31、心に棲む天使・2
なぜだか、オウジの鼓動が早くなった。
それは
立ち入ってはいけない、彼の領域であるコトを知らせる
点滅信号だ。
「・・あ・・。」
そして、もうひとつ思い出した。
『 天使を口説いてもだめだよ?
あのコは この世のモノじゃないからね 』
あの時見つけた、
寸分の狂いもない彫刻のような、
カイの美しい笑顔の下にある
凍り付いた何か。
悲しみと言う名前に似ている、
何か。
―― コイツが こんなカオするときは、
ヒナ関連なのか・・。
その時カイの、
体感温度を15度上げる声が 切りこんできた。
「ね、オウジ君 ゲームしようよ!」
「え、 ゲーム?」
「賭けに勝った方の選んだ服を、
負けた方が買って着るんだ! どう?」
「・・ナニ賭けんだよ?」
「ん~~。 そうだな・・。
次にすれ違うのは、男か女か?」
「くっだらね~!
でも、ショウゴはどっちだよ!」
「どっちにしよう? ハハッ
じゃあ~~ 目の色は? 」
「っしゃ。
次にすれ違うヤツの目は・・ ブルー!」
「ボクは、ブラウンだ!」
なんとなくウマが合う、
このフシギなオトコと出逢ってから、
初めて流れた 微妙に乾いた空気。
早く ソレを消し去りたい。
そんな思いが、2人に共通したのかも。
「後で泣くなよ!
オレ、賭け事はめっちゃ強いんだぜぇ」
オウジも、不敵に笑って見せた。
――コイツとツルムのだって、
どーせ 今だけなんだし・・。
明日のわからないNY。 楽しんだモン勝ちだろ。
2人はジャケットコーナーに 立ち止まったまま、
ゆっくりと店内を見回した。
黒い瞳の黒人オトコが1人、
髪をオレンジがかった金髪に 染めてるオンナが1人。
でも、後ろを向いている 彼女の目の色は見えない。
2人の左側から、中東系の女の子が歩いてくる。
「あのオンナ、サングラスで目の色がわからねーぞ」
「黒・・だろうけど・・? 見えないね。
外してもらおか?」
という日本語が解るハズもないが
中東系の彼女は踵を返し、
2人の間を 最初に通って行ったのは、
北欧系の中年オンナだった。
「あ、ホラ ブルー! やりぃオレの勝ち!」
「あれはグレーだよ、2人ともハズレ~!」
「ち、細けーヤロウだな。
クソッ 次はブロンドのブルーアイだ、ゼッタイ!!」
「それってオウジ君の好みじゃないの?
じゃあボクは・・・ 赤毛のブラウンアイかな」
「ソレがアンタの趣味かよ?」
「うーん、ボクは何でも・・。
強いて言えば、ブラックアイズが好き。」
とか、言いつつオレを見んな。
どーでもいいけど アセるだろ。
オレンジヘアの グレーアイズ、
レインボーモヒカンの ブラウンアイズ、
ドレッドヘアの ブラックアイズ
ブラウンヘアの グリーンアイズ
・・・
髪を染めたり カラーコンタクトを入れたり、
ダウンタウンでの、この組み合わせは、もう無限。
なかなか勝負のつかない 2人のゲームは、
くだらなすぎる笑いと、
ルーズリーフ耳男の アキれた視線の中で
夜まで続いた。
結果はオウジの 3勝1敗。
オウジが買わされたのは
桜色のセーターひとつで、
カイが買わされたのは、
金ラメのハイネックと ブラックのエナメルパンツ、
そして豹柄の
フェイクファーのロングコートだった。
「ガハハハハッッ・・
ア、アンタめっちゃ似合ってる!!
ブヮハハハッッ・・! 」
オウジはもう、笑いが止まらない。
超~~がつくゲス野郎を目指しての
チョイスだったのに、
スレンダーで長身のカイは、なんなく着こなし
しかもモデル並みにイケてたりする。
「ガハハハッ
ナ、・・ナンバーワンホストんなれるぜ?
