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105、いのちの歌・2




オウジは深く 息を吸った。







――  何を 歌う・・?








カリスマでも 伝説でもない


何も持たない、オレ。




 何を 歌う?








  命を。




  今を。






アンタに捧げられるのは、 これしかないから。








オウジは歌った。 



今、この体の中に あるもの  

       




ここで響いてる、キミの 



想い  哀しみ  やさしさも


嫉妬も

 


2度とは来ない この時も





そういうの 


全部ひっくるめたもの。





キミがオレにくれたものに 


よく似てるもの。






もしかしたら それを 




愛、とかって呼ぶのかな。




なら 


オレの中には今  





ソレしかないよ、  カイ。








オウジの想いの 一粒一粒が 

     

そっと弾けて震え、




体中の細胞も




見えないものも、響かせて 



声を成す。





バイブレーションは 体を超えて 


空気を伝い




イーストヴィレッジの街が


そのぬくもりに包まれて、 


オウジの一部であるかのように、



鳴った。






―― ・・・・・ 




   あ・・  。








初めてヒナに逢った時、



幻想のなかで聴いた 彼女の歌の神々しさを、


オウジは今 


自分の歌から 聴いていた。





夢見心地で走らせていた


カイのチョークが、止まった。





それは、フシギな歌だった。






日本語と、アメリカ語と韓国語と



台湾語や、


どこかの知らない方言も 混じってて



オウジの知りうる言語を 


ランダムに合わせたかのような、


言葉の意味を成さない 


音。





幼いころから耳が覚えた、


オウジにとってはこれがネイティヴなコトバであり、


音楽 なのかもしれない。




そしてその歌は


おおよそカイの知っている、



テクニックを披露する 歌手のそれでも


感情を伝える 役者のそれでもなく。





野生に生きてるイキモノに、 


西洋の音階を与えたような




無垢な響きが 織りなしてゆく 広がり、





どこかの次元だ。






キミの声で呼び起される


たまらない懐かしさと 愛おしさ。





込み上げた想いに


カイの目から溢れた、暖かな涙が 



ぽたりと


コンクリートの上で微笑む、ヒナの頬に落ちた。




言葉なんかわからなくても、


わかる。



ヒナの命を、歌ってる。





彼女を失った悲しみで無く




彼女が生きていた その日々を



キミは 


賛美しているのだと。







オウジを、カイは仰ぎ見た。





長い夜を たったひとりで


乗り越えてきた


銀色の髪の少年は、



ちょっとだけ 大人びていた。





始めて逢った夜よりも


更にクリアで もっと深い




少し掠れて傷ついた

 

キミのハスキーボイスが



命の力を取戻し 




織り成してゆく、歌。





傷ついてきた者だけが 作り出せる、光。






瞼を閉じて、そこに居る


なんて




なんて美しい、キミ。





眼を閉じてたって、わかるよ。



キミの黒曜石が今 


どれだけ輝いているのかが。






ああ ほら



キミの背中から





歌の翼が、広がってゆく。





ゆるぎなく強い





いのちの歌が。








「 モンスターだね・・。  オウジ君 」






今、解き放たれて


ダウンタウンのエネルギーと共に 


咲き渡る


ひとりの、まばゆいアーティスト。




誰よりも近くにいた 彼の変容が、


カイには誇らしく


そして、


それより熱いジェラシーに、胸が燃えた。





「 あはははっ 」





嬉しすぎて笑いが零れた。



涙をぬぐって、



再びカイが、


コンクリートに チョークを走らせる。






オウジの悪夢と同じに飛び散る 


ヒナの羽は、


もう、悲しみのあかではない。




羽は、桜の花びらとなって 



7色に淡く、舞い 踊り




その色が、 夢が




歌にのって街に

 

世界に 


広がってゆく。





迷いも悲しみも 罪も 


全部全部 包み込んで。





いのちの喜びが 


今 


螺旋になって



イーストヴィレッジの空に


舞いあがり





遥かに輝く、 愛になる。









―― うわ・・



      すげ ・・・ ぇ







目の前に描かれ 生まれてゆく 


その奇蹟を


 

カイの花びらに包まれながら、オウジは歌った。





この宇宙を形作るすべてのものが 


バランスの中に在る様に。



何かが決められ 定まっているように。



たった今


こうして ふたりでいるように。




今、オウジとカイは

 

大きな営みに護られて



在るべき姿の



在るべき光の、中にいた。






そして2人は、


自分の持ちうるすべてを捧げ 


天使のヒナを、創りあげたのだった。






自分の歌が終わったのと同時に、


カイの絵も完成したことが


眼を瞑っていても、オウジにはわかった。





白い朝靄の余韻の中で、



2人はしばらく動けなかった。



大きな何かが 


終わりを告げたことを 


2人同時にカンジていた。






東の空が、


オレンジシャーベットの色を湛え


グラデーションを作りながら明けていく。




ブラウンストーンの街は 


まだ眠たげに、



そこに居た。






---------------------------------To be continued!




このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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