そびえ立っていた。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




