22、カイとヒナ・1
「よかったわ 心配してたのよ?」
ジェシーが カオをほころばせて、
親しげに、オウジの腕を握ってくる。
「心配? ・・なんで?」
「だってアナタ、すっごく酔ってたじゃないの。
NYに着いたばっかりだって言うのに ケンカはするし、
いつの間にか 居なくなってるし・・
危なっかしいんですもの!」
そんなのいつものコトなんだよ。
酔って、クダ巻いて、ケンカして。
「ここでは何時
どんなアクシデントに遭うか わからないわ。
悪い人もたくさんいるし、
街もね、まるで生きてるみたいなのよ?
マンハッタンで堕ちてゆくのは、
暮らしてゆくよりずっと簡単なの。」
「・・・・」
地球の裏側で、
逢ったばかりのオンナに、説教されるわ
知らないオトコの家に 転がり込んでるわ。
どーなってんだ。
「私 この店で働いてるの。」
「ええっ・・!」
思わず 店内を見回した。
学校とか図書館とか、修道院が似合うカタブツオンナが、
こんなダウンタウンの 和風だか南米風だかの、
インチキ臭い店にいるとは。
オーナーも、かなりのイカレポンチだし。
「あっら~ ダメよぉジェシ子 ぬけがけは!」
その、イカレポンチの店主がオウジの手を引いて、
奥のテーブル席の 真ん中に座らせた。
ここは、この店のVIP席だ。
「んもう~~~っ、最高のコンビだったわよぅ~う
目の前に広がっていく ビューチフルな絵画!
その中から聞こえてくる ソーダイな音楽!!
ファンタスティ~~~ック!
アメ~~~イズゥイング!!
アタシ、体の芯までシビシビしちゃったわぁーー!!」
この中年のヒゲ男の英語には、大ゲサな抑揚があり、
それにあわせて、ガチムチな体がクネる。
「アタシ ショウゴよ!
ショウちゃんって呼んでねっ」
きゃぴっ!という効果音を背中に背負いながら
ショウゴは熱いおしぼりで、
いそいそと オウジの額の汗を拭いた。
「気持ち悪りーーな 離せデブ!」
オウジはショウゴから おしぼりを奪い取る。
「いや~~ん テレちゃって!かわいいッ
カイちゃんの今度の恋人は、年し~たの男の子♪で、
ワルガキちゃんタイプなのね!」
「ダレが恋人だ、 ブヮ~~カ!」
「そ、まだハグしかしてないんだ。 ねっ。」
「ねっ、じゃねーよ! オレはノンケなんだよっ!!」
「またまたぁ~
アタシの目をごまかそうったって
そうは行かなの焼きハマグリちゃんよ!
カイちゃんお気に入りのショール、
巻き巻きしちゃってるくせにぃ~~~」
ショウゴの節の太い指が、
オウジが付けているショールをツンツン。
「こ、これは別にっ・・!!」
慌ててオウジがショールを引っぺがすと、
からかいがいのある相手を見つけたショウゴが
カバかよって程の、大口を開けて笑った。
すると、そのショウゴの背後から、
今度は背中に“祭り”の文字が入った
ハッピを着けた 金髪オトコが、
シルバートレーにワインボトルと
グラスを、たくさん載せて現れた。
ジェシーや他の店員たちは、店のロゴの入ったTシャツと
腰にギャルソンエプロンを 着けているのに、
このオトコの頭には ネジリ鉢巻き、
ハッピの胸には ヘタクソなひらがなで
「きーす」と書かれた、名札を付けている。
「うわ、なんだオマエ・・。
・・この店にはマトモなヤツ いねーのかよ?」
「ハーイ! ボクはキースと言いマス。
アナタ、ホントにすばらしかったデース!!
アナタのお名前、ナンデスカ?」
ソバカスがちりばめられた白い顔を
ピンクに染めたキースは、
ビミョーな日本語で話しかけて来た。
金髪はキースのナチュラルなカラーらしく、
生え際だけが少し茶色がかっている。
「彼はオウジよ。 日本から着いたばかりなの」
出たな、妖怪・マシュマロ女。
「でしょ、でしょ~! やっぱり来たばっかよね!!
ダウンタウンのオリエンタルで
アタシの知らない美少年はいないものぉ」
「げ、とんでもねーエロオヤジ・・」
「ショウゴさん、乾杯しようよ」
「そうねそうねっ。
じゃ、オウちゃん初来店と~
2人のアーティストの 輝ける未来に~~!!」
「オウちゃん・・・ て、オレ・・?」
ワーッと歓声が上がり、
店内にグラスを重ねる音が 鳴り響いた。
ランチタイムとディナータイムの 合間のこの時間、
本来 店は準備中で、スタッフだけのハズなのだが
さっき沿道に居たギャラリー達も、大勢混ざっている。
カウンターと、小さなテーブルが5つ。
木製の棚には 清酒の一升瓶や、
洋酒のボトルが 所せましと並べられ、
天井には、日本の祭りでつける
花傘やら 酉の市の熊手やら、
床には、アフリカ系の民芸人形が
ところどころに置かれていた。
醤油の香りに混じって、スパイシーな香辛料の匂いがする。
その向こうに、使えるのかどうか怪しいくらいの
古ぼけたピアノが、1台置いてあった。
興奮冷めやらぬ店内は、笑い声でいっぱいだ。
日本語や英語が入り乱れて、
部屋いっぱいにハジけている。
―― なんて ウルセー連中だ・・・。
まだ時差ボケがあるのか、
慣れないハーモニカ演奏で消耗したのか、
オウジはすぐさま酔いが回って、
椅子の背に、もたれかかった。
「お酒より、こっちの方がいいわ」
ジェシーが熱いお茶の入ったティーカップを持って来て、
オウジの横に座った。
このお茶もヘンな香り。
カイの部屋の匂いと、ちょっと似てる。
「ハーブティーよ。
ノンカフェインだから体に優しいの」
――なんだこのオンナ
ちょっと口説いたからって、アネさん女房気取りかよ・・
もうオマエみたいなブスに 用なんかねーよ・・
オウジが、これみよがしに
目の前のグラスワインを一気に飲み干すと、
ジェシーは手の焼ける子どもを見るように、
眉を下げて微笑んだ。
--------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




