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102、白銀の夜明け・1





今夜の13丁目、IZAKAYA SHOCHANは


ド演歌だ。




年に一度の大晦日、



毎年オールナイト演歌で 朝を迎えるのが


この店の習わしなのだ。




日本人常連客が集まって 年越しそばを食べ、



新年のカウントダウンを共に迎え、祝う


イヴの晩に次いでの、お祭りだ。





「ちょっとぉ~ ジェシ子、


お酒ないわよぅ~~~!」





もはや出来上がっているショウゴが、


VIP席から カウンターに声をかける。




ジェシー、キース、リカにエンリケ、


そして十数人のなじみ客。




カイも、


ショウゴの熱烈なラブコールで、


イヴの晩以来の来店を 果たしてる。




そして、その顔ぶれの中に オウジだけが抜けていて、



誰もそのコトを、口にしてはいなかった。





「ショウちゃん大丈夫? 

今日は、ずいぶん呑んでるわよ?」




「いーのいーのぉ! 


明日からは三が日、

お休みだものぉ~~


ニッポンジン、ショウガツハタラキマッセえーーン」





カランカランと音を立て、


木製のドアの開く音がする。




みんな、ドアが開くたびにそちらを見ては、


期待した相手ではない事を確認し、


やや肩を落とすのだった。





「オオーー、キヨポン

いらっしゃいデス~! 


Happy New Year~~ね! オメデトゴザイマーース」





キースが今夜もポジポジな声で、


その空気を一掃する。





「おめでとさーん。 お蕎麦、まだある~?」





ヤンキース帽のキヨポンはそう言うと、


カウンターに座った。





「キヨポンにレモンハイ一丁~! 


もう年越しちゃいマシタ蕎麦もネーっ!」





キースが店中に聴こえるようにオーダーし、


店中の皆が、


遅れてきたキヨシにグラスを掲げて、


歓迎の挨拶をした。





「いらっしゃい。」





運ばれてきたのは 正月仕様のお通し、紅白カマボコ。





「ハイ ジェシー、おめでと」





なんぞと口先だけで答えつつ、


キヨシの眼は客の中を泳ぎ、カイを捜していた。




この行為は、もはやキヨシに染みついている。




今夜もちゃっかり、


ショルダーバッグの中には


ビデオカメラが仕込んであった。




カバンに忍ばせた手で


いつでもスイッチを入れられるようにしながら、



VIP席にいるカイの姿を見つけて、キヨシはギクリ。





今夜のカイは、


もはや別人にしか見えなかったのだ。




少し痩せてヤツれた様だが、そんなコトでなく、



目つきって言うか、オーラって言うか。





カイという人物を作り出している、


やわらかでピースフルな 雰囲気そのものが無くなって、



何かと必死に闘ってるとか、苦しんでるとか


そんな表情かお



こんなの、おおよそキヨシの知っているカイではナイ。





――ど、どしたってんだ・・?





と、思いを巡らせたその瞬間。





 『・・・撮んなよ。』





そう言ったオウジのカオと、素直に哀しい声色が


浮かんできた。






――イヴの晩から別れたきり・・

逢ってねえんだよな・・? 



 ・・ヤベえ  コイツら・・・  

   






親友だか、恋人だか知らないけど


コイツ等マジだ。





彼らを軽いノリで パパラチってたキヨシの胸に、


じんわりと 


後ろめたい気分が滲みあがった。






「キャハハ~~ッ 


ホントに、とーんだクソガキだったわよねぇ~~

あのボーイ!


まだ見つからないんだってぇ~?」





ローズがカイの隣にやってきて、彼の肩に手を回し


シャンパングラスに


日本酒をダバダバと継ぎ足した。


今夜も彼女は千鳥足。





「ち、ちょっと、ローズったら!」





「何よぅ~~ 

コソコソしたってしょうがナイじゃなーーい


クソガキが いなくなったのはジジツでしょ?


この先 何年も話にも出さずに、

こーやって葬式みたいに過ごすつもり~~ぃ?!」





「デ、デリカシーのないオンナね! 

今カイちゃんの前で、そんな言い方しなくってもッ!」





「出た出た、ショウゴの過ホゴ~ぉぉ 

カイはアンタの一人娘じゃないってのよ~~」




「あったりまえでしょッッ! カイちゃんは美少年よっっ  


NY中でも一番美しい男の子! 


アンタみたいなアバズレ女と違って、

オトコとオカマは みんな繊細なのよっ!」




「ダイジョーブよぉ キャハハ~~ッ


あのロクデナシなら、

チャイニーズかコリアンのギャングにスカウトされて

今頃どっかでヤクでも売ってるって~~ 


あ、体の方かしらぁ?? キャハハ~~~ッ」




「なんっっって事言うのよ、このどブスデブっっ!!」





掴みかかろうとするショウゴの腕を


カイが小さく笑って、引き留める。





「女性に手を出すなんて、どうしたの? 

ショウゴさんらしくないよ」




「だってぇーーーっっ

オウちゃんの気も知らずに このオンナがっ!! 


くやしーーーーーーッッ」





ショウゴはカイにしがみついて、オイオイ泣きだした。



今まで抑え込んでいた気持ちが


イキオイで溢れ出してしまったのだ。





もう5日、オウジの行方はわからない。


金も持たず居場所もない少年に、NYここはあまりにも残酷だ。





ボコボコにされて ハドソン川に浮かんでる姿、


ヤクを打たれて回されてる姿、 



あらゆるネガな妄想が、限りなく


ショウゴのアタマを駆け巡った。





「大丈夫だよショウゴさん  

オウジ君は、きっと・・」





カイも言葉にならず、


身に付いた完璧な 笑顔すら、中途半端。





「あ~あ~ 

どさくさにマギれて抱きついちゃって~~ 


今夜もショウゴはやりたい放題よ、みんな!」




リカがショウゴをカイからひっぺがし、


店の中に笑いが帰ってくる。


カイも、今度はウマく笑えた。




どうしようもなくハマった時も

 

誰かが笑い飛ばし、支え合って来た



小さな店の、いつもの仲間。





――苦しい時こそ わかるもんだな・・





とカイは、唇の端だけで微笑う。





そんなやり取りを見ていたキヨシが、


レモンハイをグイッと一気に飲み干した。





カイの隣にやってくる。





「 あ、あのさ、カイ・・  


    オウジは 無事だぜ? 」






---------------------------------To be continued!


このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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