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五歳児の私が魔法の絵本に吸い込まれたら地の文と会話できて色々面白いから勢いで世界を変える!  作者: アオイ
第1章 『おとぎのせかいに来てみたら地の文と会話できるようになったから、やたらめったらお願い事をしてみた。そしたら地の文を幼女にすることができた』
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『ぶえなす たるです !』

ここは絵本の世界。

 ある一人の少女が愛してやまない絵本の中。

 作者の名前がどこにも書かれていないから、この白い天空や、クレパスで描かれたような大地を、どのような気持ちで創造したのかは、誰もわからない。

 でも、この世界は十分に魅力的だよ。

 君たちが見た事のないような生き物だって、出てくるかもしれない。

「へー。そうなんだぁ」

 そうなんです。ここは絵本の世界。かわいい物はもちろん、怖い物だってウヨウヨいるかもしれない。

 とても魅力的な場所なんです。

 そんな世界に迷い込んだのは、うら若き少女のクリスティア。

 豊かに伸びた金髪に、前髪は斜めに分けられ、大きな青い瞳をぱっちりと映えさせている。彼女の身体を包むのは、明るいピンクをベースにしたキャミソールドレス。花の模様で可愛く装飾されたドレスは、娘の豊満な胸を艶やかに隠す。いっぱいの白い光を、露出させた両肩に受け、クリスティアは大人の色気を醸し出していた。

 しかし、それもこの世界、魔法の絵本の中での姿。

 彼女の正体は五歳児、いわゆる幼女なのだ。

 見た目は若く可憐な少女でも、中身は五歳児。だから、彼女の立ち振る舞いはすこぶる子供っぽいのだ。

「たのしいね!」

と、クリスティアは大きく腕を伸ばして、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

 楽しいか楽しくないかは、あなた次第……って、え?

「ぶえなすたるです! めじゃも くりすてぃあ! えんかんたーだ!」

 Buenas tardes. Me llamo ……って、どゆこと?

 何がどうなってるの?

 私は地の文。

 この世界を「」の中以外司る存在。

 だから、私の事を意識できるのはこの世界の《外側の者》だけのはず。

 たとえば、《君》の事ね。

「じのぶ君ね! 私の事はクリちゃんって呼んでいいよ!」

 ああ、そうなんですか……ではクリちゃん、よろしくね。

 って、だからどうして、此の子は私と会話をしているの?

「みてみて、このお草、手の中で溶けちゃうよ!」

 ええい、もうういいや。私は私の仕事をするまで!

 クリスティアはクレパスで描かれたような緑色の草を親指と人指し指で擦る。

 すると、草は指の間でチョコのように溶け出し、幼き指に色を残して消えてしまった。

「だから! クリちゃんでいいよっ」

 クリスティアが頬を膨らませる。大きな胸をたゆんと揺らし、明後日の方向に指を指して言った。

「じのぶ君、さっきから誰とお話ししてるの? 私も混ぜてよ!」

 レースの付いた下着がちらつく。

 クリスティアはスカートをふわっと翻してしゃがみ込むと、いじけるように地面に落書きを始めた。

「いいもん。クリちゃん、一人で遊ぶから」

 うん。なんか仕事をしにくいぞ、この空気。

 私はこの世界の神様と言ってもいい存在のはず。

 なのに、なぜか一人の少女の事を無視する事ができない。

 やろうと思えば、今すぐにでも彼女を《この世界から消す事》だってできるのに。

 たとえばこんなふうに。


 クリスティアは立ち上がると、おっぱいをタユタユさせながら走り去ってしまいました。


「じのぶ君、さっきからブツブツ言ってるけど、なんかイケない言葉も混じってない?」

 クリスティアは立ち上がると、誰もいないところをじっと見つめて口を尖らせた。

 って、あれ?

 今私が彼女をどこか知らないところにダッシュさせたはずなのに……。

 どうなっとるんじゃ?

「あ、なんか私の身体、マミーみたいになってる!」

 そういうクリスティアは、自身の身体をまじまじと眺めるとペタペタと触りだした。

 張りのいい様々な部位が、ぽにゅんと波打つ。

 そしてふんわりと柔らかいスカートを持ち上げると、自身が履いている物に目を光らせた。

 なんてけしからん娘なのだろう。

 ごくり、地の文でよかったぁ!

