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100、魂の炎・2



オウジは、瞼を開いた。




うす灰色のモヤに包まれた すべてが 


春の陽炎みたい。  




揺れている。






「オウジ・・」







呼ばれた声で顔を上げると、いつの間にか


ヒナがいた。



地面にヒザをついたまま、彼女を見上げる。





オレを呼んでくれた 


透き通った声の主。






くっきりと形作られた眉の下から


黒曜石の瞳が


懐かしそうに、こちらを見てる。






そしてヒナの周りには、



ライブハウスで跳ねてい 黒服の少年達もいて、




皆で、オウジを取り囲んでいた。






洋一も、


あの狂ったナイフの少年も、




バンド仲間のジュンギも クロウも、ジンもいた。







「 ・・ オマエ等・・・ ? 」







よろけそうなその膝に 力を込めて立ち上がり、


オウジは、彼らに向きなおった。





自分を見つめてくる彼らの 眼の中に、



ギラついた禍々しい光は 


もう無い。







「ジュンギ・・・   


クロウ、  ジン・・。」






オレを裏切り者と罵って


ケンカ別れしたままのヤツ等の 忘れもしない顔、




やるせない波が、 今、


ここにある。




オレの心の中に居て、


じっとこちらを見つめてる。







「なんで ここに・・・」





「何で?  リクツが要んのかよ?」







ジュンギの声。



いつもちょっと投げやりで、だけど単刀直入な、


馴染みぶかい声。






「バ、バンド 組もうぜぃ?


オレ、バイトして ド、ドラムセット買うからよぉ!」





ドラムのクロウは、初めて会った時と同じセリフだ。




高くまで逆立てた髪の先が、


一言言うたび揺れて



いつもなんか憎めない空気を 作るヤツ。




そして、リーダーのジンも続けた。






「歌えよ、オウジ」






オウジは、小さく息をのんだ。




そう誘って来たあの時のジンの、


メンバー達のまなざしの奥に、



確かに輝いている 小さな星があったのだ。






そうだ。




そうだった・・  。







「 ホントに オレの中に 


  見てたのか・・?  



   希望を・・・?」







さびれた倉庫で 汗だくになりながら


リハを重ね、



あの熱気と狂気の渦を 共に創ってきた 


在日韓国人の 少年達。




オウジと彼等との間で、白い陽炎が 


ゆらゆらしてる。





それは同じ痛みを 分かち合って来た者同士の


シンパシーに、よく似てた。





ジュンギがフッと、ならず者らしく笑った。




いつもカッコツケなジュンギの、この上なくアイツらしい



オウジのスキな、仕草だった。






「希望だとォ?!」






オウジを囲んだ輪の外で、


黒い髪を逆立て ライダースジャケットを着た、


あの日のオウジが叫んだ。






「オマエ等みんな バカだろ!? 

