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29、ボクだけが見る黒曜石・2




「アンタの服なんて、シュミじゃねーし。」





とか言いつつ、


オウジは部屋の一番奥にある


クローゼットに向かって歩いた。




何日も着たままのTシャツよりは マシだから、


着てやるけどよ。





と、アトリエスペースの 窓際に置いてある、


こげ茶色の 小さなアンティークテーブルが 


目に入った。




細長いガラスの一輪挿しに


白いバラが、生けてある。





そしてそこには、


昨日オウジが使ったブルースハーモニカが


寄り添う様に、置かれていた。





この部屋の中で、その場所だけが


異質だった。




写真の一枚も飾ってはいないが、




それは“ヒナ”のための 祭壇なのだ、と


オウジは直感した。





――  ヒナは  


  やっぱ、恋人  か・・?






なんだか、妙に気にかかる。



クソ、マシンガンオトコめ、 


余計な入れ知恵しやがって。





オウジは、クローゼットの中から


テキトーに選んだ


綿100パーの白いシャツに袖を通した。




肌触りが、


オモシロイくらい気持ちいい。


きっと、すげー高いんだろな、コレ。




そしてキッチンカウンターの


丸いストゥールに、半分腰を掛けた。





石作りのカウンターには


カイのよく読む ヴィレッジのタウン誌や


ニュースペーパーが、



いくつか無造作に 積み重なってる。





「 ・・ナンだ、コレ? 」





オウジは カフェオレボウルに注がれた


湯気のたち上る、白茶けた液体を覗き込んだ。





―― コーヒー牛乳?? ・・みたいな色してるけど、


なんか、オワンに入ってる・・?





鼻を近づけてクンクンしてみる。


そのボウルには、


棒つきのクリスタルシュガーが 突っ込んであった。





「 かき混ぜて、溶かしてみて。」





カイが、最後の1つのリンゴを


ナイフで半分に切り分ける。



悪戯を仕掛けているように、ウレシそうだ。





「ふーん・・」





オウジはボウルの中で、


木製のスティックに付いた


キラキラ光る ブラウンシュガーをかき回す。



ゆっくりと 溶け始める


琥珀の時間。





「お、甘ぇぞ。」





スティックに残ったブラウンシュガーを


舐めてみた彼から


ぽつりと出てきた言葉に。





カイは フイを突かれてしまった。





胸に広がってゆく リリカルな波。



視線で、彼をキャッチする。





シャワーで濡れた前髪に


ナマイキな目の輝きを隠された、今のオウジは



いつもよりずっと 幼く見えた。





洗いざらしのシャツを纏い、



流れるボサノヴァを 


聴くともな く聴きながら




熱いカフェオレを飲んでるキミ。




今 ここにいるのは


いつもの戦闘モードが 完全にオフの、




ただの17歳のオトコの子。





黒いレザージャケットを着て 


髪を逆立て、



心の刃を どこにでも振りかざすキミの、



これが ホントの姿なんだね。





「 まったく キミは・・・ 」





小さな、ため息。 ちょっと甘く。





逢ったばかりのオンナを 


全力で口説いていたかと思うと、



酔いにまかせて 


勝ち目ゼロの相手に ケンカを売って、





小さなハーモニカで


天才的な即興を やって見せるかと思えば、




赤ん坊みたいなカオして眠る。




ポーカーフェイスで隠しても


すぐ感情的になって、ボロを出し、




悪態のヨロイで守っているその心から


流れた涙は



あきれるほどに 透明だったね。





キミと出会ってからのわずか4日で、



どれだけのキミを見ただろう。






でも


一番 心に残ってるのは


真夜中の凍える時間、



天使ヒナの前で 聴いた 




キミの澄んだ 歌なんだ。





―― キミはいったい 


 何者だろう・・。



 



目の前にいる 白いシャツを着たキミの、


どんな過去の出来事が、



これほどたくさんの刃を、


その心に 残したのだろう。





―― この素顔を 


いったい何人の人が 知ってるのかな・・・?






今、自分だけに見せている


オウジの無防備な 


黒曜石の瞳に、



カイの心が、引き寄せられる。




海に還る 波のように。






想いは、


地球という星に生まれた磁力。




理屈も 論理もすっとばし、


キミとボクを 


引き寄せあう。






「キスしたくなっちゃうなぁ・・。」





そうつぶやいたカイの言葉は、



ボサノヴァの中に紛れて、


吸い込まれた。






「なんだよっ・・!」





カイの視線にようやく気付いたオウジが、


いつもの、営業ブッチョウ面に戻る。




カイは、ただ華やかに微笑んで、


最後のリンゴの片方を、オウジに投げた。  





そして、カウンターテーブルにぶちまかれた


コインとお札を指し示す。






「ほらコレ、昨日の稼ぎ。」




「え、・・アンタのソフト帽に 

ギャラリーが入れてったヤツ?」





渡された半分のリンゴをかじりながら、


コインを広げてみる。



今日のリンゴは 昨日のよりも、ちょっと酸っぱい。






「随分多いな~。 


いつもは1ドル札と コインばっかりなのに、


昨日のは5ドルや10ドル札が、ホラ、何枚も!


オウジ君とボクの、

絶妙のコラボレーションだったもんね。」





「山分けな!」





「ハハッ。 もちろん!

じゃ、これ飲んだら買い出しに行こう。 


服とか食料とか」




「どこに?」




「セントマークスプレイスへ!」







--------------------To be continued!


このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。


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