26、節くれだった丸い指先・2
声が出なくなった頃から、オウジの味覚は
おかしくなっていた。
もともとウマい、マズイ、いい匂い 等に
無頓着な方だったが、
気づいた時には、甘いも辛いも
ほぼ感じないレベルになっていて
1年以上が、そのまま経ってたのだ。
―― 味がする・・。
なんでだ?
今度は、隣にいるカイの横顔に
センサーを向けてみる。
――あ・・!
うっすらと、ミント系の香り。
シャンプーかな。
――なんでいきなり、感覚が戻ったんだ、オレ・・?!
「どうかした? オウジ君」
「な、なんでもねーよ!」
オウジの周りに ビシッと張られた銀色のバリヤーに
カイは、一瞬はじかれて。
それでも、彼は いつもの微笑みに戻って、
すんなりと話題を変えた。
「ショウゴさんは
ホントに 美味しそうな顔するな。」
「そうよぉ~ カイちゃん。
美味しいモノを おいしい~~って
ちゃんっと愛でなくちゃあ、もったいないでしょ!
このチーズちゃんとの出逢いは 一期一会っっ
過去でも未来でもない、
正に今! この時!なのよーー。
チーズちゃんと 私の織り成す、
たった一度の 運命~の出会い!
おおおっっ、
人間、これを最大限に 悦ぶべきなのよおっ」
ショウゴの脳内には スポットライトがあるらしい。
もう、おフランスの国民的シャンソン歌姫かよってくらい
詠いあげてる。
そんなヤツいるのか、知んねーけど。
「で、 ウマいチーズちゃんのお陰で
ショウちゃんは この始末デスよ~~!」
キースがオーナーの
まるまる太ったお腹を ポンポン叩き
「ヤダ、もうっ!
ロマンのわからない男ねっ!!」
と、歌姫オヤジがムクれて。
ヤジる従業員たち、
笑うカイ。
ここでは誰も オレの素性を知らない。
オレの過去も、ホントの姿も。
オイルとショウユと、ワケのわからない香辛料の
入り混じった店の空気が、
妙な居心地のよさを 醸し出す。
―― もしかして・・・
さっき、オカマオヤジが
マシンガン野郎を追っ払ったのは、
オレを 気遣って・・?
カイが女形だった話題の時も、
ショウゴは一度、キースにイエローカード出したっけ。
―― あのキモいウインクは、
“大丈夫”の サインだったのかな・・・?
「あら~~っ こちらグラスがカラっぽ!
ジェシ子~、もう一本持って来てぇ~~~」
このショウゴという髭オヤジは、
場の空気を読むのが 絶妙なんだ。
日系、ウエスタン、南米系、ロシア系。
こんな小さな店の中だけでも、
多種多様なヤツ等がいる。
きっとコイツ等だって、何かしらあるハズなんだ。
眠たさに、アタマの中が溶けてゆく。
彼は・・彼女はというべきか。
そんな一人一人の心の動きを捕らえ、
自分のテリトリーにいる すべての人物の心のひだを、
笑いで包んで 護っているように、
オウジは感じた。
その店長と 周りとの繋がりが、
この心地イイ空間を 作り出しているらしい。
―― カイも 女形だった過去を
知られたくなかった時が、
あったのかな・・・
暖かな空気の中で、
マブタが どんどん重くなる。
――NYに来てから オレ、
ヘンだ・・・
コーヒーは苦いし
ハーモニカで 即興とかやらかしてるし
歌えないはずの自分が、
歌ってたらしいし・・・?
しずかな胸騒ぎと、懐かしい空気。
幼いころから 根なし草の暮らしを繰り返し、
どこにも属すことのなかった自分を、
なぜだか 受け入れてくれる場所。
ショウゴ、 ジェシー、
そして、フシギな繋がりを感じる
元女形のオトコ、
カイ。
―― ココに居ても いいのかな・・・
視線の中で、ぼやけてゆく
美しい人。
「 アンタ、何も聞かないの・・? 」
「 キミが話したくなった時に、聴くよ 」
やわらかな空気をまとい、彼が言った。
--------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