アマっちょろいコト 言ってんじゃねえぞッ!!」






黒い服を着た少年達が、一斉にそちらを振り返る。





あの日のオウジは、まだ黒い霧に包まれ、


その体から 紅蓮の炎が立ち上っていた。






バンドのリーダーだったジンが


彼に向かって、踵を返した。





「な、なんだよ・・ッ」






ジンは落ち着き払ってる。




そして悠然と彼に歩み寄ると、


そのまま、ストン、と



あの日のオウジの体の中に、足を踏み入れた。






「え、えっ・・?!」






あの日のオウジが ギョッとした。



ジンが体丸ごと、自分の体の中に入ってきたのだ。





2人の周りを、


うす灰色の霧が、



無音のまま 弧を描いて、舞った。






「わっ・・  

お、おい ジン・・ッ!?」






あの日のオウジが戸惑い、


手で体中を探って


自分と同じ空間に重なっているジンを、探してる。





やがてジンの体は、



オウジの体に 子ども等が溶けて行ったように


徐々に、透け始めた。





「うわっ・・!」





何が起きたのか理解できてない、


あの日のオウジの中で




ジンは安らかな表情かおのまま 


ただ、 静かに消えて行った。





すると、黒服の少年たちも、ひとり 


またひとりと



あの日のオウジに 歩み寄って来た。





身構える黒いライダースのオウジの体に、



今度はジュンギが、


ずん、と足を踏み入れた。






「お、おいっジュンギ・・!」






ジュンギがあの日のオウジに重なると、



次にクロウが、いつもの軽い足取りで 続いた。




そして洋一も 




ナイフの少年も。






彼らの瞳は、みな


オウジに恋をして。 憧れて。





銀髪のオウジは、ただそれを見ていた。






ひとり、


そしてまたひとりと、


あの日のオウジの体に 踏み込んで、




彼の中に溶けて行くたびに、



そのオウジの周りから


どす黒いオーラが



空に向かって ぼうっ・・と舞い上がり、




そして、消えて行く。






「う、うあっ・・  

なに、 何だってんだよ・・!」






黒いライダースのあの日のオウジは、


混乱するばかりだ。






「 しょーがねぇなぁ・・・。 」







オウジはボソリと呟くと、




その重く固いミリタリーブーツで 一歩踏み出し



ゆっくりと、彼に向かって歩み寄った。





黒髪を逆立てたライダースのオウジが、



追い詰められた子どものように


オウジを見返す。






じっと互いの眼を 見つめ合った。






彼の中にある、 


怒り 淋しさ 怖れ 孤独。



それを覆い隠すための、頑なな 




メタリックのプライド。







「オマエはオレだ、  リ・オウジ」







痛いほどわかる。


これがオレだ。




世界にたったひとりの、



切っても切れない自分。






オウジは左手を差し出すと、


彼の頬にそっと手を当てた。




黒のライダースジャケットのオウジが、


ビクリと、おびえた子どもの顔をした。






「なっ、 何しやが る・・ッ!」






“伝説のロッカー”も、



少年たちが崇める カリスマも 




どこにも居やしない。







「オマエも見たろ?」




「何・・ 何を?!」




「オマエの中に入ってきた、ヤツ等の目・・」




「・・・目・・?」






「ジンもジュンギも  クロウも・・


あのイカレたナイフ野郎も、 

名前も知らねえヤツ等もさ・・、



みんな自分の意思で、オマエの


・・オレの中に、入ってった。




憧れとか 共感とか、夢とか


抱きながら・・



オマエの中に溶けて ひとつんなっただろ?」





「し・・ 知るかよそんな事! アイツ等が勝手に・・!」





「オマエに・・ 


オレにそんな価値があんのかなんて、知んねーよ。

でも・・」





オウジは、そのまますうっと 彼の体に一歩踏み入れた。





「よ、よせっ!!」






あの日のオウジが、体を固くこわばらせ後ずさったが


彼はもう、


オウジに捕らえられていた。





2人のオウジが 重なる。







「オマエがオレを ココまで連れて来たんだよな?」






戸惑いも、虚栄心も、哀しさも 怖れも。




オウジはそっとそれを




自分自身を、


抱きしめた。






「な・・  

何しやがんだ・・ッ!」






黒のライダースのオウジは、眼を見開いたまま


金縛りになった。






「オマエはホントに 情けねーヤツだ・・・



ちっぽけで、

弱っちークセにイキがって 


ホンット 


どーしよーーもねえよ・・。



でも  オマエがいたからここまで来れた。



オレは、



なんとか 生きて来れたんだよな・・?」





「・・・!」






黒いライダースを来たオウジのカオが、


一瞬 泣きそうに歪んだ。






「“サンキュ”とか

ガラじゃねーから 言わねーけどよ。」






想いが 暖かな血となって



オウジの体に流れ出す。





2人のオウジの重なった胸の その冷たさを


ゆっくりゆっくりと包みこみ





洗い流していくように。






やがて


あの日のオウジの体は 色素を失い、




透明になり始めた。





今度はあの日のオウジが、


オウジの中に 溶けてゆく番なのだ。






怖れの闇が、みるみる力を失ってゆく。







「オマエはオレで  

オレはオマエだ。」






オウジが彼に そう呟いた。






「オレはオマエだ。 

リ・オウジ・・・」





彼も、オウジにそう応えた。





その声はもう、怯え、



自分自身の無価値観に 


押しつぶされそうになっているモノの

 

それではなく。





どす黒いオーラはどこかに消散し、



ゆらめく炎だけが



2人のオウジを、静やかに包んでた。






切り離しては 生きられない。






生きる痛みを 捨ててしまえば、



喜びもまた 生きられなくなってしまうから。






バラバラに切り離されていたオウジが、


オウジの中に戻ってくる。





2人のオウジが重なった胸の


漆黒のがらんどうを 創りあげていた闇に





小さな光が生まれた。





その光は


乳白色の



砂金の輝きとなって 



きめ細やかに 広がっていく。





2人のオウジは、 



静寂の中で それを見ていた。






まるで果てしもなかった 


心の暗闇。





でもそれは、


オセロのコマの 表裏みたいだ。






ひっくり返してしまえば 


それは ただただ広がり続ける 




乳白色の  空なんだ。







無限に広がってゆく 


白い空に包まれて




髪を逆立て、黒いライダースを着た あの日のオウジは




オウジの中に 




すっかり 溶けて居なくなった。







―― オレをココまで連れてくるために 


オレが作り出した 漆黒やみならば





  そもそも闇なんて 


 存在しなかったんだ・・。





そうだろ?  


伝説のオウジ・・?









オレは リ・オウジ。



ただの 


リ・オウジだ。  




それでいい。






オウジは自分の腕で、自分を抱きしめていた。








やがてオウジの周りでも、


景色が変わり始めた。





黒やグレーのモヤは、すっかり姿を消し



乳白色の空にうっすらと




7色の光が グラデーションした彩雲を作ってる。






―― これ・・





オウジの目は、ぼんやりとそれを思い出す。







――カイが描いた 天使の空みたいだ・・。







---------------------------------To be continued!


このお話はフィクションであり、設定は1980年代NYです。

なお、本作は作者本人により「イースト・セブンス・ストリート ~NYの夢追い人~」として、以前アメブロに掲載されていたものです。

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