そして憤りは晴らされる前編
長くなってしまったので前編後編に分けてお送りさせていただきます。
ご指摘いただいた誤字を直しました。
あのアーチェリーの大会の後、私は早乙女先生、佐賀部長の2人に支えられながら一度、鳴神高校に戻ることになった。今日あった出来事を理事長・校長に伝え、正式に青葉高校に抗議するためだ。
部長と先生は私のあまりの憔悴振りに自宅に帰ることを勧めてくれたが、私は自分の口から大会に出れなかった部員に結果を伝えたかった為、心配してくれる2人に申し訳ないが一緒に学校に戻ることにしたのだ。
学校についた私達は別々に分かれた。早乙女先生は職員室に、私と佐賀部長は部室に。
部室に戻った私は部屋に備え付けてある組み立て椅子に腰掛け、佐賀部長は冷蔵庫(職員室と保健室にしかないはずだか、この部室には何故かある)から飲み物を持ってきてくれた。
「最上、本当に大丈夫か?帰った方が良かったんじゃないか」
心配そうに声をかけてくれる佐賀部長に、私は毅然と答えた。
「大丈夫です。私は、どうしても自分の口からみんなに伝えたいんです。今日の本戦に出場出来たのは私と部長の2人だけ…………予選で落ちたみんなの期待を背負っていたのに、部長と違い、私は結果を残せなかった。だからせめて、ケジメをつけたいんです」
「…………別に、お前の責任じゃないし、お前のせいでも無いだろ?むしろ被害者だ。そこまで気負う必要はないんだぞ?」
私を痛ましそうに見る佐賀部長に私は緩く首を横に振るった、その時だった。
バァァアン!!
すごい勢いをつけて部室のドアが開かれた。
「「!!!??」」
驚いた私達は部室に悠然と入ってきた人を、呆然とした面持ちで迎えた。
「……佐賀くんはともかくとして、由緒ちゃん?君はなんでこんな所にいるのかな?」
現れたのはアーチェリー部副部長、高瀬 春奈。
いつも明るく面倒見の良い彼女から放たれた言葉に、由緒は硬直した。
顔はにこやかだが、目が笑っていない。
「春奈!おま、最上になに言ってやがんだ!!」
すぐさま激昂した部長に…………顔と声 だ け 明るい高瀬副部長は答えた。
「私、そんなに怒るようなこと言ったかな?だって由緒ちゃん時間がないのにこんな所でのんびりしてるんだもん」
「「?」」
ん?時間がないとは、なんぞや???
佐賀部長と一緒に首を傾げる。
「えっと……高瀬副部長、時間がないとは?その………私に怒ってるんですよね………?」
「ん~??由緒ちゃんに怒ることなんてあったかな?」
「だって、私。その………大会」
言いにくそうに口ごもってしまう由緒を尻目に副部長は、あぁ!と明るく答える。
「だってそれ由緒ちゃんのせいじゃないでしょ。気にしない気にしない!」
………怖い。何故か分からないが本当に怖い。あれ?私に怒ってない??ならその背筋が凍るほどの冷気はなんですか高瀬副部長?怒ってないって説得力がないですよ!?佐賀部長なんて顔引きつっちゃって顔色悪くなってますよ!!
「やだな~。由緒ちゃんには本当に怒ってないよ?でも、由緒ちゃんの弓を壊した子には怒っているだけで……」
私のために怒ってくださりありがとうございます。お気持ちは嬉しいです。嬉しいんですが、とてつもなく怖いんでその末恐ろしい笑顔と冷気を仕舞ってください。お願いします!!(心の中で土下座)
「………ブラック春が降臨してる」
ボソッと小さな声で佐賀部長が呟いた。………ブラック春てなんですか。
「て、時間がないんだった。ほらほら由緒ちゃん支度して、早く行くよ!」
「い、行くってどこに!?」
「おい、春奈!」
高瀬副部長は笑って。
「スポーツ用具店」
そして高瀬副部長は私と、佐賀部長も巻き込んでスポーツ用具店に連行された。
高瀬副部長曰わく。
『別にオリンピックの選手に選ばれる功績って国内だけじゃなくてもいいよね?8月にイギリスでそこそこ大きな大会があるらしいから由緒ちゃんちょっと挑戦してみようか。目指せ!上位入賞!!あっ。パスポートある?持ってる?あぁ、良かった。それじゃあ早速、弓を買いに行こうか。えっ?学校??大丈夫大丈夫。理事長も校長先生も承知してるから。学業に関しては後で特別課題を出すからそれやってて。先生達も学校のブランドが上がる機会をそうそう不意にしないよ』
ニコニコ身も蓋もない学校の裏事情を話す高瀬副部長は、安心して。と。
『由緒ちゃんの弓を壊した犯人の子は私と佐賀くんが伝手を総動員させて引きず………探し出すから。だから由緒ちゃんは安心してイギリスの大会に臨んでね?新しい弓に慣れる為の訓練法は私が責任持って作っておいたから。後、室内でも練習出来るようにゴム紐持って行って。私の訓練法を実践すればきっと新しい弓でも全力で出来るよ!結果だしてね♡」
え~と、あの~すみません、高瀬副部長。ツッコミどころが多すぎなんですけど!?しかも所々なんか怖いこと言ってますよ!つか、今日は全体的に高瀬副部長怖いですから(泣)!!