「なんでこんなカッコーになっちゃったのかな?」

 クリスティアは首を傾げると、自分の胸を揉みながらニヤけた。

「まあいいや! 可愛いし! 気持ちいし!」

 少女はその場に寝転がると、猫のように身体を回転させる。草を跳ね上げ、どこまでも回った。

「ねえ、そろそろ帰りたいの」

 回り疲れたクリスティアは、ふらふらと立ち上がると呟いた。

「呟いたんじゃないわ! じのぶ君に言ったの!」

 どうやら私に言ったみたいです、はい。

 よくわからいけれど、一応返事をしてみましょうか。

 そもそも、クリちゃんはどのようにしてこの世界にやってきたのかな?

「知らないよぉ、そんなの。じのぶ君のせいでしょ?」

 げげぇ~。なんか私のせいにされちゃったんですけど?

 私が悪者みたいになっちゃうんですけど?

 でもでも、本当に私は何もしていないんですけどぉ~。

「そうなの? ごめんね、泣かないで」

 クリスティアの瞳が揺れる。

 〈~記号〉を使ってしまった自分が恥ずかしくなる。

 泣いてないよ、大丈夫だから! だからいじけないで!

 少女は頷き、金髪にこびり付いた緑色を払うと、辺りを見回しながら寂しそうに言う。

「どうやったら、お家に帰れるのかな?」

 さっき私が〈地の文の力〉で彼女を遠くに走らせてみたはずなのに、全く効果が発揮されていなかった。

 だからおそらく、今私が力を使って彼女を家に帰らせることは不可能なのだ。

 今にも泣き出しそうな哀愁を背中に漂わせるクリスティアをこうして描写していると、何かしてやりたいと思うのが情である。

 一か八かの作戦だが、地の文の世界では王道な《あの手》を使ってみよう。


 この魔法の世界には、香りのいい風が吹いています。

 でも、その風は一本道の上にしか吹いていません。

 その風というのは、今クリスティアが立っているところから三歩前に進んだところにあります。

 クリスティアはその風の流れる先を辿ることで、きっとおうちに戻る鍵を見つけることができるでしょう。


「そうなの?」


 けれども幻想世界は生ぬるくはありません。

 大きな試練を乗り越えなければならないのです。

 それでは、その説明を美人な優しい魔女に分かりやすく教えてもらいましょう。


「こんにちは、お嬢ちゃま」

 クリスティアの目の前に、絵に描いたようなボッキュッボンの女性が現れる。

 彼女は私が呼び出した、優しい魔女のエリババ。

「エリババおねえさん、こんにちは!」

「あら、まだ自己紹介してないのに」

「じのぶ君が教えてくれたよ!」

「じのぶ君?」

 エリババは人差し指を顎に乗せて辺りを見回した。

 当然、誰もいない。なぜなら私が描写をしていないから。

「まあ、いいわ。今はあなたに試練の説明をすることが先。それじゃあ、説明するからしっかり聞いてね」

「はーい!」

「いい返事ね。それじゃあ、まず結論から。お嬢ちゃまには〈トランプのクッキー〉〈ネコの飴〉〈時計のバームクーヘン〉〈魔女の手作りグミ〉を食べてもらうわ」

「わーい! ちょうちょダァー」

 魔女の膝から力が抜け落ちる。

 クリスティアは元気良く手を挙げ返事をしたそばから、ひらひらと空を舞う、クレパスで描いたような黄色い蝶々を追いかけていたのだった。

 大丈夫かしらと、額に汗を垂れ流す魔女は何処からか杖を取り出すと、駆け回る少女に向かって一振り。

「身体がういたよ! わーい!」

 少し桃色がかったパンツを丸出して宙に浮かぶクリスティアを杖によって引き寄せる。

 今度は逃さないようにと魔女はその胸にぎゅっと抱いた。

「いい? さっき私が言ったことはわかった?」

「うん! お菓子を食べてくればいいんでしょう?」

 少女が意外と話を聞いていたことにビックリするエリババ。

 小さく咳き込むと、

「そうね。でも、そのお菓子は簡単には手に入らないの。所有者とお友達になって、お菓子を貰わないといけないのよ。とっても難しいでしょ?」

「わかった! もらってくる!」

 胸の間で元気良く動く少女。

 エリババは少し心配そうな顔をしながら少女を解放すると、口辺を持ち上げた。

「一応、これで説明はお終い。もっと動揺させてしてしまうものだと思っていたけれど」

「ありがとう! エリババおねえさん! 楽しかった!」

 無垢な笑顔で白い歯を見せるクリスティア。

 優しい魔女のエリババはつられて胸を温かくした。

 ――あなたなら、きっと大丈夫ね

 彼女は少女に手を振ると、キスを投げ掛けてパッと消えていった。

 魔女が消えてしまうと、少しの間クリスティアはしゅんと肩を落としてしまった。

 けれども、何かを決心したかのように顔を持ち上げると、彼女は腕を空高く開いてみせたのだった。

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