39、赤と青のロリポップ・2
すれ違いざまに、
若い黒人オンナの背に 抱えている大きなバッグが
オウジにぶつかったのである。
オンナの方は、全く気づいていない。
おいっ!とイチャモンをつけてやるつもりが、
意外とオウジ好みの、シャープな顔立ち。
ココは大目に見てやるわ。
そのオンナの横には
彼女より5センチは背の低い、サエないオトコ。
オマエはコメディアンかよってくらいの
黒ブチ眼鏡をかけ、
よれよれのワーキングシャツに、
細身で色白で、オマケに猫背で、
いかにも貧弱~~なカオ。
―― ダっセえーーー奴。
全っ然 釣り合ってねーじゃん・・!
その黒ブチ眼鏡は、
惣菜コーナーのカリフォルニア巻を、トングで
丁寧~にパックに詰めながら、
そのライスと、アボカドと、エビのチョイスが
どんだけヘルシーなのか、ウマイのか、
そしてカリフォルニア巻の 歴史についてまでも、
ぶつぶつとウンチクを述べていた。
声が小さい上に、少し訛りがある。
最もニューヨークで耳にする英語は、
どいつもこいつも訛ってる。
こんだけ広い大陸の アッチコッチで育ったヤツ等と、
英語が母国語じゃないヤツ等ばかりなんだから
それがアタリマエなんだな。
で、そのサエないオトコが、
寿司のネタひとつに よくこれだけ語れるわって
感心するほど、熱弁をふるいまくってる。
――何だコイツ、 スシオタク・・??
もうひとり、
隣にいたギターケースを背負ってる
カーリーヘアーの若い男が
ニヤニヤ顔で、黒ブチ眼鏡の首に 腕を回した。
「コイツ、今度の作品展で
スシがテーマの映画 撮んだってよぉ」
「ええ~っ 何それ、マジなの?」
彼女の目も口も、好奇心で大きさが2倍。
「エージェントも大勢見に来るって話だぜ~。
だからオレがテーマ曲を作ってやるのさ、
超クールなダンスナンバーを!」
カーリー男がケースの上からギターを弾くマネをして、
彼女はキャハハと大笑い。
「スシダンス~~? 超っクールじゃん!!
じゃあアタシが歌ったげるよ!」
「ノー、 歌詞のない歌なんだ。
だからお前はダンスの特訓して、踊れ!」
「えーっ!?
ぶはははっ、それイイかも~」
他の客には目もくれず、
フレンチフライポテトを 山ほどパックにブチ込んで、
ケチャップをダバダバかけている2人の、
喜々と、ハジける会話。
隣でうつむくメガネ野郎は、
ムッツリな笑いを浮かべているだけだが、
その黒縁の奥の目には、
得体のしれない自信が 棲んでた。
ずくり、とオウジの心臓が鳴った。
年のころはオウジと変わらない その青年達は、
どこかのアート系の学生らしい。
キラキラな明日を 夢見るエネルギーが、
3人の間でパチパチとスパークし、
その眩しさが、オウジの胸を 締め上げた。
目をそらせたその先に、骨太コリアンの店員がいて、
オウジと目が合うや、
それを 待っていたかのように
ハングルで話しかけてきた。
「オマエ、クニハドコダ?」
オウジはハングルを 聞き取ることはできる。
会話もかろうじてOKだ。
国際色豊かだった母の バンドマンの影響で、
フィリピン語と 台湾語も少し、わかる。
彼らと母の共通言語が、英語だったので、
英語も話すコトならできた。
が、日本の男に惚れ、
日本人でありたかった
在日韓国人2世のオウジの母親は、
すすんでハングルを話すことも
オウジに 教えるコトもなかった。
だからオウジは
あの、丸と棒を 組み合わせた図形みたいな
ハングルの 読み書きは、できない。
骨太コリアン野郎に 関わるのはメンドーなので、
言葉がわからないフリをしていると、
ヤツは、めげずに英語で 攻めてきた。
「なんだ、お前コリアンじゃないのか?
クニの同胞だとばかり思ったぜ、
オレの甥っ子に 目元なんかソックリだから!
ハッハハハァ~!」
何がそんなにおもしれーんだ、このオヤジ。
オウジはシカトで
買い物カゴを、ドスンとレジに置いた。
店員はのんびりとレジを叩きながら、
商品をひとつひとつ
紙袋につめていく。
「オマエ新顔だな? イカした髪色じゃないか!
・・っと、 17ドル75セントな。
最近ここいらに 来たのかい?」
骨太野郎の毛深い手が、
マンハッタンの地図を 袋につめる。
オウジは無表情に、その男のカオを見た。
赤ら顔をテカらせたその男は、
満面の笑みで
懐かしそうにオウジを 見つめてくる。
――チッ どいつもこいつも・・!
出玉爆裂ニコニコ祭りかよ、
うぜーっつの。
オウジはさっさと金を払うと、
男に背を向けて 店の出口に向かった。
「おい、兄ちゃん
ナンか困ったら ココに来んだぜぇ!」
骨太赤ら顔オヤジは、
親戚の子どもでも見る様な 濃ゆい笑顔で、
オウジの尻を、ポンと叩いてきた。
「勝手にオマエの親戚にすんな、
暑苦しンだよ、赤鼻っ!」
韓国籍のパスポートで アメリカに入国し、
韓国人に 親族扱いされながら、
韓国人ではない、自分。
――チクショ、
こんな店、
・・来んじゃなかった!
店を出たオウジの足取りは、重い。
雲に覆われて
日差しが 射さなくなった街を、ひとり行く。
暮れてゆく、赤煉瓦の街。
オウジの耳には、
さっきの アーティストのタマゴ達の
笑い声が、繰り返し 繰り返し
聴こえてくる。
「 何 やってんだかな・・
・・・オレは・・。 」
いつまでもこの異次元で
カスミを食って いられるワケじゃない。
―― これから どうなるんだ・・・
オレ・・?
このまま、
カイの部屋に 戻る気にはなれなかった。
そこには、自分に最も近くて
もっとも 遠いオトコがいる。
カイの中から滞ることなく、あふれている
豊かな才能に、
今は1ミリも触れたくない。
オウジはセブンス・ストリートと
反対方向に向かって 歩きだした。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




