コウの視点シリーズ 昼編「平和な午後」
ふあーあ。
木漏れ日が気持ちいいなー。
あ、よく来たなあ、お前ら。ちょっとそこに座れよー、気持ちいいからー。ん? 何だよ、暑いって? それじゃあ仕方ねえなあ。
おいらは今、窓辺の陽だまりで昼寝してる。
親分は部屋の隅にあるテーブルで、啓介とピアスと三人で果物を食べながらお喋りに興じている。
この二人のすごいところは、無愛想がほとんどの親分を笑顔に出来るってところだ。
いいなあ、羨ましい。おいらにもそんな風に笑って欲しいなあ。親分って、なんでいっつも、面倒くさそうにおいらを見るんだろ。失礼しちゃうよな。
あ、でも今、どん引きって顔してる。
どれどれ、何の話をしてるんだろう?
「啓介、お前、何が楽しくて幽霊好きなの? これだけはちっとも理解出来ねえんだけど、俺」
「ロマンに決まってるだろ! ピアスは幽霊って見た事ある?」
「え? あるわよ、もちろん。私、猫の霊と契約してるから」
どうやら啓介がまた怪談話をしていたらしい。
何がロマンなんだろう、訳わかんねえや。
だって霊やら精霊やら、その辺に普通にうようよいるじゃねえか。ほら、今だって、窓の向こうから手を振ってる。
「ウォンッ!」
おいらは窓の向こうに浮かんでいる女の子の霊に挨拶を返した。霊はにっこり笑い、去っていった。
ときどき嫌な霊もいるからなあ。
おいらはそういうのからも親分を守ってるんだぜ!
「うわっ、え、何で今、ほえた? 外に向かって」
幽霊の話をしていたからだろう、親分があからさまに怖気づいた態度でおいらと窓を見比べた。
そんな親分を面白がって、ピアスがにやりと笑う。
「幽霊でもいたんじゃない?」
「えっ、いいなあ、コウも幽霊が見えるのか? 動物ってそういうのが見えるって言うもんな。モンスターだけど、似たようなもんだよな?」
啓介が失礼なことを言った。
おいらと動物を一緒にするだなんて失礼な話だ。
動物は毒素を食べるっていう、神様からの使命なんてもらってない。世界を綺麗にしてるんだから、おいら達モンスターの方がよっぽど偉いんだぞ。
「そうねえ、確かに。どう見ても壁しかない方に向かって犬が吠えてるのを見ると、その辺にいるんだなって思うわよ。うふふ、やだ、シューター君。顔が真っ青。怖かったら、枕元に塩を置いて寝るといいわよ」
「効くっていうよな! で、塩がくすんだりすると、いたってことになるとか……」
「啓介、ピアス、それ以上はやめろ!」
修太がバシンとテーブルを叩くと、二人はそろって笑い始めた。
「ウォンオン!」
待てこらあ、お前ら、親分をいじめるんじゃねーっ! 幾らなでなでが上手くて遊んでくれるからって、おいらは許さないぞっ!
おいらが怒りをこめて吠えると、ピアスと啓介は顔を見合わせた。
「あら、コウに怒られちゃった」
「悪かったよ、コウ。お前の主人をからかって。――でも、幽霊はいると思うけど」
「最後の一言が余計だっ!」
部屋に親分の怒声が響いた。
おいらは落ち着きを取り戻し、また陽だまりに寝転がる。
ああ、今日も平和だ。
……end.