弓は買いましたけど、パスポート自体は家にありますし。先生達がイギリスに行くのを賛成してくれていても両親に話ししないと………て、えっ?高瀬副部長がすでに家に電話して許可をもらった?母が今、私の荷物を作ってくれてる?ちょっと待ってください!いつのまに!?いつ電話して………部室にくる前に職員室帰りの早乙女先生を捕まえた時に?当の早乙女先生は私の荷物を取りに家に向かった?いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!だから待ってください!そもそもなんで高瀬副部長が私が話す前に今回の事情を詳しく知っているんですか!!?
…………佐賀部長が高瀬副部長にだけ先にスマホで連絡したからって………佐賀部長、すまん、て言って顔を背けないでくれませんか!?諦めろっていったい何を!!!??
ピロリロリン♪
高瀬副部長のスマホから軽快な音楽が流れた。どうやら誰かから連絡が入ったらしい。
「早乙女先生が下に着いたって。由緒ちゃん早く行こう?今日の最終の便に間に合わなくなっちゃうよ?」
「私、今日立つんですか!?」
「…………最上、強く生きろよ。大会、頑張ってこい………」
だから視線を反らしながら言うなよ、佐賀部長!
こうして私は鳴神高校の先生方と両親の賛成をもぎ取った高瀬副部長の主導のもと、異国の空へと旅立って行ったのだった…………。
●○●○●○●○
イギリスの大会で、見事上位入賞を果たした私は意気揚々と日本に帰国した。
………大変だった。いやほんと大変だった。いきなりイギリスに行ったことではない。高瀬副部長に渡された特製訓練法のキツさが大変だった。副部長の『結果だしてね♡』を思い出して死ぬ気でやったらどうにかなったから良かったものの────その結果、私はこの夏でかなり痩せたけど。
「お帰り、由緒」
「由緒ちゃんお帰り~上位入賞おめでとう!」
「ヒィ!!」
空港に迎えに来てくれた母さんと、車の助手席から高瀬副部長が満面の笑みで降りてきた。
思わず悲鳴上げちゃったよ………。
「ん~ん~?今の悲鳴はなにかな由緒ちゃん?」
「イエ、ナンデモアリマセン。タダイマカエリマシタ」
「片言になってるわよ。由緒」
突っ込まないでくれ、母さん。
私のトランクを車に乗せつつ、どうして高瀬副部長がここにいるのかな聞いてみたら。
「由緒ちゃんを拉致しに来ました☆」
帰国早々旅立ちたくなった。
「由緒ちゃん」
不意に、高瀬副部長は真剣な顔をして私を真っ直ぐに見つめる。
「見つけたよ。由緒ちゃん。君の弓を壊した青葉高校の女子高生。明日、佐賀くんと一緒に会いに行こう」
その時、自分がどんな顔をしていたのか判らない。でも、きっと─────。
「………分かりました、高瀬副部長。こちらこそよろしくお願いします」
溢れ出さんばかりの怒りに満ちた顔をしていたんだと思う。
そして翌日。
1人歩いてくる青葉高校の制服を纏った女子高生の前に私は歩き出した。その後を佐賀部長と高瀬副部長が一緒について来てくれている。
「由緒ちゃん。この子で合ってる?知り合いに片っ端から聞いて調べてみたんだけど……?」
「わざわざ調べてもらってありがとうございます。高瀬副部長。はい、間違いありません。この人です」
「コイツが最上の弓を割った奴か、でかした春奈」
「ひっどいな~佐賀くん。私のこと信用してなかったの?」
私はどうやらとても怖い顔をしているみたいだ。寿 エリナ。佐賀部長と高瀬副部長が調べてくれた私の弓を折りやがった彼女の名前だ。
「さて、ちょっと私達と話し合おうか。私もアナタには聞きたいことが色々あるし」
逃がさないよ。
寿 エリナはキッと私を睨みつけてくる。良い根性である。私も手を抜かずにやってやる。私がイギリスに行っている間、佐賀部長と高瀬副部長は私のために調べてくれた証言と証拠。
いや、2人だけではない。今度のことで迷惑を被った人はまだまだいるんだ。
自分が何をやったか、思い知らせてやる。
いっそ連載に直してしまおうかと思う今日この頃。
後編、そう遠くない内に書き上げます。
ところで高瀬副部長は何者なのでしょうね(゜ロ゜;)