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37、白い月とワインの夜・3




「ボクとヒナが 険悪になっても、

父はそれを喜んでたよ。 


なんにせよ、 ボクが芸事に没頭するのは


嬉しかったんだろうなぁ・・。」





「へッ 

親なんてどこも身勝手なもんだな!」






寒空に輝く白い月が、


カイとオウジの 2人を見下ろしている。





――ヒナって  


 月の女神 だったかな・・・ 。







月明かりに映るカイの顔は、


いつもより女顔に見えた。







満開の 桜を背にして、


ここにいる




キミは 誰 ?




カイ、


それとも 




キミが ヒナ・・ ?









カイのしなやかな長い指が


残りのワインを、



オウジのグラスに注いだ。




グラスの曲線に沿って 揺れるワインが、



ほんのりと香り立つ。







「オウジ君のとこは? 


・・・どんなお父さん?」






「さあ・・ よく知らねー。


3歳ん頃には 帰って来なくなったから。」






「ふうん・・・」







何の音楽も、いらなかった。



他の誰かなら 気マズくなるような話でも、




ナゼか この2人の間には


根拠のない 信頼感があって




言葉も時間も 



すんなりと流れていった。






胸の奥で 凍り付いていた想いが、


言葉に姿を変え




しずかに 流れて溶けてゆく。







「ヒナは、 なんで死んだんだよ・・?」





「事故で。  

18の夏に 突然逝っちゃったよ。」







カイと同じ顔なら、


すげーいいオンナだったに違いない。




そっか、


あの天使も キレーなねーちゃんだったよなと


思い浮かべながら




オウジは、クラブハウスサンドイッチを頬張った。







「それで・・? 


アンタはオヤジから逃げて

NYここに来たってわけ?」





「・・・・・」







少し酔いのまわったカイは、


いつもよりずっと 無防備だ。




ふせ目がちの瞳から こぼれ落ちる切なさを


おおい隠す、笑顔の仮面も



今夜は 外れてるコトに、気づかない。






「わからなくなっちゃったんだ・・ 

 

失ったのは、双子の妹なのか 


ボク自身なのか・・。




ヒナが突然逝ってしまったその日から、


自分のことが

何も見えなくなってしまった。



  

ボクが誰なのか、


  ・・・わからなかったんだよ。」






儚く揺れるキャンドルといっしょに、


カイの声も、ふるえてた。






「“嘉川寿三郎”なのか 

“坂本海”なのか・・。


でも、 坂本海なんて どこにいるんだ?  


いったいこの世の誰が、それを知ってるんだ?!」





「 ヒナが  ・・知ってた? 」





「・・・・っ・・」






カイは片手で顔を覆った。



長い指の隙間から、のぞいて見えるのは


苦しそうな、彼の眉。






「ボク達2人だけが知ってたんだ・・!

 

ホントは“海”と“雛”なんだってこと」





「 ・・・。 」






ほの暗い部屋の中の、


カイのシルエットはとても小さくて



オウジは、どうしていいかわからない。





もしカイがオンナだったら、


一瞬の間も空けずに、抱きしめてたけど。






カイは気だるく瞬きながら、



モヒカンアップにしていた髪のピンを


ひとつひとつ、外してく。






―― コイツが舞台化粧を落として

素の自分に戻るときも 


 こんなカオ、してたのかな・・。






それは、不思議の国の貴公子が、


人に戻っていく 儀式のよう。







「 セリフは アタマに入らないし、

食べれば吐いちゃうしさ・・


周りの景色がね、


モノクロ写真みたいに、白黒になっちゃったんだ。



見かねておふくろが


ボクをここに送り出してくれたのが、2年前。」







その言葉に、


オウジは不思議な シンクロを感じた。




景色がモノクロにしか見えなかったというカイは、




この部屋でコーヒーを飲むまで


何の味も感じられなかった自分と 同じだ。






満開の、あわい桜色に 


白く浮かんで見えるカイの 遠い瞳は、



ここではない どこかを映してる。





なのに、今はものすごく 



ものすごく 近い距離ところにいるのだと


オウジはカンジた。







類まれな美しさも、



豊かな才能も 


家族のような友人も、 




居心地のいいイースト・ヴィレッジの部屋も




なんでも持っているように見える この青年は、 




実は何も 


持たないのではないだろうか。





そうやって“坂本海”は、


この街に 天使を描きながら暮らしてる。





100人も描くほどに。





彼女への愛情を 確かめてるのか



許されたいのか。





それとも


何かを 探してるのか。







―― 路上に描き続ける 天使の絵は 

カイの レクイエムだ・・。 



あの時オレが聴いた 天使の歌は、




 カイの歌 だったんだ・・・。







「 けっこう不器用なんだな アンタ・・。 」




「 キミと同じくらいかな・・? 」






貴公子でも、ヒナでもないカオに戻って



カイが 微笑わらった。







--------------------To be continued!



このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。


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