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46、BJの黒いシワ・1





重たいベースの音が、


どす黒く 地の底から湧き上がり、


床を 這いまわってる。





金切り声で のた打ち回るギターと、


嵐のように荒れ狂うドラム。




黒い服の少年達が、


憑りつかれた様に、飛跳ねる。





黒く塗り固められた コンクリートの壁。



そうだ、 





ここはあの日の ライブハウスだ。






凍り付いた空気が


ショッキングピンクと、


ライムグリーンにギラついて




汗と熱気が、ほとばしる。






憎しみ  孤独 




嘆き 


怖れ





すべてのエネルギーを呑み込む


大きな渦。




オレが この嵐の中心だ。






オレの怒りと ヤツらの絶望が、


ひとつの生命いのちとなり 




オレの声を通して、歌となる。







―― コイツらは 

オレの歌に 支配されてる。



心臓の鼓動も、脳の回路も、 全部 



全部 


オレのモノだ・・!







有頂天になってる、自分がいる。







――そうだ 

狂え、狂え 踊り狂え! 

 

オマエ等みんな 


 死ぬまで踊らせてやる!!!







そして1人の少年が、


うねる観客の波をかき分けて


 

だんだんと ステージに近づいてくる。





オウジは、その先を知っている。





何度も 何度も夢に現れ 


オウジを闇に引きずりおろす、



消えることのない 記憶のツメ痕。






服も髪型も


オウジそっくりの出立ちの、痩せこけた少年が、




バタフライナイフを掲げ、


瞳孔の定まらない目をして、叫ぶ。






「・・オレは オウジだ!」




「やめてッ!」






耳に残っている、その少女の声を合図にして、




羽毛布団を 切り裂いたかの様に、


オウジの視界いっぱいに



真っ赤な羽が 飛び散った。






「 ぅわあぁぁッッ・・ !! 」






夢の中で叫んだのか、現実だったのか、


オウジは自分の声で、


跳ね起きた。







心臓が、胸を突き破りそうに


鳴っている。




冷たい汗が


背中にドッと 吹き出した。






「ハッハッ ハッ・・ッ・・。」






荒くなる息を 右手で抑え込み、


オウジの目が 薄暗い闇の中を、泳ぐ。





小さな時計が、



聞きなれた 一定のリズムを


刻み続けている。






――・・・ここは  



    カイの部屋だ・・。  



  そうだ、

オレ 今、 



NYに居んだっけ・・・。







オウジは、


隣に寝ている カイのカオを伺った。






聞こえてくる、


彼の 穏やかな寝息。





その首筋に浮き上がって見える、


青い龍の アザまでもが、



いつものように



静かに眠りについている。





どうやら、気づかれずに済んだらしい。





オウジは、ふうっ・・と、息をついた。






さっきの赤い羽の映像が、


脳裡に クッキリと焼き付いてる。




それを振り払う様に、小さくアタマを振って、




オウジは カイに気づかれないように、


そっとバスルームに歩いた。






洗面台の蛇口を 思い切りひねり、


震える手で


顔をジャブジャブと洗う。




顔を上げると、青白い顔の、


怯えた目をしたオトコが




鏡の向こうから、こちらを見ている。




オウジの一番見たくない自分が、そこに居た。






―― あの夢、


しばらく 見なかったのに・・・!







ここ数日の間に起きている、


アーティストのタマゴ達との出会いや、 


ローズの昔話やら。




それが呼び水になったらしい。



オウジの中で、


何かが 蠢き出している。






―― チクショウ・・ッ






カイと街に出始めて


ブルースハープなんか吹いて。




音楽なんかと、関わって。






現実の世界に 戻ってきてしまったオウジの手が


カタカタと、小さく震えていた。





オウジはリビングの様子に


耳をそばだてた。





カイにだけは、


気づかれたくなかったから。





彼は、唯一無二だから。





ライバルで


憧れで


 


心通わせられる、


ただ一人、


自分の隣を 歩くオトコだから。






弱いところも ブザマな姿も


絶対に、見せられない。




そんなの見られる位なら


死んだ方がマシ。






オウジはそっと、


玄関先のクローゼットに 掛けてある


ライダースをはおると、




白くペンキで塗り重ねられた ドアを開け



夜の中へと、出て行った。






カイがゆっくりと



ベッドの上で、目を開ける。





玄関のドアの外から、一段一段、階段を下り


その度に遠ざかってゆく



オウジの靴音。





「 ・・ オウジ 。  」





小さく、その名を呟いた。






彼が過去の何かに引きずられ、


怯えていると わかっていてながら、



カイには、どうすることもできなかった。





今、声を掛けたりしたら、



ましてや 同情などしたら、



彼は二度と、帰って来ない。





フラリとこの部屋に現れて 住み着いた 


ノラ猫の様な彼は、



心のテリトリーに入ってこられるコトを、


極端に 恐れているのだから。






立ち上がって、


セブンス・ストリート沿いの窓から


通りを見下ろしてみる。





彼らしくない不確かな足取りで、


オウジは、


乾いた 闇の中に消えてゆく。





ヒーターのよくきいた部屋の中で 



冷蔵庫の電気音が、


静かに うなり声をあげている。






いつか、朝になって目覚めたら


彼はいなくなっているかも知れない。



カイにはナゼか、


ずっとそんな予感があった。






誰かのモノになりえない、 


孤高の黒いをした少年。





彼の持つ自由と 我儘と


傲慢な眼が、スキだ。




だから。




誰とも、決して分かち合うことのない


その痛みを想うと、



カイの胸もまた


狂おしく疼いた。





窓際に 置き忘れたままの、



わずかにコーヒーの残った


バットマン柄のマグカップが、




あふれんばかりの品々が 陳列されたフリマで


コレを見つけた時の、



やけに子どもっぽい、オウジの笑顔を連れてくる。






「 帰って 来るよな・・? 」






オウジが空けていった玄関のカギは


そのままに、



カイはキッチンに歩き、



自分のためにコーヒーを淹れた。






---------------------------------To be continued!

このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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