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超人的兄とブラコン天使  作者: 海葉火奈威
第一部 ~春の憂鬱~
3/7

4月5日 二人の登校劇

「はぁ~………」

俺……海流(かいる)は普段の倍重い足取りで通学路を歩いている。


特に学校が吹き飛ぶ事もなく今日、入学式の日を迎えてしまった。


今日こそいいが、恐らく明日からあいつと学校へ向かうことになるだろう。


そう思うと背中に寒気が走った。


偽りの愛情ほどうざったいモノはない。

「お、(かい)じゃん。はよー」


うつむきながら歩く俺の背中から声がかけられた。

「おぉ、はよー、な。(れい)

後ろから来たのは中谷(なかや) 麗樹(れいき)と言い、小、中、高と全て同じクラスという、もはや神の気まぐれと言わざるを得ないレベルの腐れ縁だ。また、俺が唯一“友達”と認めた人でもある。


「どした?ずいぶんとだるそうだな?」


「あぁ。今日が何の日かわかるか?」


「え?そりゃ入学し…………」


と言ったところで俺がだるそうにしている理由がわかったようだ。


「で、お前さんは明日からの日々に憂鬱していたところか」


おぉ、さすが我が唯一の友だ。

言わずとも全てを理解してしまった。


「………でもさ」


「ん?」


何かあるのだろか?

(すず)ちゃんがお前に向けてる愛は本物だと思うぞ」


なんだ。その話か。


「麗。前にも言ったが、偽りの家族ほど信用できないモノはない」


これは何があっても揺らぐ事はないだろう。誰よりも俺は知っている。本当の家族でない者に向けられる目を。


「あのな、俺もお前に何度も言ってるが、気づかないのか?鈴ちゃんがお前に引っ付いて時の幸せそうなと言うか、ピンクと言うか、そんなオーラを」


「それについても何度も言ってるはずだ。仮にそうだとしても、どうせそれも偽りのオーラだ。からかっているんだろう」


「いや、偽りなら……」


「はい!もうこの話は終わり!」


この話題だけは麗と意見が合ったことがない。俺は何があっても他人、それも特に偽りの家族を信じる事は絶対にない。


「なんだよ………。まぁ、いいけど」


「そうそう。それよりも、このペースだと遅刻するぞ」


「えっ。あっ、マジだ。ぅおっし、走るか!」


麗はそう言うが早いか走りだした。


ほんの数秒の内に何十メーターも距離が空いた。

さすがに校内でもトップクラスの脚力を持つだけある。


「だけど………」


重心を前に傾ける。


「よ~い、ドン」

そう口遊(くちずさ)むと思いっきり地面を蹴り出した。

麗との差が一瞬にして詰まっていく。


俺の足音に気づいて振り返った麗の顔が、眼前に迫る俺を見て引きつった。


「ホントお前のその脚力はなんなんだーーーー!!!」


麗はそう叫ぶと更に加速した。まるで肉食動物から無防備で逃げる人間のように。


100mを10秒台前半で走る麗の走力だ。その速度は並みの高校生では、まず捉えられないだろう。


だが、


「フッ。短・中・長、どれにおいても貴様に負けた覚えはない!」


俺も更に加速する。


ちなみに俺の100mのタイムは若干流しで走って10秒フラット。

日本人相手なら誰にも負けない(キリッ)。


一瞬にして麗との差を更に詰め、麗と並んだ。


「くっ。だが俺にも意地がある。今日こそお前に(くぁ)ーーつ!!」


麗が更に加速する。

いまなら100mを9秒台で走るんじゃないかと思うくらいの速度だ。


しかし、俺も麗をしっかりと捉え、差をまったくつけさせない。こいつごときに負ける訳にはいかない。


そうこうしている内に前方100m先に校門が見えてきた。

あそこに先に飛び込めば俺の不敗記録が守られる。


「ふっ」


隣の麗がほくそ笑った。


「悪いな。海。今までの俺ならここからのスパートで振りきられていた。だが、今日の俺は違う」


「………なにがだ?」


その言葉は数え切れない程聞いてきたんだが、


「ふっふっふっ。今日、俺は家を出る前にリ○ビタンDを飲んできた!」


「……………は?」


アホか?こいつは。朝っぱらから栄養ドリンクを飲んでもしゃあないと思うんだが。


「エネチャージした俺が負ける訳など、ない!!!」


そう宣言して麗はスパートをかけた。


………正直、普段のスパートと何ら変わりはない。


てかエネチャージに何?

車のやつを言ってんなら余計に意味不なんだが。あれは車が減速するときに充電する機能だぞ。


「しかし、あの頭でよくここに入っ、たな!」


俺もスパートをかける。


麗との差は一瞬で消滅し、次の瞬間には追い抜いた。


「な!お前、まさか、オロ○ミンCを………」


「朝っぱらから飲むか!」


後ろから聞こえる麗の言葉にツッコミながら校門を駆け抜ける。


麗がアレな限り、俺の不敗神話が破られることは未来永刧ないだろう。


少し遅れて後ろに何かが崩れ落ちる音がした。


「はぁ、はぁ、はぁ。くっそ。俺はお前に勝つことはできない、のか!!」


ぜー、ぜー、と肩で息をしながら麗が周りを気にした程度の音量で叫ぶ。


「悪いな。貴様ごときに負けてはられん」


「お前なぁっ!はー、はー、はー。てか何でお前は、息ひとつ乱してねぇんだよ。はー、はー。本当に人間か!」


人を指さすな。


と言うかあの距離をほぼ全力で走り切ったお前も充分、人間離れしてると思うぞ。


やがて、息を整えた麗は腕時計を見て言った。


「たっく。お前と走っと早く着きすぎるな」


「いや、お前から走り出してからに。よく言うよ」


まぁ、確かに朝のショートホームルームまで20分以上ある。


「どうせ早く行っても入学式の準備に狩り出されるだけだ。購買にでも行って時間稼ごうぜ」


「そうだな。ただし、遅刻しない程度にな」


一度巻き込まれた経験から釘を刺しておく。

麗は苦笑すると、ゆっくりと購買へ歩き出した。










この日、ホームルームの二分前に廊下をスピード違反をして注意された生徒が二人いたらしい。

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