ショウゴの店で働けばど~~だよ」
「ん~~。 このカッコなら
クリストファーストリートの方がモテるかな~~」
「クリスト・・? ドコ? 」
「クリストファーストリート。
有名なゲイのストリートだけど、行ってみる?
歩いてスグだよ。」
「行かねえよ! バーカ」
「そう? オウジ君モテそうなのに。」
「モテてどーすんだよ!
それより、ショウゴに見せに行こうぜ」
「待って!この靴じゃ合わないよ。
一度帰って履き替えよう」
「・・アンタ、
実は 気に入ってンじゃねーの・・?」
オウジは眉をしかめ、それからブハハッと笑った。
その時間、いつもならショウゴの店は
ディナーの後の呑みの時間。 稼ぎ時なのであるが。
「今日は、サッパリデスネ・・」
テーブル席に1組しかいない客席を見て
おしゃべりキースが、ため息をついた。
昨日の、カイとオウジのコラボで
ゴキゲンに盛り上がりまくったツケの 二日酔いで、
スタッフ全員がデロデロである。
「そんな日もあるわよ」
胃薬を飲みながら、ムリの効かない中年ョウゴが応える。
いつもなら黒光りしている顔には ハキが無く、
本日のイカレ店長は、5歳フケ込んで見えた。
その時、カランカランと ドアに付いた
ベルの音をたてて、ようやく
もう一組の男女が入ってきた。
男性の方は、お馴染みの顔である。
「あら~久しぶり、キヨポン!
待ってたのよ~ぅ」
カウンターに座った2人の客を見る ショウゴの目は、
救世主を見るが如くに うるうると、
たちまち全身の褐色の肌も
ハリとツヤを取り戻す。
客商売に、もってこいのオネエなのである。
「ど~お?最近は?
TVギョーカイって いつも忙しいんでしょう~? 」
「もーずっと忙しかったんだよーー
うちのボスは人使いが荒いから!」
キヨポンと呼ばれた 20代後半の青年は、
弱々しいアイソ笑いを オシボリで拭きながら
となりに座っているそのボスを、眼で紹介した。
隣のオンナは、
たしかにボスらしいシックな色の
ブランドのスーツを颯爽と着て、
高級美容室と、高級エステと、高級化粧品のニオイを
半径50センチまでプンップンに放っていたが、
目の下のクマと、
厚塗りのファンデーションで 埋められたシワが、
数年にわたって ムシし続けて来た疲れを、
物語っていた。
「あら、こちらお初ね!
ショウゴです~~、よろしくぅ~」
ショウゴがカウンター越しに出した
メニューを見るより早く、そのオンナは
「レミーをロックで。」
と、アルトの声で言い放った。
明らかに、この店には場違いな空気。
「今夜は、変わったオキャクサン来ますだネ?」
キースが厨房の中で、ジェシーに囁く。
レミーのロックとレモンサワー、
お通しの、ひじきサラダがカウンターに並べられると、
乾杯もせず 酒に口をつけたオンナが
キヨポンにアゴで合図した。
「あ、あのさショウちゃん」
キヨポンも、サワーを一口すすってから
言葉を続けた。
「今日はショウちゃんをダウンタウンの
オネエの中のオネエと見込んで、お願いがあるんだよ~。」
「あらっ、なーにキヨポン 何でも聞いてっ!」
「ショウちゃんは、この街の東洋系のイケメンなら
知らない奴は いないんだよね?」
「ヤダもう!
そんなホントの事、今さらぁ~~!!」
ショウゴの肉団子のような体が、弾んでクネる。
「最近、
この街に来た 若いオトコを知らないかしら?」
女がレミーマルタンの中の氷を
カラカラと揺らしながら言った。
「黒髪を逆立てて、黒い目に、
黒い服を着た17歳の少年。
日本から着いたばかりなんだけど」
「えっ・・・」
キースとジェシーは思わず顔を 見合わせた。
女は細いタバコの先に火をつけて、
刑事のように鋭く、ショウゴの目を直視した。
--------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




