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56、夢見るマシュマロ女・4



「あ~~っ役得ぅ! 


今日は 2回もオウちゃんと

愛を確かめ合っちゃったーー。」






一瞬、この上ない 慈しみのマドンナと化したかに


見えたショウゴは、



もういつもの イカレ店長に戻っていた。






「確かめ合ってねーよ バーカっ!」






常温にアタマが冷えると、



一瞬でもこの筋肉オカマに


聖母を見てしまった オノレの清らかさに、


自分で引いた。





オウジは営業ブッチョウ面で


ドスンと、座りなおし





気持ちのやり場を探してつけた、


タバコの煙が、



中空に舞い上がり



多国籍な匂いの空気に、


もう一つのテイストをくわえて行った。







「2人とも全然わかってないのねぇ、自分のコト。」






ショウゴは呆れたように笑い、


床に散らばった皿を、手際よく片付け始めた。






「あの日、もしカイちゃんが


アレと同じ絵を 描いたとしても


別の誰かがハーモニカを吹いていたら

全然違う曲に なってたハズよ?


カイちゃんの絵だって、違う展開になってたわ。



あの時の演奏は、一期一会・・。



あの時、あの場にいたオウちゃんにしか

創りだせないものだわ。


ホントは、わかってるクセに・・。」





「・・・」





「そうよ 本当に 

本当にステキだったわ・・。」





厨房から小さなホウキと、チリトリを持ってきた


ジェシーの顔も、まだ拗ねている。






「そら、アンタもよ  ジェシ子」




「わ、私・・?」





「そんな風に熱くなって、ケンカしちゃうほど

オウちゃんの音が好きってこと。


ちゃんとわかってるじゃないの、好きなモノが」





「あ・・。」







それきり


ジェシーもオウジも、黙りこんだ。





店に流れるラテンの曲が、


メジャーなコードを繰り返す。





ジェシーは床にかがみこんで


潰れたチーズスフレをふき取りながら、




ガキくさい 自分の行為の後始末なんか


まったくムシのオウジは、



カウンターに肘をついて 煙草をくわえたまま、





2人それぞれの想いで


場違いな、はしゃいだ音の波の中に 浸っていた。







「何~んにもうらやましがることなんてなくてよ

 ジェシ子。」






ジェシーが顔を上げると、



そのあたたかな声の持ち主の、


微笑みでさらに細くなった目が、自分を見ていた。






「確かにね、

オウちゃんやカイちゃんの才能は特別!


別格。 天才よ。


だから、わかりやすいの。



でもね、


天才が持ってるような特別なモノだけを

才能って言うんじゃないって、


アタシは思うのよ?」







背中で聞いたその言葉に、


オウジは、思い出す。




――そう言えば、

あのBJジジイも そんな事言ってたっけ・・






『人ってのは生まれてくるときに、


  必ず何か宝物を持って

  生まれてくるんだとよ 』







「でも、私なんて・・」





「アンタだって持ってるじゃないのぉ 

たくさん。


お人好しで、おせっかい、

困ってる人を放っておけない優しい子よ。」





「そんなこと・・ 誰だってできるわ」





「あっらぁ~~

隣にいるクソガキには、

気配りのキの字も見えないけどぉ~?


どこに落っことしてきたのかしらぁーー」






ショウゴは、オウジのポケットやら


シャツの裾やらをめくって、



全身をくまなくチェックして見せた。






「うるっせーよ! 


オマエだって美貌のかけらもみあたんねーぞ、

この筋肉デブ!」





「ヤダっ!! 


アタシのこの アフロディーテのような心が 

見えないって言うのねっ!」






ショウゴのデカい拳が、


オウジのこめかみをグリグリ。






「イテテテっっ! 

横暴! セクハラ!! 」





「セクハラって言うのは、こういう事ですぅ~ 

 んんーーっ」





ここぞと近づいてくる、チュウの唇。





「わーーっ 違う! 

パワハラ? 何だ??


・・くそっ、デブ腹っ! ヤメロ!!」






オウジが両手を使って


そのデカい顔を押さえつけ、



固まっていたジェシーのソバカス顔が



ふっと、


やわらかな微笑みを取り戻す。






「ねっ、


その笑顔でまわりの人を あったかく包み込むのも 


クソまじめ~な顔して

ムズカしい本に取り組むガッツも 


み~んなジェシ子の持ってる


ステキな才能だわよ!」





「そんな事・・」





「ほらほら、そうやって下向かないの! 」






ショウゴのデカい両手が、


今度はジェシーの顔をつつみこむ。






「どんなにちっぽけに見えたってね、


私の笑顔は、ちゃんと愛を届けてる、 


私は、

ちゃ~んとマエに進もうとしてるんだって、


まずは、

自分が自分を認めてあげなきゃ。

  


ガンバってるジェシ子が 可哀想よっ?」





「ショウちゃん・・・」






目頭に込み上げてくる暖かなモノが


気恥ずかしくて、


ジェシーはむりやり笑った。






「・・・いつか私も 


自分を 取り戻せるかしら・・?」





「もう取り戻し始めてるんじゃなくて?」





「私の何かが・・ 


誰かの役に立てる時がくるかしら・・?」





「もちろんよ。」






ショウゴは、窓の外を見る。






「冬に葉っぱを落とした木はね、

枯れ木にしか見えないけど 


本当は 根っこを地面に伸ばしてる

大事な時期なのよ?

 


毎日ちょこっとづつ 


ちょこっとづつ・・。



そうして大きく根っこをはやせば、


それだけまた天に向かって

枝を伸ばせるの。」





「天に向かって・・・?」






ジェシーはガラス窓の外で、



オレンジ色の街灯を受けながら


12月の風に凍えている 枯れた木に、



日本で過ごした冬を、思い起こした。





ホームステイ先の、庭に咲いていた椿の花。




冬の寒さを耐えしのぎ 



真っ白な雪の中に



凛と咲いていた、赤い花。





それは暖かな土地に 育ったジェシーにとって


胸を打つ光景だったのだ。







艶やかな季節に 咲き誇る


美しい花たちに後れても 



凍える冬に 




静かに花開く


一輪の花があるように




人もまた 


それぞれに 




自分なりの時間で 


熟してゆくことが できるだろうか





いつの日か 花開き



雪の中を 歩く旅人に 




ひと時の暖を



届けることが できるだろうか









13丁目の


通りをゆく旅人たち。




何かを見つけにやって来た、



ありとあらゆる 国籍の顔。







―― 私も、きっと   




  いつか 


   きっと・・・。






ジェシーはえんじ色の分厚い本を、


そっと胸に抱えていた。






「 まだ夢見てても いいわよね・・。」






それは 誰かへの問いかけというよりも 




自分自身への



ひそかな決意と、願い。






「・・それが マシュマロ女の特権だろ。」






後ろ向きのままのオウジの、


ぶっきらぼうな声。






「・・マシュマロ女って・・?」





「オマエだよっ

 

丸くふくれた 夢と、砂糖でできてる、

マシュマロ女!」





「ふふっ ヤダわ」






ジェシーのビー玉のような瞳が、


窓ガラスに映った 自分の姿を確認する。





そこには、真っ白なセーターを着た 


マシュマロみたいな女が 笑っていた。







---------------------------------To be continued!


このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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