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3、ダウンタウンへ





グランドセントラルターミナルで


バスを降りると、



とたんに凄まじい風が


オウジの体につきささった。





「うぉっっ・・! 

くっそ寒みぃーー!!」





思わず、言葉が口をつく。





NYの緯度は、


日本の青森県と 同じくらいだ。




皮製とはいえ、12月の寒さはとても



ライダースジャケットで、しのげるものではなかった。





他の乗客は、ツイードやダウンの入った


真冬用の ロングコートに身を包んで、



バスの荷台に預けたスーツケースを


受け取るために、



白い息を吐きながら、待っている。





手荷物だけのオウジは、


ショルダー式のカバンを 肩にたすき掛けして


足早に歩きだした。





――・・・ヤベえ。


 この街、なんかヤバイ ・・。 





NYどころか、


部屋の外に出ることすら 久しぶりのオウジは、



それを敏感にカンジとった。





人通りも少ない深夜の、


ピリピリと張りつめた 空気の冷やかさは




真冬がもたらす


気温のせいだけではナイ。  





華やか、かつ煌びやかなイルミネーションの中にある、



世界中から集まってきた


 


あらゆる欲望 


野望 



アメリカンドリーム。




そんなエネルギーが 


ぶつかり、混ざり合って 化学反応を起こし



この街独特の 緊張感を生み出して 



マンハッタンを包み込んでるのだ。





それは、17歳のオウジが


今まで感じたことのない規模の


強く、濃密なエネルギー。




オウジは身構えた。




何者かが どこかに身をひそめ


いつも弱者を 待ち構えている臭いがする。





―― 一瞬でもスキを見せよーもんなら 


 絶対ヤベぇな・・。






本能で、そうカンジとる。






幼少の頃から、


オウジは母親に連れられて 日本中を



旅して回った経験があった。





母親は 在日韓国人の歌手だったが、



フィリピーナや台湾人の バンドメンバーと共に



クラブやキャバレーのステージを


巡業していたのだ。





さまざまな街の 空気感 



つみ重なった歴史の重み、



住んでいる人の 作り出す “場”のエネルギー。





小さなオウジは そういったものを


即座にカンジ取り、




肌に合わない場所や キケンをカンジる所は


自然と、避けるように身についた。





寒さを逃れて



地下鉄の駅に、走りこむ。






――さて、どーっすっか・・・。






グランドセントラルターミナルは、


マンハッタンの 42丁目から45丁目にかけて


パークアヴェニューの真上にまたがっている、



巨大な列車のターミナルだ。




他州からNYへの 長距離列車も 


数多くやってくる。




ここから、マンハッタンの内部を走る地下鉄は



地図で見るところの 上下に走っている


4、5、6番トレイン。





それぞれのホームに


アップタウン、


ダウンタウン、 



と表示されている。





北上する路線がUPで、南下する方がDOWNてワケだ。





マンハッタンは大きく分けて、3つのエリアに分かれてる。




黒人やプエルトリコ系の居住区、


ハーレムのある アップタウン。




劇場街や、高級ブランド店と


オフィスビルが混在する ミッドタウン。




チャイナタウンや リトルイタリーがあり


その他にも、多様な民族と 


多くのアーティストが暮らす 



ダウンタウン。





今オウジのいる グランドセントラルから


UP方向の列車に乗れば、


かの有名なハーレムだ。





――ハーレムって・・  ヤバくね・・・?





マイケル・ジャクソンやら 


ダイアナ・ロスやらを 世に送り出した



アポロシアターってのは、


確かハーレムって ヤバい黒人街にあったハズ。





ブースの中の駅員に


サブウェイの乗り方を聞き出すと、




まずはトークンと呼ばれる


NYの地下鉄・バス専用のコインを買い、



それを改札のトークン投入口に入れ、



三つ又の回転式バーを押して、入るんだそうだ。





こんな時間に 乗り方もわからない子供が


地下鉄のホーム入ってゆく姿を、



駅員がアキれ顔で 見送った。





薄暗い地下鉄の、


ダウンタウン行きの プラットホームに


降りたとき



ふと、


初めてオウジに 不安がよぎった。





――  これから ドコに行く?  




  ・・金は どーすんだ? 






今朝方 たたき起こされてからというもの、


ずっとイライラに支配されまくって、



気づくヒマもなかった


オウジの心の奥の 黒雲が



ムクムクと、湧き上がる。





――この先どーなるんだ?


   

     ・・・オレは   





 もう一度 歌えんのか・・?








『 いい気にならないことね。



  アンタの代りなんて

いくらでも見つけられるのよ 』





冷たく黒いモヤに包まれた オウジの心に、


メギツネ美津子の 言葉が浮かぶ。






『 ステージに立つと声が

出なくなるだなんて・・。



歌うことしか能のない フダツキが、


皮肉なもんだわね? 』





フン、と鼻で嗤って、



美津子は、次にデビューが決まっている


ロック系アイドルグループの



プロフィール写真の、チェックをつづけた。





『役に立たないボーカル一匹、

ナンのために 飼ってると思ってるの? 



今アンタを抱えてるのは、


貴章の面目のためよ。


  

肩書きだけは、

まだウチの 社長なんですもの』





そう言って美津子は、


パープルがかったルージュの唇から



メンソールタバコの煙を


オウジに向かって、吐きつけた。





『 いったい貴章は

こんなロクデナシ小僧のドコを


買ってるのかしら~?  



才能なんて、あっても使えなければ


ただの粗大ごみだわ。



・・ああそう、


ゴミ同士で 

慰めあってるのかしらねぇ?』






――ナニ言ってやがる 



そのゴミ亭主に、未練があんのは オマエだろ・・!






オンナとして 扱われなくなった美津子が、



夫の貴章と オウジの関係を


疑っている事を知っていて、



オウジはわざと、イミ深にふるまった。





それが、なんの力も持たなくなったオウジが



支配者である美津子にできる、


たった一つの 抵抗だったのだ。




そんなことでしか、


あのオンナを見返せなくなった自分に、



一番イラ立ち、


愛想を尽かしているのは、オウジ自身だった。





胸の中で、


どうにもできない 炎がくすぶってる。






――チクショウ・・・ッ






その時、


薄闇に埋もれた オウジの左頬を、


煌々と 灯りが照らし出した。





ヘッドライトを光らせ、ゴォーーッと唸りながら、


列車が プラットホームに突入してくる。




眩しさに、思わず目を閉じた。






  心の奥底で

 


   声がする。







――・・・こんなところで、負けられっかよ!!






オウジは、切れ長の目を見開き、


闇の中から 顔を上げた。






――あのメギツネも、クソな暴力教師も、


オレをコケにした奴ら 


全員ブッちぎってやる!



テッペンに 上り詰めてやんだ!!






目の前で開かれた


ダウンタウン行きの 列車のドアの中へと



オウジはミリタリーブーツの 


固い靴底を、踏み入れた。





列車のドアが 


闇の女王の手のように、



両側からオウジを 体内に抱え込む。





――ジョートーだッ! 

 

どこまでも行ってやるッッ!!





オウジを乗せた6番トレインが、



ダウンタウンに向けて走り出した。





--------------------To be continued!


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