52、銀の羽・3
ヤバい、なんかちょっと声が暗くなった。
これじゃ、オレがビビってるみたいじゃん。
すげーカッコ悪りぃじゃん。
「・・・へえ?」
あれ。
そんなヤワな心配、どこ吹く風ってカオ。
「それはよかった。」
「・・あ?」
「羽はラッキーなシグナルだよ。
きっと、天使がオウジ君の夢に 訪れたんだな!」
ダメだ。
やっぱコイツはイカれてる。
世界の果てまでもファンタジーと
白砂糖で デキあがってる。
「アンタさあ・・。
羽がラッキーとか ハーフをダブルだとかさ。
なんでそうノーテンキかな!
5丁目のドーナツ喰いすぎじゃねえ?」
「ハハッ
だって、ノーテンキの方がシアワセだろ?」
顔を上げ、
灰色の雲の切れ間を カイは覗く。
そこに天使を、探してでもいるように。
「悲しいことなんて、黙ってたってやってくるんだ。
なら、どんなことでも
ウレシイ方、楽しい方を 選んだ方がイイじゃない?」
「そんなの、現実から逃げて
自分に都合よく ゴマカしてるだけじゃん」
「そうかもな。」
え、否定しないのかよ。
カイは足を止めて、
小さなギャラリーの ショーウインドウの中を覗いている。
そのガラスに映った 整いすぎてる顔立ちの
瞳の奥の秘密を
オウジはまたしても、見つけてしまう。
遠くにつながる、キミの瞳。
その眼に 哀しい色が映るときは
ヒナを 思い出している時だ。
仲たがいしたまま失った
双子の妹を想い
悲しみの底で
この街に流れ着いた彼は
そうやって
ひとつひとつの出来事から、
喜びの雫だけを
すくい上げ
乾いてしまった心を
少しづつ
少しづつ
潤し続けてるのだろうか。
なんか、
ちょっと気まずくなった。
別に、そんな瞳を
させたかったワケじゃない。
ガラスの向こうに展示してある
ワケのわからん絵画を見ていたカイが、
フイにこちらを振り向いた。
「で、オウジ君は? いつ歌うの?」
「 歌・・って・・・
な、 なんで?! 」
また声が上ずった。
彼の、その唐突な問いかけに、
昨日のBJとのアレコレや オレのコトなんかまで
覗かれていた気がして。
――え、 オレ、歌いたいなんて話、
コイツにしたっけか ・・?
「もう1度聴きたいな。 キミの歌」
「あ? 歌ってねーよ!」
「歌ってたよ、
初めてオウジ君と逢った晩。」
「 え・・。
あの、天使の前で
・・ラリッてた時? 」
急いで、記憶の糸を手繰ってみる。
が、行きつく前に
カイのム意識に作っている完璧な笑顔が、
ほころんだ。
「あの時の オウジ君の歌、忘れられないよ。
ハスキーボイスなのにさ、
透き通ってて、やさしくて。
ボクの胸の深くまで 響いてきた。
バーでクダ巻いてたキミと
まるで別人で! ハハッ
ボクはオウジ君に、一瞬で落とされちゃったよ。」
鼓動が早くなる。
オイ、そんな笑顔で正面切って、そんなコト。
いかん いかん、
コイツのペースに巻きこまれてはならない。
コイツは宇宙人だ。
ファンタジー系イカレ星団から
白砂糖でデキた 宇宙船に乗ってやってきた、宇宙人。
「 あ、愛してるのー、落ちたの、
やたらにゆってんじゃねーよ、くそイカレバイ野郎っ!」
ショーウインドウのガラス越しに、
わけのわからん絵画を ムリくり覗き、
宇宙人から目をそらす。
「 オレは多感で繊細な
ティーンエイジャー様なんだよっ! 」
「あれ?
オウジ君、トキメいちゃった?
わーウレシいな~。」
カイはペロリと舌を出し、オウジの顔を覗き込む。
「トキメくかっ、バーカ!
ど、どーせショウゴとか ローズとか、
マシュマロ女とかっ
誰にでも言ってんじゃん」
「だって
ホントにみんな愛してるんだもん」
悪びれずに笑ってやがる。
ホラな。
コイツの“アイシテル”は
“オハヨウ”と同レベル。
ホッとしたような、
胸のテンションが 3センチ下がったような。
コイツの掴みどころのないゲンドーに
振り回されっぱなしだけど。
でも、
分かったことがある。
浮いたり沈んだりしてんのは 、オレだけじゃない。
「オイ ・・ブランケットって
ドコに売ってんだよ」
「え?」
「オレの、買うんだよ!
