101、魂の炎・3
頬をかすめる風が、やわらかい。
その乳白色の風を
激しい叫びが、つんざいた。
「 こんな世界、ブチ壊してやるッッ! 」
オウジが振り向くと、
そこには ひとり残された中学生のオウジがいた。
「オレは 自由になるんだ!!」
彼は男子トイレで
リンチされたあの時のまま、
学生服の白いYシャツを血に染めて、倒れていた。
無数のキズと、殴られた跡の、
まだ青いアザが生々しい。
だが、仰向けになったまま
空を見上げている彼は
腫れたまぶたの下から、黒い瞳を光らせていた。
「 オレは、
オレについてくるヤツ等
みんな みんな・・・!
自由の中に 解き放ってやるッッ!!」
「 ・・・ ! 」
粗削りな彼の闘志が、胸を貫いてゆく。
―― そうだ
オレは
そう思ってた・・・!
そう思ってた !!
胸の芯から 震えが起きた。
忘れていた自分が
音をたてて
目を覚ましてゆくように。
オウジは彼に近づくと、
青アザの残る傷だらけのオウジを、
両の腕で抱きあげた。
「大丈夫だ、
オレはそんなモンに負けやしない。
負けやしない!」
傷だらけのオウジを胸に抱くと、
その痛みが、両の腕から伝わってきた。
「 ずっと、待ってたぜ、
・・オウジ。」
「 ・・ ゴメンな。」
こんなに遅くなって。
オマエを 傷だらけのまま放っといて。
この痛みを感じないように
オレ
たくさん 周りを傷つけてきたんだな。
傷だらけのオウジは
目を閉じたまま、カンジてた。
もうひとりの自分の体から ほとばしる
白銀の光と、
黒曜石の 深く、勇敢な輝きを。
オウジの腕の中にある 傷だらけの体から
流れ出た血が、色素を失い、
白いシャツを染めていたシミも、アザや血の跡も、
胸の痛みも
痕跡もなく 鎮まってゆく。
彼の充ちた瞳が、
銀髪のオウジを見上げた。
「オレは歌うんだ・・!」
「オレは歌う・・。」
オウジの黒い瞳をみつめたまま、
中学生のオウジが小さく笑って、
その胸の中に 溶けて行く。
自分との約束を、置いて行く様に。
もう一度、
オウジは彼を強く 引き寄せた。
魂の炎が 重なる。
彼を抱きしめている 左右の腕から、
胸から、
アツいバイブレーションが、全身から
燃え上がった。
全てが今 命となって
ひとつになって、燃えている。
怒りの創りあげた
炎よりも
遥かに高く
熱く
尽きることのない 情熱が
魂の炎が
オウジを突き抜け、
天高く、燃えあがった。
「 ・・オレ、
自由んなりたかったんだ 」
中学生のオウジも 消えてなくなり、
たったひとり残ったオウジは
乳白色の空間に、両の足で立ち上がった。
「そうね」
何もかもを見守っていたヒナが、いる。
「世の中のヤツ等、
みんな自由にしたかったんだ」
「うん」
「オヤジが
オレに音楽をくれた」
「そうよ」
「音階も、ピアノも歌も・・
全部オヤジが 教えてくれた。
オヤジが、オレにとっては
音楽そのもの だったんだ・・・!
オレ
あいつのことスゲエ好きだったんだ・・。
声の響きも
鍵盤叩く大っきな指も スゲエ、
スッッゲエ 好きだったんだよ・・・ッ! 」
涙が、また溢れ出た。
体の中でひとつになった
小さなオウジ達も、一緒に泣いている。
でも、その涙は ほんのりと甘い味がした。
だって、好きなんだ。
仕方ねーよ。
失ったことが辛いのも、
苦しいのも、
みんな、ソイツが好きだから。
胸の奥に閉ざしてた こんな想いも
テレ臭い 優しさも
なんだか今は 受け止められた。
ふと、ヒナの姿が消えていた。
乳白色の空間には
自分以外に、もう誰もいない。
クモの巣も、どす黒い霧も、
そこにあった何もかもが
すっかり消えて、無くなっていた。
「 ヒナ・・? 」
一度だけ、呼んでみる。
「 ヒナはいないよ。 」
どこか遠くから、声だけが返ってきた。
「ふふっ 最初から、
ヒナなんていないのよ・・?」
「えっ・・? 」
「ここにいるワタシは オウジが創ったワタシ。
だからね、
ワタシもアナタなの、オウジ。」
「な、何 言って・・?」
いたずらな笑い声だけが、
どこからか かすかに聴こえ
彼女も
オウジにやってきた全ても
もう そこには無かった。
---------------------------------To be continued!
このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。
なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。




