25、節くれだった丸い指先・1
『天使が気に入った?
ウレシイな
でも、口説いてもダメだよ』
――この世のモノじゃないから・・・。
そうだ、
アイツは そう言ってたんだ。
オウジの耳に蘇る、少し翳ったカイの声。
――じゃあ あの天使は 実在した誰かで、
それが このハーモニカの持ち主の
HINAってヤツ・・?
『キミは ヒナをよく見つけるね』
アパートメントの 階段に描かれていた
物憂げなヒナの表情と、
カイの笑顔の奥に一瞬見えた 凍り付いた悲しみが、
オウジの記憶の中で 重なった。
「ね、どう思いマスか? 恋人説。
ゼ~ッタイそうですヨネ?!」
「・・知らねーよ」
言われてみれば、天使のカオ、
うん、雰囲気も カイに似てるかな。
恋人というより母親説のが、近いかも。
「ところで、オウジはドコから来たですか?
トキョ? オーサカ?
あ、違うマスネ オーサカ弁ちゃいマンンネン!」
「・・・」
キースの興味津々の目が、今度はオレに向いている。
「ドコで活動してたデスか? アナタ、プロですよネ?レコード会社ドコですカ? 僕あのジョユウ好きですよ ヨシガナサユリ!! ビジンです スバラシですーー ニッポンのゲーノー人お友達イマスか? ああ、それと~~~」
――めんどくせー日本オタクだな
マシンガンみてえに くっちゃべりやがって・・
しかもいつの時代だよ!!
「年は~ カイよりは若く見えマスね てことは18?16? どこのマチ住んでましたカ? アサクサ?ギンザですカ?それとも・・」
「ちょっとお~! キー坊、来てちょ~だーい
棚の上のお皿、手が届かないの~~」
キースが知っている限りの 地名を並べ立てるより早く、
さらにハイテンションな イカレ店長に呼ばれて
オタクマシンガンは、シブシブと席を後にした。
ショウゴがオウジに、ウインクをひとつ。
――ち、気持ち悪りぃ~んだよ
オカマ髭オヤジ!
この店に
マシなオンナは いねーのかよーー
テーブルの上にあった、誰のだかわからない
CAMELを一本抜き取って、火をつけて。
ふーーっと煙を吹き出しながら 店内を見回すと
女性はジェシーの他に
背の高い黒髪の、ベリーショートが1人、
クリスマス用のイルミネーションを
飾りつけてる。
あとはカウンターの向こうに 南米系の青年が1人、
ランチタイムの皿を、洗っていた。
――あのオンナはロシア系かな・・?
悪くないけど、ちょっと細すぎ。
胸とケツだけ マシュマロ女と
トレードしろ。
「ささ、どうぞ!
おフランス直輸入のチーズも、色々そろってるのぉ~!」
オカマ髭オヤジが、視界を遮ったかと思うと
赤ワインに合う 自慢のチーズの盛り合わせを、
どん、と目の前に置いた。
「今度はフランスかよ!
ったくポリシーのねえ店だな」
「ん~っ美味しいっ!
ほら、オウちゃんも食べて食べて! 」
「や、 オレ チーズは・・」
「ダメよ 男はたくさん食べて
たくさん寝なくちゃ! はいっ、ア~ン」
丸々した短いショウゴの指が、
ムリヤリ口に ブルーチーズを押し込んでくる。
「うげっ、ヤメロって!!
くっせえ~!! マッジぃ~!!」
「イヤだ、お高いチーズなのに!
バチ当たりな子ねっ」
「ぐへっ!! 水、水~~ぅ!!」
がぶがぶと 目の前のワインを飲み干し、
オウジは固まった。
「あ・・・。」
キョーレツな、
濃厚なチーズの味が口の中に残ってる。
そりゃ、クセのあるブルーチーズだから
当然だけど。
そうだ、
カイの部屋で飲んだコーヒーも、やたらに熱くて、
苦かった、
香りも ハッキリしたじゃないか。
―― 味覚が戻ってる・・!?
そうだ、 そうだ!
あのブルーハワイ色のケーキも クソ甘かった・・!!
--------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




