20、オウジの情熱 カイの夢・1
この気持ちを 何て呼ぶのか、
オウジは知らない。
一番近いコトバで言うなら、
それは“怒り”かもしれなかった。
目の前の、奇蹟のように
繰り広げられていく才能に、
湧き上がってくる 胸の痛み。
5歳児みたいに 目をキラキラさせながら
風の中で舞うように 色を重ねてゆく
美しいオトコの中で
時も場所も 問題にせず、
泉のように溢れてくる 豊かな才能。
さっきまで 手の届く距離にいた彼が、
彼だけが、
今は選ばれた 特別な人間なのだ。
その、カイと言うオトコへの
焦燥 あこがれ
来り広げられてゆく 壮大な美の世界。
ただ 何もできずにたたずんでいる
どーしようもなく無力な自分。
―― チクショウ ・・チクショウッ!!
こんなハズじゃなかったのに。
貴章がヘマして 捕まってなければ
オレが 歌えなくなってなければ
あの少年が 現れなければ、
あの少女が 死んだりしなければ。
どこに向けられているのか わからないイラ立ちと
闘争心に駆られながら、
オウジは、くちびるに押し当てた銀ハープから
旋律を奏でた。
あの時 天使が歌った歌なんて、
もうドコかに消えてった。
ただオウジは今の自分を、
まるごと音に ぶつけるだけだった。
予想していなかった 激しいメロディーに、
カイはアゼンと手を止めて
それから、アハハッと天を仰いだ。
しばらく目を閉じて、音を浴びる。
キミの音を ひとつも逃さないように。
そしてカイは、別の色のチョークを
お菓子の缶から取り出して。
また 壁一面の 空の創造が続いてゆく。
美しい茜色の空に、
黒雲が ぐんぐんと湧き上がる。
足を止めて、カイが壁に描く空に
見入っていた通行人達から
「オオーゥ」
と、どよめきが上がった。
カイの描く、圧倒的な 破壊力に満ちた嵐の雲は、
まさに今ここにある
オウジの音、そのものだ。
その、ギャラリーの反応が
オウジにまた 新たな力を与える。
――ンのヤロウ・・・!!
小さなハーモニカの 10しかない音階を操り、
オウジもまた
ドコにも見つけることができなかった
自分の音を捕らえようと、必死だった。
――チクショウ
チクショウッ
負けるかよッッ!!!
誰に向かってるのか、
いったい ドコに向かっているのか。
オウジの奏でる旋律が
さらにダイナミックに、
紅蓮の炎となって 舞い上がる。
漆黒 グレー
紅
茜
蒼
パープル
色彩は音に合わせて カイの指先でまざり合い、
オウジの音を 取り込んで、
また新たな雲が 生まれてゆく。
「んまぁ~~っ!!
なんって絶妙な コンビなのかしらぁ・・・」
ショウゴが泣きださんばかりに、ホホを紅潮させて
2人のアーティストの ケミストリーを見ている。
「申し合わせたように、
音楽と色彩とがバッチリじゃないっ?!!
ね、ね、ね、そうよねえ~~?!」
ショウゴもギャラリー達も、
それぞれがうなずいたり、唸ったり、
賛辞の言葉を叫んだり。
音に合わせてノッてる者、
近寄って、ジいッと見てる者もいる。
反応は様々だが、予期せぬハイテンションな
路上パフォーマンスとの遭遇に
皆、大興奮だ。
“場”が創られてゆく。
音を捕まえるものと
色を生み出すものと
そこからエネルギーを受け取り、
また返すもの。
それぞれが混じり、うねり、
濃厚な エネルギーの渦となり
創造の場が できあがってゆく。
オウジの焦燥
胸の高鳴り
カイの想い
ショウゴのときめき
オウジの憧憬
カイの体温
ギャラリーの羨望
カイの光
オウジの情熱
カイの夢
目の前に繰り広げられてゆく
鮮やかな色彩と、
あふれ出てくる音
音 音。
オウジの鼓動 カイの鼓動 ギャラリーの鼓動。
すべてが一つになって 躍動し、
イーストヴィレッジの空に、舞い上がる。
オウジは我を忘れて
感情のありったけを 音にした。
「アハハハッ!」
カイはもう、子どもみたいに笑いながら、
全身でチョークを壁に叩きつけてる。
オウジも 体中を激しく揺らし、汗を飛ばして、
小さなハーモニカから
自分の持ち得るすべてを 絞り出す。
そして観客は、まばたきするのも忘れ、
2人の世界に入り込んでいた。
--------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




