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超人的兄とブラコン天使  作者: 海葉火奈威
第一部 ~春の憂鬱~
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4月6日 再開する心労生活

「おっはよ~♪」


との声と共にドアが荒っぽく開かれた。その音に目を覚ましてドアに顔を向けると、今にも飛び付かんとする鈴が視界の端に入った。


「………よっと」


俺は右手で飛び込んできた鈴の顔を鷲掴むと、そのまま床へ投げ棄てた。鈴が地面に落下した音がする。しっかし、おかしいな。今までのドア鍵は鈴がピッキングするの慣れちったから、昨日新しい鍵を取り付けたんだが。………もう開け方がわかったのか?


「おい、鈴」


「ぃ……た~~。ん?何、お兄ちゃん?」


鈴が肩を擦りながら顔を向けた。肩から落ちたらしい。


「鍵はどうした?」


「鍵?そんなの決まってんじゃん」


鈴はそう言ってヘアピンを見せた。……余計はおかしいな。そんなチンケな物で開かないような鍵にしたはずだが…………。


「そんなことより、お兄ちゃん」


ヘアピンごときでピッキングした事を“そんなこと”で済ますお前のその根性は凄いよ。


「早く朝ごはん食べて学校に行こ。今日からまた同じ学校に行けるだよ♪」


今日からまた俺の心労生活が始まると言うわけね。


「じゃあ早く来てね。置いてっちゃうよ♪」


ぜひそうしていただきたい。と、言ってもあんまり時間ないし、それにどんなに遅らせても待ってるからな。無駄な足掻きはしない。


「はいはい、着替えるから先行ってな」



*



着替えを終えて一階に行くと、誰もいないテーブルにトーストとコーヒーが一組置いてあった。


この家の大人は忙しい。義父は大手CPの開発会社で課長を務めており、ほとんど家にいない。義母は凄腕の弁護士で家にいたりいなかったりだが、基本的に家にはいない。


そのため、家事は俺と鈴の二人でする事が多い。が、朝は大体俺は寝ているため、鈴が朝食を作る。鈴は料理上手いんだが、楽で済むならそれを優先する。だから大抵朝ごはんはトーストにコーヒーとなる。


「まぁ、朝からそんな食えねぇし。いいんだけどさ」


誰かに言う訳でもなく言うと、トーストをかじった。



*



「お兄ちゃん遅~~~い」


ドアを開けたと同時に鈴が不満気な様子で見上げてきた。


想定内の事象だ。いちいち相手する必要もないだろう。俺を見つめてくる鈴をスルーすると、柱に寄り掛かっている麗に声をかけた。


「おはよう、麗。待たせたな」


「おはよう。そうだな~。待たされた事についてはまぁ、許してやろう」


「私をスルーするな~~」


さて、あんまり時間喰ってる暇はないな。さっさと行くとしよう。


「麗、さっさと行くぞ」


「そうだな、走らずに済むように早く行く事にするか」


「ぐすん、無視は立派ないじめだよ~」


鈴が突然顔を覆って、鼻声になった。まぁ、どうせ泣き真似だろうが、このモードに入ってほっとくと後々面倒なんだよな。はぁ~あ、相手してやるか。


「ほら、鈴。行くぞ」


そう言って手を差し出してやる。そうすると目をキラキラさせて飛び付いてきた。あぁ、鬱陶しい。そして面倒くさい。


「改めて、行くか」


「おぉ」


「お~♪」



*



「じゃあね、お兄ちゃん。また昼休みに行くから♪」


昇降口に着くと、鈴と別れた。頼むから来ないでくれ。


「相変わらずなつかれてんな」


「鬱陶しいだけだ…………ん?」


下駄箱の中に一通の手紙が入っていた。


「はぁ…………。麗、いるか?」


「ん?あーまたそれかよ。いらねーよ。自分で処理しろ」


麗が心底呆れたようにそっぽ向いてしまった。だけどさ、自分で処理しろったってさ、高校入ってからこれで51通目だぜ。面倒になってくるさ。いい加減に。


「あ~。もう全校放送で言ってやるか?俺は誰の誘いも乗らないと」


「いいんじゃね~の。女子が放送やってる時にお前が貸してって言えば出来るだろうよ」


なんかだんだん麗の声に“怨念”みたいのが込もってきてる気がすんだが。気のせいだろうか。


「まぁそれは冗談として、早く教室行こうぜ。部活の連中が来て絡まれる前にさ」


「そうだな。“お前”は絡まれるだろうからな。早く行きたいよな」


あぁ、だめだこりゃ。完全に拗ねてる。でもな、部活の連中はお前も目当てだと思うんだが。俺より麗のが落とし易そう、て言ってたし。


「ほら、拗ねてねえで行くぞ。言っとくけどお前も絡まれっぞ。そこにいっと」


「そうだよな、お前がいなけりゃ俺が絡まれるよな。……あれ?そうか、俺も絡まれるのか。俺も絡まれるくらい凄いのか、そうなのか…………ふ、ふはははははは」


もういいや。バカはほっとこう。どうせ後で息をきらせて「大変だったんだぞ、この野郎」とか言ってくるだろう。先に教室に行って自業自得だろと言う準備でもしておこう。


「先に行ってるぞ」


階段に足を掛けながら最後の確認を取る。


「おう!先に行っててくれ!」


うん。もう知らない。頑張って勧誘の手から逃れるがいい。


俺はさっさと教室に行く。


「あら、椎奈君」


と突然背後から女性の声がした。


「あ、会長」


この学校を指揮する学校をトップ、麻槝生徒会長だった。ちなみにこの学校を指揮すると言うのは大袈裟な表現ではない。体育祭や文化祭、修学旅行などの行事の決定権や定期試験の範囲の決定権まで保有している。理由としては、教師がするより彼女がした方が遥かに合理的だからだ。………色々とおかしいな。


「ちょうど良かったわ。椎奈君に頼みたい事があったの」


スーパー生徒会長直々の頼み?なんだろう。


「昨日副会長が事故ってね、入院しちゃったのよ。だからしばらく代理をして欲しいの」


これは、上手いことやれば鈴から逃げられるか。


「下校時間はどのくらいになりますか?」


「時と場合はよるけど、大体6時半~7時半くらいね。遅い時は9時になる事もあるけど」


最短6時半か。多分、充分だろう。


「しばらくってどのくらいの期間ですか?」


「そうね~。1~2ヶ月くらいかしら」


最低一月は下校地獄から逃げられるか。妥当だな。


「わかりました。頼まれましょう」


「ありがとう。じゃあ放課後、生徒会室で会いましょう」


よし、後は鈴に麗と帰らせるように言うだけだな。


俺の胃に穴が空くのは、負担が1つ減った事でしばらく防げそうだ。


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