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54、夢見るマシュマロ女・2



あの初めて逢った晩、


オウジの中に同居していた


大人びたワル男は ドコへいったのだろう。





銀縁の奥で、ジェシーの横目が


戸惑いながら


それを探す。






「はいオウちゃん、これも食べてみてっ 

試作品のチーズ餃子なの」




「げえっ・・ 

オレ、チーズはパス!」





「子どもみたいなこと言ってぇ! 

食わずギライはいけませんよ、あ~~~~ん」





「いらねーもんはいらねんだよっ!」





「んもう~、ごっつーウマイだにぃ?」






カウンターの向こうでショウゴがムクレながら、


アツアツのチーズ餃子を、自分の口に放り込む。



ジェシーが、うふふと笑った。






「オウジは本当に

好き嫌いがハッキリしてるのね」




「ああ? フツーだろ、そんなの」




「ふふっ」






まぶしそうに、自分を見つめるマシュマロ女。




その手元のティーカップから、立ちのぼる


ほの甘いりんごの香り。




彼女の周りだけ、


時間がゆっくり通り過ぎているようだ。







「私ね 

・・好きなものが わからないのよ?」




「ぁ? んなワケあるか」




「好きな食べ物は?って聞かれたら 

オーガニックのベジタブル、って答えてたの」






オウジはカウンターの上にある 大皿のラップをめくって、


中の肉団子を、ひとつつまんだ。






「あっ!コラっ」





ショウゴが菜箸で、ピシッとその手を叩く。





「アンタ、ベジタリアン?」




「ええ ママがね、厳しかったの。


肉もコーヒーも、白砂糖も全部ダメ。


お酒はもちろん、

コーラも飲んだコトなかったわ」





「マジかよ!

アメリカで食えるモンなんかねーじゃん」





「全部母が作ってたのよ、料理もケーキも。


初めてコーラを飲んだ時なんて ビックリしちゃった。 

 

シュワシュワ~ってはじけて

喉が焼け付くかと思った!


思わずむせちゃったけど・・ 


なんだか、別の世界が パアッと開けた気がしたのよ」





「んな大げさな・・!」






母親がキャバレー回りをしていた オウジには


コーラも酒も、タバコの煙も、



子どもの頃からオナジミだ。




今どきのアメリカに、こんな女がいたとはな。






「その時気づいたの。 


オーガニックのベジタブルが好きなのは 私じゃなくて、

ママなんだって。


これを食べなさい、あれを着なさい 

この絵画は本物よ。 


全部ママの言うとおり・・。


ビートルズのレコードも、ママに見つかって捨てられたわ」





「ビートルズ捨てるか~?! 

ガハハッ  マジヤベェ親じゃん! 」





「妹はハッキリNOっていい過ぎるタイプで、

いつもママと衝突してたから


私はママを困らせたくなかったのね・・。


だって、パパと別れてから

何もかも一人で頑張ってくれてたんですもの」





「へー・・」






こいつも親父に置いてかれたクチか。



なんか、ちょっとだけ親近感。






「いい成績をとれば ママが喜んだから、

学生の頃はほとんどの時間を 勉強に費やしてたの。


スポーツはオンチだし、

男の子と遊んだりもしなくて・・」






だろうな。




今日のジェシーも前に見た時と同じ、


白のタートルネックのセーターにジーンズだ。




髪も読書のジャマにならないように、



後ろでひとつに束ねていて、実用性がすべて。




運動とは無縁の体に、


ムダな脂肪が 居座っているのもうなずける。






オウジは買ったばかりのKOOLを


一本取りだして、火をつけた。



ふうっと、履いた煙が宙を舞う。






「アンタ クニどこ?」





「サンディエゴよ。

といっても少し山の方の田舎だけど。


NYここよりだいぶ温暖な街よ。」





「ふ~ん。 なんでNYに?」






自分の口から出た言葉に、オウジはちょっと驚いた。 




なんで、こんなブスでデブで 


カモにする必要もなくなったオンナの



身の上話なんか、聞いてんだ、オレ。







「突発的に・・・家出して来ちゃった」




「え、アンタが・・?!」




「ハイスクールの時ね、

1年だけ日本に留学したことがあったのよ」






そういえば、


そんなコト言ってたな。



オレが元カレに、似てるとかなんとか。






「海の向こうの国では


見るもの聞くもの、すべてが新しくて楽しくて


自分が大きく広がっていくみたいだった!



でも、サンディエゴの家に 帰って来てからはずっと

カゴの鳥みたいな気分になってしまったの。



大学を卒業する時に

家を出たかったんだけど、


ママは許してくれなくて


仕方なく 地元の銀行に勤めたんだけど・・・」






仕事場でのコミュ障で、


心のバランスを 崩していったのだという。




いい様にセクハラされてたか、



気の強えオンナ上司に


イジメられてたってトコかな。





自分を守るための脂肪を いっぱい巻き付けて、



このオンナは 


こんなマシュマロみたいな体んなったのか。







「広い空を見たくなって 

アメリカ大陸横断のバスに乗ったの。


ずーーっと空を見ながら・・


何日も揺られっぱなしで、


もう、このおっきなお尻まで痛くなっちゃったわ!


うふふっ」





「ピュ~~ッ! やるじゃん、ねーちゃん」







ロスアンゼルスからエルバン、


フォートワース、オクラホマ、



セントルイスからシカゴまで


15日間のバスの旅。






「せっかくだから、NYまで来てみたのよ」






アメリカ大陸の西の端から  


東の端へ



ただ 広い空が見たくて 




広い世界を 



感じたくて 







「バスから降りて、

アスファルトからの熱風を受けたとき、


あ、ここだ!って思ったの。



暑いけど、私の田舎とも違う、

なんていうのかしら、人の熱気かしら・・?


ふふっ・・今思えばヘンね。



アレは何だったのかしら。」






オレと同じだと思ったけど、


それを口にはしなかった。








ここだ、という


根拠のない 心のシグナル




言葉にならない



摩天楼の磁力に 引き寄せられて 




集まってくる 世界中の 



心の旅人







「NYで暮らしていると、

考えることがあるわ。」






彼女のすっかり冷めてしまった お茶のカップを


ショウゴが、暖かなモノと 取り換える。




ふわりと、やわらかな白烏龍が香った。







「ここでは、みんな


自分の民族に 誇りを持っていたり 


自分らしく着飾ったりしてるでしょ。



地下道も 街角も、


誰かの描いたグラフィティが 競い合って



街灯の下には

演奏するミュージシャンがいる。



こんなに自己主張だらけの街で、



私はいったい

何を思って生きてるのかしら?って。」





「・・・何って・・」





「好きな色は白、好きな音楽はリスト。 


でも、これはママよ。

  


私はただ、ママの理想を

生きていただけ。



でもね、よくわからないの


本当は何が好きなのか、


・・・私は何がしたいのか・・?」








---------------------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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