・・・アンタのコートじゃ短けーしよ。」
カイがオドロキ顔で止まってる。
自分のブランケットを持つ、ってコトは
ありあわせの豹柄のロングコートを
掛布団代わりにして
しのいでいたノラ猫が、
家猫になるというサインなのだ。
「そうだね。」
と、返すカイの声も1音上がった。
んな優しい音出すなって。
リトルイタリーのピッツア屋で
お目当てのカプチーノをテイクアウトして
2人歩きながら、それを啜った。
口の中の砂糖撃退だ。
赤茶に塗られたアパートメントの街並みや、
グリーンのひさし屋根、
赤のギンガムチェックの テーブルクロスが
イタリア国旗を思わせる。
赤、グリーン、白の3色に塗られた
アパートメントまであるなんて
オマエら自分の国、スキ過ぎだろ。
チャイナタウンは、
飯屋やら足つぼマッサージやら
漢字表記の 看板だらけ、
なんかちょっと懐かしい。
どこもかしこも
けたたましい中国語が飛び交って
隣にコイツが居なければ、
NYだってことを忘れそうな
カオスの ぎゅうっと詰め込まれた街だ。
世界中のドコにでもある
チャイナタウンのこのハイテンション、
けっこうスキだ。
キャナルストリートまで 下りて来た2人は
アメリカ~ンな色彩の雑貨や服が、
ゴチャゴチャと吊り下げられた
ヨロズ屋的な店に入る。
ここにブランケットもあるらしい。
全然オシャレじゃなくって
下町の問屋街ってカンジ。
ここも、コイツが隣に居なければ
NYだなんて忘れちまうな。
オレが、選んだブランケットはゼブラ柄。
木の色やグリーンが主な カイの部屋の
爽やかナチュラルな趣を 全くムシした
白黒クッキリなモノトーン。
「ん~~、でもまぁアニマルだから・・
ナチュラルっちゃ、ナチュラルかな?」
笑いながら、財布ではなく、クッキー缶のフタを開け
ストリートパフォーマンスで集めた コインを数えて、
カイが支払いを済ませてる。
何やかんや、店員と話しているカイを置いて、
オウジは先に店を出た。
店の前の路上には、
ベニヤ板で作ったテーブルの露天商が、
列をなして続いてる。
「アブレラ! アブレラ!」
と、黒人の兄ちゃんに 折りたたみの傘をススメられ、
舌足らずの妙な発音だなと思いながら、
そいつの隣の露店に
並べられたアクセサリーを
オウジは何気なく見た。
「・・あ 羽・・!」
まただ。
また“羽”が オウジの前に現れた。
たまたま目に留まった一個目が
羽のモチーフの アクセサリーだったのだ。
『 よかったね
羽はラッキーなシグナルだ 』
「はい!」
ようやく店から出てきたカイが
オウジに掲げて見せたのは、
今買ったブランケットではなく、
作りたての合鍵だった。
真鍮でできた鍵が、3つ。
さっきまでカイの腕に巻かれていた、
白の皮ヒモでできたブレスレットに
くくり付けてある。
「今度から、
出かけるときは 鍵かけて行けよな。」
「・・・・」
少しずつ形の違う、出来たての合鍵を
オウジはじいっと見つめた。
3つも鍵が付いてるドアを、
このオトコはいつも
自分のために開けていたのだ。
オウジは無言で、カイのカバンに手を伸ばし、
クッキーの空き缶を引っ張り出した。
「ん? 何か買うの、 オウジ君?」
オウジは営業ブッチョウのまま、
中に入っていた紙幣を 全部かき集め、
そそくさと露天商に 手渡した。
「ん!」
そして、
握りしめた右手を カイの前に差し出した。
「・・ 何?」
受け取ろうと広げたカイの手のひらに
オウジの広げた手の平から シャラリと音を立てて
銀色の羽が落ちてきた。
それはネイティブアメリカンの 銀細工で、
イーグルの羽に、ちっちゃなオブシディアンの
ビーズがついた ペンダントヘッドだった。
カイは小さく微笑んだ。
その小さな微笑みが、
同じくらいの大きさで
オウジの胸にも 灯を燈す。
「ボクへの愛の証しだね、 ハニー?」
「バーカ。 これで貸し借りナシなの!」
アハハッと軽やかに笑うカイに、
日本語のわからない露天商の
黒人のニーちゃんも
マッシロな歯を見せての 全開笑顔だ。
こんな、見知らぬ男からやってくる暑苦しい笑顔さえ
ラッキーのひとつだとか、
このイカレ宇宙人なら言うんだろな。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




